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「少女☆歌劇レヴュースタァライト」アニメ#3 孤高と覚悟の果てに


第3話『トップスタァ』
今度こそ「This is 天堂真矢」な回でした。や、今回はちゃんと注目しますよ? もちろんそれだけじゃなく、ここに来て一気にさまざまなトピックを開放してきたので、情報整理が大変な話数でした。そんな所でメインを踏まえつつ、拾えるものはできるだけ拾って行く感じで書いていこうと思います。

当感想は舞台版も含むネタバレですので読み進める場合は以下をクリック(スマホなどで読まれている方はそのままお進みください)



【そこに覚悟と執着はあるか】



はい、以上の画像が今回の敗因です。どういうことなのかは追って説明していきますが、端的に言えばこれが全てです。ちなみに証拠として、前回、前々回の華恋を確認すると理解できるかと。




どうでしょうか。輝いていますよね、柄の部分に装飾された赤い宝玉が。この宝玉の輝きこそ、今回のエピソードにも大きく関わっていく部分なので覚えておいてください。のちほど説明しますので。さて、華恋と真矢という最初のPVでも描かれた対決がようやくアニメ本編にて、実現したわけですが。結果は力及ばず華恋の惨敗。真矢が今現在「トップに立つ者」としての実力を見せ付けたという格好になりました。
まずはその敗北の原因について、掘り下げていきたいと思います。



例によって、何度か出している画像ですが今回もまた提示します。繰り返し言いますが、この作品は「執着」の物語です。『舞台』『約束』『少女』、それぞれの執着がこの「少女☆歌劇レヴュースタァライト」というアニメに絡み付いて離れない要素である、という事も二、三度書いていますが、とても大事なことなので今後も多分繰り返すことになるでしょう。さておき、今回は何の執着であったのか、というのは見た人ならばすぐにお分かりになるはずです。


あの『少女』への執着


どこをどう取っても、どこをどう切っても、3話はこの執着でしかありえません。もちろん今回のメインパーソンである真矢はもちろん、クロディーヌ、はたまた華恋やひかりについても、今回は同じ執着で括る事が可能です。と、言うより今回の華恋vs真矢の対戦結果はこの執着が明暗を分けたといっても決して過言ではないと思います。この『少女』への執着、それと「舞台少女」としての覚悟が問われた対戦だったと、筆者は見ています。

勢いだけで飛び立てるほど 簡単じゃないよ
ずっと 私の覚悟は試されてた
(『Circle of the Revue』〜スタァライトシアター収録曲より〜)


3話の華恋の敗北においては、この歌詞に尽きると思います。『Circle of the Revue』、楽曲としてはレヴューオーディションで「いつかあの娘と戦うこと」になった時の哀愁と切なさが漂う勇ましい旋律が印象的ですが、今回のレヴューはずっと「覚悟を試されていた」わけです。その覚悟の背景には『少女』への執着が強く結びついているわけですが、そこを順序立てて確認していきたいと思います。なぜ華恋が負けたのかにはやはりきっちりと理由があるように感じるからなのです。



昼休みでのばななを取り囲んだ時の可愛い1シーン。ですが、ここにもニュアンスが含まれています。華恋はひかりと幼い頃に交わした「いつか同じ舞台にトップスタァとして一緒に立つ」約束を果たすため、レヴューオーディションに参加することを決めたのが前回。この約束こそが、2話でキリンが語るように「二人でひとつの運命」と言わしめる所以でしょう。しかし、「二人でひとつ」というキリンの言を信用するならば、彼女たちが同じ方向を見ていないと成立しないものである、ということも推測できます。ひかりは華恋の参加を快く思ってないじゃないか、と思われますが1話は不測の事態、2話はひかりが華恋の意志に心動かされて、結果的に同じ方向に立ってしまっている。



※以上、第2話『運命の舞台』より引用


ひかりは華恋に参加して欲しくないという点は一貫しているわけですが、華恋の言葉に不意を突かれ、彼女が心動かすさまがこの画像にはきっちりと描写されています。むしろ素の表情が垣間見えた瞬間でしょうか。ひかりには何かしらの事情が絡んでいるはずですが、華恋においてはレヴューオーディションの参加動機が「ひかりとの約束」である以上、この「二人でひとつ」という点が強く影響しているのではないかと思われます。
そこで上に挙げた「ひかりの制服袖を引っ張る華恋」の画像に戻ります。この行為そのものが意識無意識に関わらず、ひかりを離さない、また繋ぎ止めるものにも見えます。スキンシップの範疇、といえばそれまでですが二人の間には12年間の空白があるわけで。再びどこかに行ってしまわないように(この描写の前段にばななのトピックもあるわけですがひとまず割愛)、という気持ちが働いてるのかもしれません。華恋とひかりの関係自体がかつての約束で脆くも強く結びついたものであることにも注目しておきたいです。



しかし、続くシーンではひかりが華恋の手を振り払います。展開の流れを省略してしまっていますが、ばなながお近づきのしるしに改めて作ったバナナマフィン(前はバナナプリン)を手に取るための動作。マフィンを取るためとはいえ、急に強く振り解いたのはちょっとオーバーな印象を持ちます。アニメ版のひかりが子供っぽさの残る寡黙な(悪く言えばコミュ障な)子であるのも輪をかけていますが、仲間のしるしであるマフィンを持って行った後、その場を去っているのが興味深い所。いまだ華恋以外の8人には壁を作っている、というのもありますが華恋が繋ぎ止めていた人間関係から離れていく、あるいはこの場面の「ばななはもう(同じ)舞台に立たないの?」という華恋の問いかけがひかりの方にも係っていて、「同じ舞台に立つ」ことへのズレがあるように思えます。華恋はひかり以外の8人ともまた同じ舞台に立ちたいと考えているけど、ひかりはそうでないというようなニュアンスも若干感じられるかと。



それがこの場面に繋がる。舞台版からの流れも含めて考えると、ひかりは華恋の方しか見ておらず、彼女をレヴューオーディションに参加させたくない(まだアニメ本編では説明がありませんが、ひかりは「約束」を果たすためにオーディションに参加する理由がある)。それ故に今回は華恋を用具室に閉じ込めるという大胆な行動に走るわけですが、ここでバナナマフィンを華恋のもとに置くのは「私は華恋だけでいい」という意味に読み取れなくもない。ひかりが喋らないから現状見てる側の推測の域を出ませんが、少なくともひかりは「二人の約束」に固執するあまり、他の人間をほとんど気にかけていないし、華恋はひかりと同じ舞台にトップスタァとして立つことは夢だけど、2年A組の仲間とも同じように立ちたいと思っている。二人の間で「約束」に対する認識の重さが違うのですね。ひかりは重く捉えすぎているし、華恋は結構軽く捉えている、というのを理解しておくとこの後の展開も分かり易いかと。



だからこそオーディションの開催告知のメールが届くと、どうやったかはいざ知らず華恋は縄抜けして、閉じ込められた用具室を抜け出していきます。この辺はなにかしらこの後の「展開」を知っているようにすら思えるひかりの慌てようが目を引きますが、華恋も華恋で「勝ってくるね」と軽々しく言ってのけてしまっている。「二人でひとつ」であるはずの彼女たちが噛み合っていない、という事が今回の決着に繋がっているわけですね。
前回、華恋には「情熱」が甦った、と書きましたが「ひかりと二人でスタァライトしたい」という夢というか願望に対して、どのくらいの自覚があってそれを言っているのか。本項のタイトルにつけた『覚悟』と『執着』にどれだけ彼女はコミット出来ているか。今回の対戦相手が真矢となった瞬間、彼女の目指すべき「トップスタァ」に問われるべき点はまさしくそこだったわけですね。真矢に打ち勝つためには彼女に内包する『覚悟』と『執着』を、華恋は凌駕しないといけなかった。

トップスタァ、それは運命の舞台に立つもの
無限のきらめきを放ち
時を超えて輝き続ける
永遠の主役
〜2話「舞台少女」より台詞抜粋〜


キリンが2話で「トップスタァ」はなにかしらの「大きな概念」であるかのように語っていますが、現状それが一体どういうことなのかははっきりとしていません。しかし「時を越えて、輝き続けなければならない永遠の主役」ということを踏まえると、先に挙げた『Circle of the Revue』の歌詞よろしく、「勢いだけでは飛び立てない」存在であることは確かです。



そして華恋は真矢と切っ先を交わした時、問われます。「愛城華恋、あなたはなぜこのレヴューに」と。前回の純那との呼び名問題が引き続きここでもあって、アニメ版では真矢にとって、華恋は眼中にすら入っていない存在、歯牙にもかけていない人物であって、まったく相手にされていません。自分の地位を脅かす存在でもないしライバルですらないからこそのフルネーム呼ばわり。真矢については次項で説明しますが、少なくとも華恋は彼女から見れば、トップの座に立つ天秤に掛ける必要もないほど、覚悟も執着も甘いわけです。
この舞台で演じられる『レヴュー』の『スタァ』はただ一人だけ。
最初のPVのこのフレーズが物語るように華恋の目指す「ひかりと一緒に『スタァ』として舞台に立つ」事、または彼女の舞台口上である「みんなをスタァライトしちゃいます」というフレーズが持つ「困難さ」に対して、華恋はかなり無自覚に口にしている事を真矢は見透かしているようにも思えます。
「その代わり、あなたは何を差し出した?」




華恋は「一緒にスタァとして立つ」ために何を差し出したのか。真矢は剣戟の合間に劇中劇「スタァライト」の台詞を吐いていますが、その等価交換的な台詞回しからもわかるように、真矢は「トップに立つため」に何かを差し出して、その頂で煌いているわけです。もちろんそれは彼女のあの『少女への執着』に他ならないのですが。これもまた後で詳しく説明しますが、華恋とひかり、真矢とクロディーヌで覚悟と執着の対比が明暗を分けているのです。願いはおそらく一緒だが、想いがすれ違っている華恋とひかりに対して、双方に意識し、せめぎ合う真矢とクロディーヌ。「共に高みを目指す」という点において、噛み合っているのはどちらなのかは火を見るより明らかでしょう。



目覚めた『情熱』に対して『覚悟』も『執着』も伴っていない華恋が真矢に立ち向かって、「届かない」と思ってしまうのも当然といえば当然。なにより彼女の武器に付けられた宝玉が輝かないのも、その『約束』によって「輝く自分」が見えていないから、と言えそうです。



今回の冒頭にもこのフレーズが出てきますが詰まる所、こういう事なのです。「やりたいこととやるべきことが重なる時、世界の声が聞こえる」なんて、どこかで聞いたことあるフレーズを持ち出してしまいますが、求める願いや夢に対して自分なりの「星」を掴む事、これが作品の骨子になっている。その為に自分がなすべきことは何かを見出さなければならない、というのがこの物語の登場人物に求められていることでしょう。華恋は『約束』に対して、自分の『覚悟』や『執着』を見出せていない以上、真矢に敗北してしまった、と言うことだと思います。



同様にひかりも。今回、彼女のみがオーディションには不参加だったわけですが、華恋を止めようと追いかけるも『舞台』から弾き出されてしまう。ひかりも内に抱える『彼女への執着』が彼女自身を曇らせている面が大きいでしょう。今回後半のひかりの動向を見ていると、「どんなに追いかけても届かない」という事実が彼女を苛んでいるようにも。



結果、「二人でひとつの運命」である華恋とひかりは星光りの差さない雨の夜中に佇むわけで。トップにまったく届かなかった華恋とその彼女にもたどり着けなかったひかり。この結果を知っていたのか、予期していたのか、はたまたたどり着けなかった自分が腹立たしかったのか、ひかりは華恋に平手打ちしてしまう。お互いにお互いの「星」をまだ見出せないという点が物語のポイントになっていきそうです。
考えてみれば、ここまでの展開で華恋はずっとレヴューオーディションに参加する理由とその覚悟を問われているようにも思えます。映像ソフトが全三巻のBOX売りで、ちょうど4話毎に区切れているので、舞台演劇を意識しているならば物語が三幕構成に仕立てられている可能性も大きいですね。今回が第一幕のタニであるならば、次回は何か大きな展開が待っていそうにも思えます。



3話ラストカット。水溜りに写るレヴュー衣装の二人に東京タワー。彼女たちのたどり着く運命の姿なのか、それとも理想の姿なのか。どちらにしても、彼女たちがトップスタァになるには相応の覚悟と執着が求められることが明らかになったところで、次回以降どうなるのかが見所でしょう。



今回の冒頭、一年前の聖翔祭での公演によって、物語的には語りなおされる劇中劇「スタァライト」。
「星の光によって導かれる女神たちの物語」
「だけど引き離され二度と会えなくなってしまう悲しい物語」
と、作品本編とリンクしそうなフレーズが重ねられていく一方でこの辺りは舞台版でも語られている部分です。なんとなく悲劇であることが察せられますし、それらが本編にどう重ねられていくかも気になるところですが、しかし本項で語ってきたことに密接にリンクしそうなフレーズがこの場面の最後に出てきます。



「二人の夢は叶わないのよ」


真矢(というか舞台版を見ていると役柄はクレールだと分かるのですが)から発せられたこの台詞が、3話の華恋とひかりにもそのまま当てはまりそうなことを考えると「スタァライト」の展開そのものが作品を貫くテーマでもありそうです。アニメはここを乗り越えていくのか、はたまた悲劇を悲劇として描いていくのかと言うところにも注目していくといいのかもしれません。


【紙飛行機、その視線の先には】


さて、ここからは今回のメインパーソン、天堂真矢について。レヴューシーンにおけるトップスタァに立つ者の強さと威厳が大変にインパクトを残すものだったのは言うまでもないですが、掘り下げていくと彼女の内面が窺えてくるのでそこを見て行こうと思います。また本項のタイトルにつけたように、3話Aパートでも印象的だった、あの紙飛行機。あれが何を意味するのかも、考えていきましょう。


朝のホームルーム前の教室風景。コミカルな描写が目立つ部分でもありましたが、ひとまずそういった描写を抜きにして考えたいのは真矢とクラスメートの関係。学園生活の一風景としては非常に何気ない描写だと思います。もちろんここが聖翔音楽学園という特殊な学校であることや、舞台少女と呼ばれるメインキャストたちがレヴューオーディションというトップスタァの座を争う決闘を行っている以外は、ですが。こういった賑やかなクラスメートの輪の中心には、ばななが立っているのが目に付きますね。



そして、その直後の1カット。この3話の中でも一際キレたレイアウトの1シーンでもあると思いますが、ちょっと分かり辛いので他の画像より大きく表示しています。真矢が教室に入ってくるカットですがいわゆる、なめショットとか入れ込みショットとかと呼ばれる、手前に物や人物を配置して、その対象物越しに主体となる人物をなめるように動かす手法。この画像で言うと、鞄の置かれた机を画面中心に配置して、その机左側の奥手から真矢を小さく写して着席するまでを捉えているのが分かります。
直前の華恋たちの賑わいとは一歩引いて、非常に無機質というか孤立した印象を受けるカットですが、それがそのまま真矢のパーソナリティにも直結しているのが興味深い所。彼女はレヴューオーディションの名乗り口上でも言っているように学年主席です。さらに両親共にスタァのサラブレッドという出自が彼女を近寄りがたくさせている事や、舞台版でも「他人に興味がない」とまで言われているのもあり、見ている側のイメージにも「孤高」だとか「高嶺の花」というイメージが自然と連想させられるカットが提示されているのですね。
「学年主席」という「トップ」であること。真矢にとってはそれが当然であり、ライバルであるのだから仲間内の馴れ合いも必要以上には行わない、自他共に厳しい人物であることは舞台版や前日譚のコミカライズでの描写の端々(まだメイン回は来ていないですが)からも感じられます。



なのでこういった人間関係の輪にはあまり踏み込んでこない(このカットはこのカットで非常に良い画ですが)。舞台版においても、どちらかといえば「舞台少女」としての自分を高めることに注力したいという気持ちが先にあるためか、クラスメートの関係についてはあまり顧みない個人主義な面が出ていたので、そういった学校生活らしい人間関係には一定の距離を置いていることが考えられます。
この場面、ばななが聖翔祭に向けて、B組の舞台創造科と一緒に脚本演出にも携わる決断をした事で、心配した面々が一堂に会しているわけなのですが、以下の画像からも分かるようにこのテラスに取り囲む面子の枠外から、ばななにエールを送っている事からもこういう行為をすることの方が真矢にとっては稀であるのが分かります。



そしてここで登場する、紙飛行機。ひかりが去った直後、右から左に入ってくるのですが、素直に受ければ、紙飛行機=真矢であるように思います。これについてはちょっとした仕掛けと言うか、因果関係が見られるので追って説明しますが、真矢が「トップスタァの高みを目指す同士」として共鳴するシグナルみたいなものだと考えていただければいいかと。言ってみれば非常に意識の高いレベルでの共鳴なのですが、ばななにエールを送っているのも、そういった彼女なりの価値観での行動だと思われます(ばななにとって見れば仲間の一人ですが)。しかし画像からも分かるように、ばななの作ったマフィンを受け取っていながらも、真矢の視線はたった一人に向けられているわけです。その視線の先にいるのはもちろん。



場面は前後しますが、時系列的には前回の直後なので、純那や華恋がクタクタになりながらも登校していたのと同じように真矢とのレヴューオーディションに負けたクロディーヌはその敗北感からか午前の授業を欠席しています。登校してきたのは以下の画像のように昼休み明けから。



彼女は真矢と違って、クラスメートにはフレンドリーで社交性もある性格。子役としてのキャリアも持っている点では他の舞台少女たちよりも一歩先に進んだ存在でもあります。また前回の感想でも語ったように「人目につく存在で常に周囲の注目を浴びやすい」人間でもあるので、人当たりの良い人格は子役時代から連綿と培われたものだろうというのも、想像に難くない所でしょう。



それでここのカットも非常に印象的。さきほどの真矢のカットと同じくなめカットの一種であると思うのですが、今度は画面からなめものや脇のモブキャラを画面外に退場させていって、クロディーヌだけを際立たせている。彼女が机に鞄を置くまでの1カットですが、真矢とは対照的に存在感を主張しているものになっていて、余分な枝葉はさらに切り落とし、画面の中央に置くことで空間を支配している。そして、その空間に切り込むように真矢の台詞が発せられる。



「おはようございます」と真矢が言った瞬間、クロディーヌが振り向き、紙飛行機が空へと舞い上がるカットが挿入される。その瞬間、クロディーヌの支配していた空間が崩壊し、アイレベルが下がった引きの構図で真矢とクロディーヌのいる空間が現われ、元の風景に返る。ここの画面の組み立ても秀逸で、クロディーヌの真矢に対する「執着」を浮き彫りにしてる点で見事なシーンです。
とはいえ、ここで注目したいのは真矢の方。もちろん真矢が現れたことで、クロディーヌの纏う雰囲気が切り替わっていくのは確かなのですが、よく考えてみてください。先ほども説明したように、馴れ合った人間関係には踏み込んでこない真矢がクロディーヌだけには自分から率先して挨拶を交わしに行っているんですよ……! これをどう取るべきなのか。また紙飛行機が風に吹き上げられて空高く浮かぶのを見る限り、真矢(紙飛行機)は自身をトップの高みに押し上げるのはクロディーヌ(風)しかないと見ているのではないでしょうか。その点では、テラスを右から左へと紙飛行機が流れていく先ほどの場面も風の有無がとても重要で、真矢を吹き上げられる存在(風)はこの中にはいないと物語っているのも同然なのですね(ただしひかりだけは真矢が現れる前に立ち去っているので、その限りではない)。
しかし、それだけでは説明がつかない部分もあります。真矢→クロディーヌとクロディーヌ→真矢では関係性の温度差があまりにも大きい。クロディーヌが真矢に向ける感情はここまで見てきても分かるように、「自分の上を行く存在」だからこそ尋常ならざる『執着』を見せているわけですが、真矢のクロディーヌに対する『執着』は趣がかなり異なるものに思えるのです。




それは一年前の聖翔祭公演時の出来事でも見て取れます。「スタァライト」の主役であるクレールとフローラを演じることになった真矢とクロディーヌ。おそらく「同じ舞台に立つもの同士、頑張りましょう」という意味で手を差し伸べる真矢に対して、表情が曇るクロディーヌ。そして耳元で「私は負けてない」と囁き、敵愾心を露わにする。このすれ違いが、彼女たちの関係そのものでしょう。以下の画像のクレールとフローラの距離感も同様に彼女たちへと呼応した構図でもあります。



「上を行く存在」だからこそ負けたくないというライバル心を燃やすクロディーヌ。一方で「トップの高みを目指せる同レベルの存在」だからこそ、お互いを高めあいたい真矢。少なくとも真矢にとっては、自分とクロディーヌのどちらが実力が上かどうかはまったく問題にしていなくて、自分と同じ目線に立てる人間として彼女を認めているからこそ、理解り合いたい。もしくは友情を結びたいと感じている。しかし、クロディーヌは彼女への『執着』が邪魔して、その真矢の気持ちには気付けない。だからこそ想いがすれ違うし、真矢の気持ちは一方通行にならざるを得ない。



そのように考えると、真矢はとても不器用だ。真矢は単純に上記画像のように「クロディーヌと同じ舞台で輝きたい」と思っているのにも関わらず、それを言葉にして口にすることはしない。ただクロディーヌが向こうを張って挑んでくるので、真矢は「トップ」であり続けるし、彼女が気付くまでは何度でもその挑戦を受け続ける。そして「トップ」であることを思い知らせる。クロディーヌが自らの『執着』を克服するまでは何度でも何度でも。
真矢は自分の出生も含めて、「トップに立つこと」は義務だとも感じている。当然の「トップ」だからこそ、真矢は自らの『執着』を差し出して、クロディーヌへの気持ちをけして明かさない。彼女はきっと上り詰めてくるはずだから、という自負にも似た想いがあるから。真矢は彼女のためにも「トップ」に立ち続ける。



優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に足をもがいている。今回のレヴューオーディションで白鳥が印象的に出てくるのも、彼女のレイピアが「Odette the Marveicks」という名であることからでしょう。「孤独なオデット(姫)」と名付けられた武器のように、真矢も同じく、頂点という場で輝くために独りもがき続ける。願わくば、トップを競い合える強敵(とも)が欲しい、という事なのかと。

受け止める君のジェラシー
もし散るとしても潔く散ってはいられない
始まってしまったRevue
舞台 熱くさせた本気を見せつけて もっと
(『Circle of the Revue』〜スタァライトシアター収録曲より〜)


舞台版において、真矢は「挫折を知らない」と言い放っています。挫折を知らないからこそ、彼女には純那のような「何度失敗しても、何度でも立ち上がる」という感覚がおそらく実感できていない。常にトップに立つ者であるからこそ、「強者に屈服する」という経験がない。繰り返す部分もありますが、真矢が挫折を味わうためには「同じレベルに立つ者」の存在がやはり必要であること。

あの子は捧げた
あの子は切り捨てた
それは星に挑む 気高き意志
そう…だからこそ 私は!
(3話「トップスタァ」より台詞抜粋〜)


あの子が「星に挑む気高き意志」を捧げ、真矢がそれを切り捨てたことでその頂で輝く。つまり二人の覚悟が競い合い、競り勝ったことで真矢はその場に立っている。しかしあの子は星である自分(真矢)しか見ていないし、その気高き意志も自分が星であるからこそ向けられているものに過ぎないという皮肉。星でなければ自分を見てくれないのか、という疑問がおそらくは真矢の中に潜んでいる『あの少女への執着』ではないのかと。
だからこそ真矢は同じ領域に立てる者を常に求めている。その域に届いているのが唯一クロディーヌだけ、というの彼女の認識でありそれ以外の相手を「ライバル」としては足元にも及ばない、位には見ていそうにも思えます。だかららこそ「他人に興味がない」という風にも指摘される所以にもなっている。裏を返せば、彼女の設定する「ライバル」というハードルがあまりにも高いだけなのかもしれません。




そう考えていくと、華恋が彼女の相手にならなかったのもよく分かります。上に挙げた画像はその証拠といいますか。この紙飛行機の動きとレヴューでの華恋の動きが連動している、というのを筆者のTwitter上のTLで見かけた時、なるほどと思ったので取り上げさせていただきました。これも先ほど説明した、紙飛行機と風の関係で見ていくと、風(華恋)が紙飛行機(真矢)を空高く吹き上げるには弱くて、一瞬上昇するも次第に下降して、石像に当たり落ちていく、という風に見ることが可能です。今の華恋では真矢はお互いを高めあうことはできないし、そもそも彼女を「ライバル」とも、もしくは「舞台少女」だとも認識していない可能性が強いわけです。「トップスタァ」になる覚悟、あるいは本気が見えない『風』は乗らない、ということなのでしょう。



This is 天堂真矢。
このフレーズこそ、彼女を一言で集約しています。今現在、頂きで煌く星はただ一つ。その覚悟と孤高があるからこそ、彼女は「星」たりえているわけであり、その「星」の名こそ彼女その人である、というのを言い表しているのです。しかし、「星」が「星」である苦悩もまた潜んでいるわけで。真矢の抱える問題もこれから描かれていくことになるのでしょう。



【されど情熱は……】



ようやく最後の項に来ました。真矢を取り上げたのならば当然、西條クロディーヌにも触れます。またその関連で他のキャラについても少し触れたいと思います。というか3話、今後の布石が置かれすぎていて、こちらの処理が追いつかないのが大変で大変で。メインの真矢とクロディーヌだけでもお腹いっぱいだって言うのに、ちょっともうねえ。……愚痴はともかく見ていきます。
真矢を語ったときにも触れたように、クロディーヌは彼女に対抗心を燃やす少女です。俳優としては子役のキャリアもあり、次のステップに立つために聖翔音楽学園に入学してきたものと思われます。しかし、そこで初めての壁にぶち当たるわけです。もちろん天堂真矢という名の。初めて出会った「自分の上を行く存在」。天堂真矢に勝たなければ、自分はトップになれない。舞台版においても、アニメ版においても彼女は常に真矢の事を意識し、対抗しようとします。このままでは勝てないどころか、相手はさらに先に進んでしまうという意識も働いているのか、追いつくための努力も欠かさないのは、2話や今回でも描かれている通り。



※この画像は2話より引用。


行動だけ見ていると、かなり泥臭く練習を重ねている子なのですが、おそらくは真矢という存在には自分の持つ才覚だけでは勝てないということをこの学園に入学してから思い知らされた結果なのでしょう。そもそもこの聖翔音楽学校、芸事の専門校でもあるためか、生徒たちはやはり何らかの才能(とそれに準ずる原石)があると認められて入学してるはずなので、才能がない子はいないのではないかとも思うわけです。もちろんその大小は明白にあるでしょうけども。



だからひかりや華恋はもちろん、他の「舞台少女」たちもなにかしらの突出した才があるはずなのですが、多分まだそれに気付いていない人が多そうではありますね。もちろん物語の都合もあるのでしょうけども、それぞれがそれぞれの「星」を持ちなさいというのもその辺りが起因している話だろうと思います。それで今回は一部を除けば、公式設定されているカップリングからシャッフルされた組み合わせが提示されているわけですね。



見知っている仲では見えない心や本性もあるというは、現実にもよくあることで。今回は今後の布石という側面があるはずなので深くは掘り下げてはいきませんが、3話では花柳香子石動双葉の幼馴染コンビを振り分けて、まひるとクロディーヌをあてがっている。この組み合わせも結構対比になっていて興味深い。まずは香子とまひる
彼女たちは付かず離れずの存在がいるという共通点でまとめられる二人。香子は双葉。まひるは当然、華恋。彼女たちにとって欠かせない存在であるがために、いなくなった時の所在なさが目立つという点でどちらも相手に依存しているわけですね。その二人が風呂場で裸の付き合いしているというシチュエーションが中々面白いところではありますが、香子の方が腹にイチモツ持つ人間(これは舞台版でもそう)なので、その地が出てきたのに注目。この辺りの会話を聞いていると、ひかりという存在によって人間関係が動いていることに気付いた彼女がこの物語の不可解な部分を解明していく役回りとなって行きそうでもありますが、どうなっていくことか。まひるもこの前段で、純那と華恋の仲が進展していることに目ざとく気付いたりと、ひかりとくっついて自分との距離が離れていくことを懸念しているなど、「重さ」が目立つことからも既に見ているこちらとしてはヒヤヒヤものではあります。ただ舞台版に比べると相当に前向きな性格なので、それが裏返ったときの反動が早くも怖くあり。




もう一方の組み合わせ、双葉とクロディーヌの方は「実力が自分より上の人間が身近にいる辛さ」で結び付けられる二人。と、同時に「届かないことを思い知る」二人でもあります。だからこそ、彼女たちはトップスタァを目指すわけですが、こちらは上の組み合わせとは違い、依存というよりは「押し殺している自分を解放させる」事に問題点の糸口がある二人だとも言えます。双葉においては特にそう。幼いころから香子の守り役をずっとこなしてて、「自分らしさ」を出したくても出せない状況が続いていた人間。舞台版ではその感情が露わになった結果、という展開が待っているのですがそれはさておき。



そういった彼女たちの事情がなんとなく把握できたところで鳴り響く、レヴューオーディションの着信音。おのおのの感情が錯綜していく中で、自分たちの煌きと情熱をかけて、オーディションで対決していくわけですが、ここでばななの姿だけが見当たらないのにも注目。これがどういうことなのかはよくわかりませんが、今回、来年の聖翔祭で演出や脚本に携わる決断をしたということがおそらくはネックになっているはずです。彼女にとっては「舞台少女」と「演出家」という二つの可能性の狭間で揺れている人物なので、その辺りが関わっていそうでもありますが、今後の展開を眺める以外は今のところなさそうです。




さて、いよいよ本題。クロディーヌです。先ほども話したように双葉同様「押し殺している自分を解放させる」事が彼女の問題点の糸口だろうと思います。しかし彼女の場合は、自分を「押し殺している」わけではどうもなさそうなのです。もちろん「自分を解放させる」のが大事ではあるんですが、おそらく問題は他の誰よりも深刻なのではないか?というのが筆者の見立て。どういうことなのかは以下の画像で説明していきます。





今回の記事の冒頭で、舞台少女たちの持つ各武器に施された宝玉の輝きが大事であると話しました。この宝玉の色は公式で設定されているパーソナルカラーに分かれていて、輝きもその色に準じたものとなっています。先ほども説明したようにこの宝玉の輝きそのものは「輝ける自分」であると推察されます。つまりは「自分」があるからこそ、輝けるものがあるという解釈です。華恋は今回、トップスタァになることにまだ「自分」を見出せていないからこそ宝玉が輝かず、真矢に惨敗してしまったわけです。同様に他の舞台少女たちも「自分」を持っているからこそ、「個性」が光るわけですね。
ところで、クロディーヌのパーソナルカラーはオレンジです。ですから、とうぜんオレンジに輝く宝玉がどこかにあるはずなのですが・・・。





見当たりません


そうなのです、彼女だけ宝玉が輝いていないどころか、宝玉らしきものが彼女の武器には確認できないのです。そんな馬鹿な、とお思いでしょうが、おそらく自身のきらめきが一番少ないだろう、ひかりの武器にも宝玉の色はあります。ものすごく小さいですが、1話から引っ張ってきた画像からも確認は可能です。この通り。



クロディーヌだけが武器に「自分の色」がないのです。それを確認する、一番分かりやすい画像が2話ラストの真矢に敗亡して膝を付く場面でしょうか。彼女の剣の根元の辺りをよく見ていただくと分かりやすいです。



宝玉があるだろう箇所が黒ずんでいるのがお分かりでしょうか。もしかしたら、真矢にきらめきを奪われたからこうなったかとも思いましたが、そうなると華恋に負けた純那も輝きを失っていないと説明が付きません。となると、どういうことなのかということです。今まで説明してきた話を総合すると、こうなります。


クロディーヌは真矢に固執するあまり、自分が見えていない


いわゆる「灯台下暗し」な状況に陥っている、というのが現状考えられうるクロディーヌの問題点です。自分の上に立つ強大なライバルの輝きに目が眩み、自分の姿が見えなくなっている。「自分らしさ」を見失ってしまっているからこそ、武器の宝玉は輝くどころか、色すらも失ってしまっているわけなのですね。この点だけ取ってみると、他の舞台少女たちよりも問題は深刻であるように思います。クロディーヌが真矢に執着することを止めて、自分を見つめ直す事こそが真矢に打ち勝つ道筋だとも思うのですが、果たして彼女はそこに気付けるのかという所も今後の注目点でしょう。

情熱は燃やすためにある
一度燈った この炎は消せないよ
(『Circle of the Revue』〜スタァライトシアター収録曲より〜)


今のところ、クロディーヌの情熱は全て「打倒・天堂真矢」に向いているのです。それはつまり自らを成長させるべき「情熱」すらも彼女へと向けてしまっていることと同義です。ですから、クロディーヌの情熱の傾け方が彼女自身の為になっていない。彼女が自分のために「情熱」を燃やしていない以上、いくら戦っても真矢に勝てないのも至極当然のように感じられてしまいます。


頂きに煌く星は一つ
されど あの子の情熱の炎は…
(3話「トップスタァ」より台詞抜粋)


上の画像に重ねて、真矢が引用の台詞を語る。この最後の言葉に次ぐものは「まだ燈っていない」なのかなと、ここまで説明してきた内容を踏まえると想像してしまいます。これは完全に憶測ですがクロディーヌをよく見ている真矢だからこそ、彼女の問題点にも気付いているのではないでしょうか。裏を返せば、彼女の武器につけられた名前は「Etincelle de Fierte(誇りの火花)」です。プライドが高い以上、「自分」が見えていなくても意地で戦って、勝利を得ていたと考えるとそれはそれで強い人間でもあるなとも思えます。
とはいえ、双葉と対決したことでなにか吹っ切れた表情になっているのは自分の何かを見出したのか、それとも素直になれたのか。どちらにせよ、彼女にとってはようやく自分を輝かせるスタートラインに立てたのかもしれません。クロディーヌの色が輝くのはいつになるのか。注目して見ていきたいと思います。


次回に続く
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※なお本感想はあくまで個人の印象によるものです、悪しからず。


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