In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2018年6月) No.1253〜1263

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

11枚。
梅雨に入ったと思ったら、6月の内に梅雨明けしてしまいました。
7月に入ったばかりなのにもう夏の日差しですでに猛暑の様相を呈して、今年の夏の暑さを物語っていますね。
先月は計らず、フランク・ザッパ特集で新規盤より所持盤の感想が多くなってる感じです。
色々あって、しばらく聞いてなかったのですがやっぱり好きですね、ザッパ。
夏もいよいよ到来。暑さに体力を奪われずに過ごしたいですね。
というわけで以下より感想です。

Yellow Shark

Yellow Shark

・93年発表62th(※ライブ盤も換算した枚数)。この作品のリリース約一ヵ月後に亡くなったのでこれが遺作となる。録音は92年9月。ドイツの室内楽団、アンサンブル・モデルンがザッパの楽曲を演奏した音源が収録されている。ザッパは一部指揮を行っているが基本的にはプロデュースのみで演奏には不参加
内容も完全に室内楽なのでロックな演奏を期待してはいけないが、ザッパミュージックの一角として、現代音楽、あるいはクラシック音楽のアプローチは重要な位置を示している通り、奏でられる音楽はまさしくフランク・ザッパの音楽である。あの独特なテンポと音のうねりを再現してしまえる楽団も凄まじい
というより、ザッパの脳内に鳴り響く「音楽」とはこういうものだったのか、ということを再確認する。「正確な演奏」であるならば、晩年傾倒したシンクラヴィアによる音楽がまさにそれなのだが、おそらく「再現性」で言えば本作に軍配が上がるのではないか、と。ザッパの想定する楽器で響く演奏。
それを考えると、ロックミュージシャンとしてのザッパの特異性も見えてくるのではないかと。このユーモラスかつシリアスなミュージックこそが思い描いたものであり、必ずしもロックはその音楽の最適手ではなかった。それ故に、この盤に包み込まれる賞賛の拍手は純粋に彼の音楽に贈られたものだろう。
そんな最晩年の幸せな一瞬も捉えた作品でもあるのだと思う。初手に聞く作品でもないし、お薦めしづらい一枚でもあるが。ファンならどこかのタイミングで聞いてほしいと思うアルバムだ。

ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「殺」

ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「殺」

15年発表OST。同名アニメのED楽曲コンピレーション&大沢伸一作曲の劇伴BGMが収録された第二弾。作品のサイバーパンクかつバイオニックな雰囲気に合わせて、日本のインディーズシーンのオルタナミュージックが有名無名問わず収録されている。ED楽曲はどの曲も刺激に満ちた内容ばかりだ。
オルタナ、ドゥーム、ラップにガレージ、ポストパンク、エレクトロ、珍しいところではネオアコ的なボサ・ノヴァなどなどを縦断して、当時の日本アンダーグラウンドシーンが窺い知れる点ではアニメ作品のサントラとして以上にいい構成と選曲であると思う。一方大沢伸一の手がけたBGMも作品に沿った作り
カオティックかつサイバーパンクなインチキ日本に繰り広げられるニンジャの復讐劇によろしく、過去がフラッシュバックするようなダークでパンチの効いたエレクトロも聞き応えは十分。一粒で二度美味しい、コンピ系サウンドトラックの良盤だろう。

FRUITS CLiPPER

FRUITS CLiPPER

・06年発表7th。それまでの渋谷系フォロワー的なハッピーエレクトロ路線から、バッキバッキのフロア仕様エレクトロ(EDMといっていいかもしれない)に様変わりした一枚。同時にこれ以降のプロデュースワークスにおける中田ヤスタカ的ポップスの雛形が完成した作品だと思う。とにかく音圧が強く煌びやか
今聞くと、このアルバムリリースの前年に出たダフト・パンクの「Human After All」からの影響がかなり色濃いが、それでこのアルバムの魅力が劣るということは決してないと思う。その影響を踏まえて、さらにキャッチーな個性を上乗せしているのが何よりの証拠だろう。本家にはないポップネスこそが魅力
EDMよろしく、ストロボでフラッシュを焚いたようなアタックの強い音と渋谷系フォロワーらしい甘いメロディが重なることによって、日本にはそれまでなかった感覚のエレクトロポップに仕上がった事がなによりの収穫なのだろう。事実、後のPerfumeなどに繋がる曲想が多数盛り込まれている。
このアルバムがベースとなり00年代後半のJ-POPシーンを席巻するサウンドが展開されていくことを考えると、まさしくターニング・ポイントだったのでは、と推測する。楽曲、アルバム構成とともに非常に練られた強力な一枚であり、中田ヤスタカの快進撃を決定付けた名盤だろう。

VEGA INTL. NIGHT SCHOOL

VEGA INTL. NIGHT SCHOOL

15年発表3rd。もはや死語となってしまったヴェイパーウェイブの代表的ユニット。前作のベッドサイドミュージック的な陶酔感から一転し、ポップサイドへと傾いたサウンドを提示している。前作の余波からか、そのドリーミーでサイケデリックな感覚も健在で、快活だが不定形なポップさがかなり奇妙。
P-ファンクや80sディスコのブギーで鳴り響く、グニャグニャっとしたシンセサイザーの音がアルバムの大部分を支配し、めまぐるしくメロディを変えていく。そのキッチュなメロディが煌びやかながらも、一筋縄でいかないメタリックで華やかなサイケデリアを標榜する。夜間学校と名付けた通りの妖しさ。
音自体は非常に洗練された、伸びやかなものだ。その透き通った幻想性は鏡に乱反射する光のように多方面から浴びせられる。陰影のコントラストよりも光の眩しさでコントラストをつけて、ホワイトアウトした感覚にも陥る。シンセの持つ清濁を熟知したようなフロアポップの良作だ。キレの悪さが堪らない。

Lotus Land

Lotus Land

15年発表1st。日本人のピアノトリオによるディスコティックなクラブジャズの初作。1曲目がかのレコード番長、須永辰緒氏に取り上げられたりもしていることで有名。ジャズとは言ったが、聞こえてくる音楽は70年代後半のスペーシーなディスコサウンドに多大な影響を受けている音でその手が好きな人には堪らない作り
アープオデッセイのようなシンセの響きが宇宙的な広がりと浮遊感を演出すれば、ディスコミュージックの野太くシャープなボトムラインがミニマルに踊りだし、そこへ煌びやかなピアノの音色が全体を包み込む。その演奏の黄金律に思わず、リズムを取りたくなるほどだ。聞いていてとても楽しくなる。
スペースブギーというにふさわしいサウンドで、一度鳴らせば、そこはもう銀河系の彼方。なにより70年代のディスコサウンドにリスペクトとオマージュを感じさせながら、Nu Discoのトレンドに上手く乗った良盤だと思う。人懐っこい人力の演奏がこの作品のいい塩梅だ。長く付き合えそうな一枚。

ロビンソンの庭

ロビンソンの庭

87年発表OST。同名映画に使用されたJAGATARAの楽曲だけを抜粋し、「ゴーグル、それをしろ」のリミックスを追加して構成、CDで再リリースされた変則的な作品。彼らのディスコグラフの中では最もコンパクトな内容となっている。同時に今まで見せてこなかった側面を聞かせてくれるという点でも貴重な記録だとも言えるだろう。
江戸アケミのポップサイドが顔を出したような冒頭2曲は晩年、アフリカンミュージシャンと共演する事を考えると納得できる楽曲で、ワールドミュージックの陽的・朗らかな部分を積極的に取り入れようとする姿勢が窺える。元々アフロビートも演奏していた事からもサンバなどのラテン音楽へと向くのは必然
後半の二曲は旧曲の再演とリミックスだが、こちらは彼らの本領というか怒りや苛立ちのようなフラストレーションを爆発させる楽曲であり、前半の2曲にはない、その猥雑な熱気の煮えたぎる様を感じさせてくれる。最後の曲は当時らしいラップ的なリミックスだが挿入されてる江戸アケミのライヴMCは切実だ
江戸アケミが持っていた危機感がそのまま現在において浮き彫りになっているように思えてしまい、彼にしてみてみれば「それ見たことか」と言わんばかりだろうかと感じてしまう。しかし、それを見ることなく亡くなったのは幸か不幸なのか。ともかくバンドの今までにない側面と従来の路線が味わえる佳作だ

Little Feat

Little Feat

71年発表1st。ザッパファミリーのローウェル・ジョージが結成したバンド。ニューオーリンズセカンドラインブルーグラス、カントリーなどのアメリカ南部音楽を咀嚼したレイドバックなサウンドを押し出している。南部の泥臭く、粘りのあるビートに乗り、ローウェル・ジョージのVoが朗々と歌い上げる
この初作では、まだ後の作品で見られる洗練さは見られず、バンドサウンドとして取り入れた音楽要素が雑味の残ったまま、ごろっと押し出されているのに目を引く。その点では垢抜けなさと荒削りな部分があるが、返ってそれが盤の捨てがたい魅力にもなっている。同時にそれが彼らの意思表示でもあるか。
次作で再演される5など原石の輝きを持つ楽曲も多く、いわゆるアメリカーナ音楽と呼ばれるジャンルを切り開いたバンドとして見る事は可能だ。アメリカの雄大な大地に吹く柔らかな風と乾いた土臭さが感じられる伸びやかなサウンドが何よりも魅力的な一枚だ。完成度は以降の作品に譲るが味わい深い佳作だ

Absolutely Free

Absolutely Free

・67年発表2nd。前衛性が強かったデビュー作のカドが取れた感がある一方で、レコードのA面、B面でそれぞれ「アンダーグラウンド・オラトリオ・シリーズ」と名づけられたコンセプチュアルな組曲形式が取られているアルバム。CD化に際し、シングル曲が「幕間」的に挿入されている。
コンセプトアルバムとしては僅か一週間足らずだがにビートルズのサージェントペパーズに先駆ける内容となっているとともに、こちらの方が明確なテーマに基づいて構成されている印象を持つ。アンチ・カウンター・カルチャーで当時の米政府にも懐疑的なザッパの痛烈な批判が全体のトーンとなっている。
サウンドの方は戯作的で芝居とバンドの演奏が渾然一体となったもので独特な個性に早くも確固たる地盤を築いている。その意味からでも統一感は前作と比べるまでもなく、強くなった。前衛性の強い曲などを組曲の一展開として上手く構成できたのが大きいだろう。演奏も随所でギターより木管が目立つ。
この辺りはザッパの現代音楽志向が見え隠れしており、思い描く音において、重要な位置にあるのだと感じさせられる。アルバムの構成的には今ひとつだった前作から格段に進歩した一枚。ここまで猥雑でカオスな内容にも拘らず、ザッパはノードラッグを貫いて製作しているのだから凄まじい。

We're Only in It for Money

We're Only in It for Money

・68年発表3rd。当時隆盛していたヒッピー文化、フラワームーヴメントを徹底的にこき下ろした、初期の傑作。「オレ達ゃ、金のためにやってる」というド直球なタイトルとともにあまりにも有名なサージェントペパーズのジャケットパロが痛烈。前作に引き続き、初期サウンドの洗練化が進み、完成を見る。
前作でも展開されたコンセプチュアルな構成が今回はアルバム全体で構成されており、A面B面とも曲間の区切りなくほとんどメドレー形式で展開されていく。内容としては当時流行していたサイケデリックロックやラヴ&ピースを掲げたヒッピーの理想主義をこき下ろす楽曲が目白押しで、シニカルさが漂う。
一方でフラワームーヴメントの熱気に当てられたヒッピーたちを反逆者として駆逐しようとする存在(アメリカ政府?)を忘れるなと警鐘も鳴らす。という、ポリティカルな内容でもあるが、サウンド的にはリズムが面白い作品で従来のザッパらしいウネリのあるメロディに華を添えている。
毒気のある歌詞が非常にポップなメロディに乗っかって、一気呵成に流れていくが本作の肝はラストの19だろう。痛烈に皮肉った後におまえら(ヒッピー)の行き着く先はここだといわんばかりにザッパの前衛性が牙を剥く。最後の最後で不穏に響く現代音楽のサウンドは50年を経た今でも十分通用する。
ノー・ドラッグを貫きながら、サイケにも呼応したサウンドで毒を吐く。本当にこれを素面でやってること自体が逆に狂気的でもあるが、ザッパの才覚が爆発したという点においては開花の瞬間を捉えた名盤だろうと思う。音響系やヒップホップにも通じる箇所のある点でも先駆的な一枚。

Lumpy Gravy

Lumpy Gravy

・68年発表4th。ソロ名義としては初めての作品だが、ジャケット裏面にあるように前作「We're Only In It For The Money」の続編であるのが示唆されていることからも、バンドとソロ活動に明確な区別はすでにない模様。とはいえ、本作は初期作の中でも現代音楽色が特に色濃い作品だといって過言ではない
オーケストラ演奏にバンドの演奏、人の会話。それらが等しく切り貼りされて、いわゆるミュージック・コンクレート的なサウンドコラージュによって構成されている。レコードにおける片面約15分ずつ、その混然とした構成の「音」は慣れない人が聞けば、ひどく退屈なものにも聞こえてしまう。
繰り広げられる会話の内容も前作を踏まえてなのか、ラリッた会話のオンパレードなのも非常にシニカル。そういった薬物で分裂した精神の中で鳴る音をとても冷静にかつ分析的に構成している所に音楽的価値があるのかもしれない。が、どちらにしてもそういった危うさに警鐘を鳴らしているようにも思う。
ちなみに後の作品に収録される「Oh No」と「King Kong」は発表順からすればこのアルバムが初出。全体の印象としては、ミックステープやリミックス的な概念で構成されている一枚でもあり、現代音楽的な「音」を表現した作品でもある。興味深い内容だが振り切った作品でもあるので聞く際に注意は必要だ。
テクノなどに慣れ親しんでいると、そこまで聞き辛い作品でもないが形式的なバンドの演奏を期待してはいけないアルバムだろう。同時にザッパの現代音楽への思いが初めて形となった作品として記憶される一枚だ。

Jazz From Hell

Jazz From Hell

・86年発表47th。当時出始めたばかりのFM音源搭載シンセサイザー、シンクラヴィアをほぼ全編駆使したアルバム。同時に没後リリースされた遺作「Civilization Phaze III」が出るまではザッパ最後のスタジオ録音作品でもあった(本作以降のリリース作品はお得意のライヴテープ編集によるものが主)。
7のみライブ音源でそれ以外はシンクラヴィアを使った楽曲が収録されている。ほとんどシーケンサーによる自動演奏なので、ザッパが頭の中で思い描いたメロディがテンポのズレなく、譜面どおり正確に演奏されている。その正確性についてはザッパも満足していたようだ。
内容についてはFM音源によるメロディが存外レトロゲームサウンドの趣があり、今となっては懐かしさのある音だが、その生音っぽくない感触がザッパの脳内を垣間見るようでヒューマニックな印象すら与える。ザッパのニューロンシナプスに流れる電気信号が織り成すメロディだと思えば、面白い響き。
奇々怪々、複雑怪奇、ユーモアとシリアスが混じり合い、螺旋運動のように継ぎ目なく上昇、下降する音楽はザッパのインナーワールドであり、時に内省的な表情を見せる。その展開される旋律だけを取ってみれば、やはりロックより現代音楽であることが手にとってよく分かる作品であり、明快な一枚だろう。
他人を介さない分、「雑味」が一切ない純度100%のザッパ節を聞ける点では貴重な作品であり、ザッパの現代音楽サイドでも最も分かりやすい作品と言っていいだろう。後年、アンサンブルモデルンが完璧に脳内での響きを「完全再現」したG-Spot Tornadoのオリジナルは本作収録。違いを聞き比べるのも楽しい一枚だ。