In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2018年1月) No.1197〜1205

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

9枚。
二桁を割ってしまった。まあ演劇を二本見に行ったり、聞く気にならなかったというのもあるのでしかたないか。こういう月もあるさ。聴いた音楽はわりとバラエティ豊か、だと思います。まあ雑多に聞いているだけですが。今月はもうちょっと積極的に聞きたいところですね。

というわけで以下より感想です。


First Impressions of Earth

First Impressions of Earth

・06年発表3rd。前作までのアートスクール出身っぽい線の細いサウンドが一気にマッシヴなロックサウンドへと変貌した一枚。全体的にハードなサウンドになっているが、一番顕著なのはファブ・モレッティのドラムが格段に進化したことだろう。リズムパターンが多彩になったことによる正当進化が本作だ。
デビュー当初からロックミュージックへの醒めた視線がこのバンドの特色になっていると思うが、その醒めた視線を携えたまま、ロックのダイナミズムを取り入れる事でより「表現手法」としてのロックへの興味のなさが露わとなっているように感じてしまう。ロックなのに反ロックという不思議な立ち位置。
なんというか徹底してデザインワークとしてしかロックを奏でていないから、返ってそのナンセンスさが際立った個性になっているのだと思う。そういう点ではここが臨界点で、以降の作品では別の「色」を取り込もうとして、試行錯誤しているように感じるか。その点では1stからの総決算的な良盤だと思う。

MAGICAL MYSTERY TOUR

MAGICAL MYSTERY TOUR

・67年発表9th。現在ではオリジナルアルバムとしてカウントされているが、発売当初は同名映画のサントラEP2枚組としてリリース。現在の形は当時EP形式が廃れていたアメリカで既発シングル曲を増補してコンピレーションアルバムとしてリリースされたものが元となっている。そういう経緯の変わった一枚
内容は映画に流れた楽曲と当時のアルバム未収録シングルで構成されているが、前作のカラフルなサイケから色が抜け落ちて、色褪せたマッドな感覚とずっしりとした翳りのあるクラシカルなメロディが鳴り響くものとなっている。洗練というのも違って、地金が現れているとでも言うべきだろうか。
早くもサイケデリックという狂騒的な猥雑から抜け出しており、なにか突き抜けたポップさと骨太さのあるロックが鳴る光景にはそれまでの野暮ったさよりかは、垢抜けた姿を思い描くし、より各メンバーの個性が際立ち始めているようにも見える。その点では新しいフェーズに入ったことを記録したアルバムだ

Hotter Than July

Hotter Than July

・80年発表19th。スティーヴィーの30代最初にして80年代初のアルバム。本当は「One More Before Thirty(30歳の前にもう一枚)」というタイトルでリリース予定だったが延期されて今のタイトルになったそう。良くも悪くも70年代の脂が抜けたあっさりとしたテイストが魅力的な一枚
煮えたぎるブラックフィーリングが薄まったことで、ポップな趣が強まっており、楽曲もバラエティに富んだ構成。目立つのはシンセのシーケンサーによるリズム刻みとクリック音、そしてスティーヴィー特有のモコモコシンセサウンドによるまろやかなメロディ。アルバム全体がシンセ主体となった音作り。
実際に影響があったのかは定かではないがアルバムの作りにはどことなくYMOの影があるのではないだろうか。その未来的な響きをスティーヴィーが自身特有の陽的なメロディと重ねた事によって、70年代の音とは打って変わってカラッとした音に仕上がっているのは見逃せないところに思える。
もちろん同時代的なサウンドの変遷だったというのも間違いないので、一概には言えないが、淀みなく抜けのいい商業的なポップスとして、非常に高品質でカラフルな一枚だろう。肩の力も抜けて、リラックスした姿が思い浮かぶ爽やかさもある良い小品。隠れた良作というところか。

スウィンギング・ギター

スウィンギング・ギター

58年録音盤。タルのレギュラー編成であるベースレストリオ作品。ギターの中低音でベースラインも取るので、そこまでベースが不在なことは気にならない。内容は全盛期を捉えたものとなっており、全編に渡ってスインギーなギターが聴ける。が、その一方で盟友、エディ・コスタのプレイも目を見張る。
水を得た魚のような、タルのテクニカルなフレーズに負けることなく、力強くパーカッシヴなリズムを叩き付けるコスタのピアノフレーズ。二者の演奏がぶつかり合うことで、生まれる音の豊かさはきわめて優雅なものだろう。白人ジャズらしい黒っぽくない生一本な魅力のある傑作。淡旨の際立つ渋い一枚だ。

エ・オ・サンバランソ・トリオ

エ・オ・サンバランソ・トリオ


65年発表2nd。アメリカ出身のジャズシンガー&ダンサーがブラジルのショービズ界に渡り、現地で録音したアルバム群のひとつ。全体のイメージとしてはボサ・ノヴァやサンバの乗って、朗々と歌われるジャズボーカルという印象でわりと古臭さは感じさせない、むしろ近代的な響きを持っている。
時代を考えると異様に早いテンポのボサ・ノヴァ&サンバの演奏には目を見張るものが多く、そのキレの良さこそが経年による印象劣化になっていない要因だろう。それもそのはずで、本作のバック・バンド(トリオ)には後にジャズ・クロスオーバー界で活躍するアイアート・モレイラが参加している事が大きい。
奇しくもこのアルバムに参加したことで脚光を浴び、70年代にはアメリカに渡って八面六臂の大活躍をすることからも、本盤は歴史的でもあるだろう。もちろんそれを抜きにしても。シャープな演奏でなかなかダンサブルに楽しめる作品だ。モレイラのファンなら盛っていても損はない一枚。

Music Complete

Music Complete

15年発表10th。オリジナルメンバーのピーター・フックが抜けた、初の作品にして10年ぶりの新作。バンドの作風であるロック×エレクトロを現代版にアップデートした作品であり、いまや一大潮流になっているサウンドをオリジネイターが改めて手掛けるとこうなるのか、というものに仕上がっていると思う。
また今作はゲスト参加も多く、2曲ほどケミカル・ブラザースのトム・ローランズが楽曲のプロデュースに参加しているほか、イギー・ポップやザ・キラーズのブランドン・ブラワーズなども名を連ねている。そういう面から見ていっても、風通しの良いアルバムという印象が思い浮かぶ。
反面、あのフッキーのベースフレーズが支えていただろう、刹那的なメランコリーやセンチメンタルはだいぶ減退してしまっているのも事実。その分、かつてないほどにフレッシュでブライトリーな印象が目立つが、楽曲のメリハリにやや欠けて、一本調子なアルバム構成であるのに惜しさがある。
新ベーシストであるトム・チャップマンが健闘しているからこそ、返ってフッキーの抜けた穴の大きさを実感してしまうのが悩ましい。その対策としてのエレクトロ増強なのだろうけど、今度はバンドの個性も変容してしまったような感触が無きにしも非ずなのが手放しには賞賛できない。
全体に現代性も加味した上での、バンドとしての攻めが聞けて、十分に意欲的なのだがやはり穴が埋まりきっていなくて、隙間が見え隠れしてしまう所に亀裂の大きさを感じてしまう作品だろう。作品の出来以上に、作品外の事情を窺えてしまう不運さの目立つ一枚、か。出来は悪くない

ミ・ン・ト

ミ・ン・ト

83年発表3rd。大ヒット前夜の一枚。デビュー当初からのトロピカルサウンドを主体によりポップに推し進めたと思われる。それでいて当時の「歌謡曲」らしさもあり、その下世話なメロディラインも取り込んで、繰り広げられているのが興味深いし、70年代の重々しい面影はもはや薄らいでいる。
和製ライトメロウだけあって、洒脱な印象もあるが本家のライトメロウと呼ばれる音楽はウェストコーストサウンドの豊穣な旋律とハイセンスなジャズ・フュージョンの演奏によって洗練されたものであり、本作で流れる音楽は趣がずいぶん異なっている。
むしろ本作で聞けるサウンドにはラテンサウンドに歌謡曲のウェットな叙情、そこにディスコミュージックのダンサブルな雰囲気が織り交ぜられているのに気付く。爽やかさとは少し離れているが、ライトなカクテルを飲むような淡いランデヴー感が和製ライトメロウと呼ばれる楽曲の特徴なのでは、と感じる。
なので、ディスコやクラブミュージックとしての側面も強く出ているのが面白い部分ではあるのかと思う。白人でも黒人でもない以上、そのどちらの音楽からも良い所をいただいて、ミックスするところがらしいか。はっとするキラーチューンはないがアルバムの構成が練られている良盤だろう。

フレッシュプリキュア!ボーカルアルバム1 〜太陽の子供たちへ〜

フレッシュプリキュア!ボーカルアルバム1 〜太陽の子供たちへ〜

09年発売OST。同名アニメ作品のキャラソンアルバム集。作品の題材にダンスが取り上げられているためか、アッパーでダンサブルなトラックばかりで構成されている内容。しんみりする曲は皆無でとことん作品の元気いっぱいさを表現したようなものとなっており、各ソロ曲も明るさや強さが伝わってくる。
楽曲的には世紀末〜00年代初頭に流行っていたトランステクノやユーロビート調に翻案したようなシャラシャラしたシンセのメロディが目を引く。その当寺流行っていたハロプロavex周辺の音でテクノやディスコなどが思い浮かぶだろう。
EDMが隆盛前夜だったこともあり、今ほどシームレスにデジタルとアナログが融合はしておらず、そのサウンドの噛み合わない微妙な歪さが味わい深い。というより、まだデジタルサウンドがポップスやロックのフォーマットに収まっているゆえのハジけた感じが懐かしくも新鮮な往年のJ-POP的良盤だと思う。

フレッシュプリキュア!ボーカルアルバム2 〜笑顔のおくりもの〜

フレッシュプリキュア!ボーカルアルバム2 〜笑顔のおくりもの〜

09年発売OST。同名TVアニメのボーカルアルバム第2弾。発売時期が11月だったのもあってクリスマスソングも収録されてたりするが、前作より輪をかけて、当時のポップスの感触が反映されている一作。ダンサブルであるがポップさがより増したように聞こえるか。高密度だが、打ち込みと演奏の区別が明確だ。
前期EDの英語版があったりなど、後続シリーズに比べると大分趣が違うアルバム構成は今聞くと帰って新鮮かもしれない。90年代末〜00年代のJ-popsの総括的なイメージで聞くとなかなか面白くもあり、作品自体も当時新機軸だったことが窺える作品だろう。かとなく懐かしさもあるが元気のいいポップスだ。