In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2017年6月)No.1099〜1111

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
世間はすっかり梅雨入り、いよいよ夏の足音が聞こえてくるそんな季節になってきました。
6月は映画を見る機会を増やしたりしてたので、12枚とかなり少なめな枚数に。
しかし、5月末の複線だったりとか仕掛けもやってみたりでこれはこれで満足。
全体的には引き続きアメリカンミュージックがメインですね。後半からオルタナ特集的な部分も。
今月はもう少し、鑑賞枚数を増やしていければなと思います。
というわけで以下より感想です。


アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック

アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック

・72年発表2nd。前作に引き続き、新主流派的な前衛サウンドが繰り広げられるスタジオ録音と5〜7の東京でのライヴ音源を合わせた作品。どちらも演奏の即興性に重きを置いた、空間的かつ浮遊感のあるサウンド。また彼らの全作品中唯一、ギタリストを加えた編成が聞けるアルバムでもある。
性急なビートと空間を切り裂くように鳴り響くサックス、底を這いずり回るベースの低音。ピンとした緊張感のあるエレピが立体的に音を組み立てていくのが、さながら肉体に電流が走るようなピリッとした雰囲気で刺激的に流れていく。真っ白な空間になるクールで印象的な音が初期サウンドの特徴だろう。
これがライヴになると打って変わって、非常に熱気のあるインプロヴィゼーションになって、プレイヤーの熱気が渦と化し、血流が目まぐるしく動き出す様子が窺えるのだ。そういったクールネスとパッションを両方を感じられる面白い一枚。なお、アルバムタイトルはブラッドベリの短編小説から。SFな響きも印象深い。

SGT.PEPPER'S LONELY HE

SGT.PEPPER'S LONELY HE

・67年発表8th。架空のブラスバンドによるショーという「コンセプト」を掲げて製作された史上初のアルバム。そのコンセプトの縛りは今見るとかなりユルい物ではあるが、提示されたアイディアはロックミュージックを「アート」として成立させうる、革新的なものだったことは確かだ。
「コンセプトアルバム」という概念によって、アルバムに演劇的な物語性やテーマ性を付与できるようになったし、クラシックの組曲のように楽曲を構成(※先例はあるが)し、ひとつの「作品」として表現するなどの、「解釈」の枠組みを広げたことがこのアルバムの歴史的な価値だろうし、影響の大きい点だ
そんな作品を見ていくと、全体を引き締めているのは1、2と12で、それ以外は前作の作風をそのまま発展させた、サイケデリックにインド趣味を織り交ぜた、桃源郷のような趣を見せている一方で、サーカスやパレード的なコミカルな印象やとぼけた雰囲気を感じる楽曲が多く、お祭り的な趣があるのが特徴
前作のタイトな雰囲気と比べると、雑多でカラフル、かつ大衆演劇というか喜劇というか、作品に規定された「コンセプト」によって、バンドは虚構化し、現実とは別の役割を演じる楽しさのようなものが伝わってくるのが本作であるような気がする。バンドが「フィクション」で遊んだ作品という印象。
だから無邪気さを全体に感じる作品なのだが、それが一転して現実に引き戻されるのがラストの13。現代音楽のミュージック・コンクレートという手法を扱ったこの曲によって、アルバムのコンセプトは閉じられて、ビートルズが我に返る、という仕掛けになっていてある種、夢から覚めたような効果がある。
そういう点では「夢と現実」を扱った作品でもあり、その幻想感はハッピーなサイケデリアでもある。富も名声もいらない、ただ音楽を楽しむバンドになれたら、という想いをどことなく感じるのはビートルズという歴史を知ってるからかもしれない。意図的ではないにせよ、そんな雰囲気が滲む作品でもある。
実際、これまでの作品と以降の作品を眺めると、このアルバムの存在感はかなり異質だ。この無邪気さとハッピーなノリを演じることが「幻想」だと考えると、これはバンド崩壊の序曲だったのかもしれない。そういう点で言えば、バンドのターニングポイントでもあったのだろうと推測される。
このアルバムをリリースした直後にマネージャーのブライアン・エプスタインが急死し、バンドの運営も不安定さを増していくことになる。歴史的な名盤として評価は揺るぎないものだが、急速に何かの終わりが迫ってくるのをひしひしと感じる一枚。その生々しさが、この盤の強みなのかもしれない。

Sweetnighter

Sweetnighter

・73年発表3rd。ジャズからクロスオーバー(フュージョン)へと移り変わる瞬間を捉えた作品。前作までの前衛的要素を取り入れたジャズ路線から、ファンクの反復ビートを取り入れたことによって、サウンドが色付きだしたのが大きな変化といえる。まだ完全に混ざり合っていない半生な状態が興味深い
ジャズのアーティスティックな知性とファンキーなビートの動物的な感性が織り成す演奏は今までのアブストラクトな神秘的響きに実像を与え、より壮大な何かが姿を現すような、新しさを提示する。グループの音も明確になったことで、目指すべき方向もはっきりと見開けたように感じた。
ジャズの可能性の先にある「ジャズではない何か」。この命題を得たグループは、ジャズをベースにさらに発展していくことになるが、ここではまだジャズの形式を抜け出ていなかったり、ファンクを咀嚼し切ってなかったり、と粗さが目立つ。だが、新しいものを生み出そうとする熱気は伝わってくる一枚だ。

Reckless Nights & Turkish Twilights

Reckless Nights & Turkish Twilights

・92年発表編集盤。20世紀アメリカの知られざる作曲家にして電子音楽家兼工学エンジニアの1937~40年ごろの音源を集めたコンピレーション・アルバム。セクステットなのにカルテットを名乗った、彼が率いたバンドの演奏がメイン。区分的にはジャズということになると思うが、掴み所がない音だ
端的に言ってしまえば、カートゥーン・アニメで流れてくるようなジャズっぽい、あるいはラグタイム的なコミカルでモンドチックな音楽。実際、本作に収録されている曲のいくつかは、カートゥーンの作品にも使用されており、聞き覚えのある人もいるかもしれない。キッチュで独特な魅力を放っている。
録音自体は古臭いが、曲やメロディはレトロだがタイムレスな趣のある奇妙な味わいなものばかりで、その経年変化に耐えうる楽曲の数々は6~70年前の音源とは思えない出来だ。BGM的な感じなので流して聞いていても結構楽しい、グッドメロディが集まった良編集盤かと

The River

The River

80年発表5th。ロックンロールの未来とも評された、ブルース・スプリングスティーン初期キャリアの集大成的二枚組アルバム。アメリカの若者の叫びを代弁するかのような溌剌とした活気に満ちたロックが鳴り響く。プレスリー直系のアメリカーナなロックによって描かれる光と影がとても印象的だ。
一枚目と二枚目で構成が対照的になっていて、軽快なロックが鳴り響き、労働意欲が涌いてきそうな元気のいい一枚目と後の作品にも繋がる、内省的かつメッセージの込められた弾き語りスタイルの楽曲が収録された2枚目。どちらも彼の魅力を伝えるには十二分なほど役割を果たしてる。
作品で鳴り響くのは極めてオーソドックスなロックだ。目を引くような派手さはなく、しっかりと楽曲の重みと込められた意味が息づいた生真面目さを感じる、実直な音楽。あたりったけの若さが詰め込まれているのもそういった瞬間を通過して、次の段階へと進むからこそだろう。大人に羽化するための傑作だ

Suicide

Suicide

77年発表1st。98年りマスター盤にて視聴。NYアンダーグラウンドの伝説的存在の初作。アナログシンセとリズムマシーンのみ演奏で繰り広げられるロックンロール・パーティ。後に発展するシンセミュージックの潮流からは思い切り外れた、その可能性を駆使しない雑な使い方が異彩を放つ。
というより演奏の省力化と簡略化の結果、これで全てを賄ってしまえというテキトーさとそのアナーキーなパフォーマンスが、かなりパンキッシュな姿勢に感じられる一方で、楽曲の方はそういった雑さ加減に垣間見える、聖と俗のコントラストが極めて印象的だ。その辺りのチープ感がサブカル的でもある
オーソドックスなロックンロールマナーに始まり、俗物感と猥雑さに塗れた、トラッシーな演奏がローファイたっぷりに鳴り響き、バンドの代表曲6でそれがピークに達する。絶叫が入り混じるヴォーカルはさながら地獄の呻き声だ。が、その合間にそれらが洗い流されたようなメロディが聞こえてくる。
ゴスペルのような響きを持った旋律がそのチープでアングラな演奏と相まって、汚染と浄化を繰り返すアルバム構成によって奇妙なギャップを生み出し、それが最後10の神々しいまでの美しさに結びつくのはある種確信犯的なもののように思う。野性的だが非常に計算高く、強かなものを感じた。
なおこのバージョンではリリース当時のライヴ音源と23分にわたるEPが別ディスクにカップリングされているがそちらも録音と違わぬパフォーマンスを見せていて聞き応えがある。彼らのラディカルな姿勢を生な状態で聞けるのが興味深い。ゴミ溜めの中で光り輝く宝石のような名作かと。

Second Album

Second Album

80年発表2nd。アングラ・インダストリアルど直球のローファイ・シンセパンクが打って変わって、キッチュなシンセポップとボディミュージックが交互に展開される、音楽らしい内容になっているのが最大の変化だ。どこかしら絶望感と死の匂いを漂わせていた前作の雰囲気は雲散霧消している。
前作の雰囲気からやや回復の兆しがあって、沈鬱さと諦念な趣で繰り広げられるのが特徴というか、インダストリアルサイドとメロウサイドに曲調がはっきりと分かれている。インダストリアルサイドは、DAFを髣髴とさせる無機質なビートに吐き捨てるようなヴォーカルが重なり、前作の趣を残す作り。
対してメロウサイドは、とことんチープな甘味料的メロディが甘美に響き渡る。こちらの方はWashed OutやNeon Indianといった00年代後半から10年代前半に勃興したチル・ウェイヴの源流的なサウンドで、そのローファイ感たっぷりの安っぽさが返って、ポップさを高めている。
後進グループの人工感やサウンドレイヤーのくっきりと整理された音に比べると、こちらは非常に雑味のある、汚れが染み付いてるようなダーティな雰囲気が趣深いというか、NYアンダーグラウンドの垢抜けなさなのだろうと思う。前作の音が軟化しているのは否めないが、噛み切れない弾力さが魅力の佳作か
00年リマスター盤は本編以外にThe Carsで知られるリック・オケイセックがプロデュースしたシングル三曲とボーナスディスクにデビュー前のリハーサル音源が付属されている。ボーナスディスクは1stの雰囲気を感じさせるローファイサウンドが聞けるのでファン垂涎の音源だろう。
余談だがボーナストラックのシングル曲のうち、「Dream Baby Dream」は10年代に入ってから、ブルース・スプリングスティーンにアルバム収録曲としてカバーされるというビックリな展開を見せたのも記憶に新しい所。当時は捉え所がなかった(だろう)が再評価が著しい一枚とも言える

Singles Going Steady

Singles Going Steady

01年発表編集盤。マンチェスター出身パンクバンドのシングル曲集。いわゆるパワーポップ、あるいはラブソングをパンクに乗せて歌った初のグループとして知られるバンドでもある。パンクロックの疾走感に、甘酸っぱさと屈折感を携えたメロディが冴えを見せる。そして非常にポップだ。
メロディについていえば、後にマンチェスターから台頭していくバンドのあれやこれを思い浮かべるような、ドラッギーな煌びやかさとそれが裏返ったような陰影の濃い屈折感があり、それらの源流的、あるいは土地柄を感じさせてくれるものである事が窺える。王道を行きながらも斜に構えているというか。
その姿勢が返ってシニカルさを生み出しており、その諧謔精神が非常に英国らしいというべきか。ともあれ、入門編にしてオリジナルアルバムより彼らの魅力を引き出している編集盤として評価が高いのも頷ける一枚。パンキッシュでポップなメロディの目白押しなので初心者でも気軽に聞ける懐の深い作品かと

SUN(通常盤)

SUN(通常盤)

15年発表8thSG。明確にソウル、R&B路線にシフトしたシングル。70年代後半〜80年代初頭のディスコやライトメロウ、AOR的なメロディが耳に心地いいつくり。適度なグルーヴィミュージックに塗されたのは日本語のあどけない音節の響きであり、人懐っこい言葉の温かみであり。
この中庸さ加減となんとなしにホームメイドな感触が日本人らしくもあり、かつてMTVを席巻した80sポップスのノリをそのまま日本風に馴染みやすく、落とし込んでる辺りの計算高さというかクレバーで抜け目なく聞かせる、完成度の高さも見逃せないか。ともあれ抜けのいい音が楽しいシングルだ。

73年発表1st。今やアメリカを代表するSSWの処女作。後年の作品と比べても非常に若々しい音が鳴り響く。独特のしゃがれた歌声もまだ深みがなく、むしろ瑞々しさすら感じられる。内容的にはバンド演奏と弾き語りスタイルが入り混じるがやはりバンド演奏に力強い印象を持つ。
特徴としてやはり目立つのは、アメリカ大陸という土壌の雄大さより、アメリカ社会、特に都市部の情景を歌っている所に尽きるか。ディランが歌うような文化伝承的寓話性に対して、現代アメリカの情景をありのまま描いたことにシャープな印象を受ける。バントサウンドの乾いた音もそれに一役買っている
それでいて、プレスリー直系のようなロックンロールスタイルでそういった都会の光と影が歌われるわけだから、「ロックンロールの未来」と当時形容されたのも分からなくはないか。ただ本作は勢いに任せている部分と弾き語りの魅力はまだまだ出きっておらず、青さを感じさせる分、粗さが目立つ。
とはいえ、初作にして音楽性はすでに確立されているし、そのスタイルは今もなお一貫してブレていない。プレスリーの躍動感とディランらのメッセージ性を併せ持つ個性の船出としては、アルバムのタイトルの通り、この上ない挨拶状になった佳作だろう。荒削りながらも魅力的な一作だ。

Dead Letter Office

Dead Letter Office

87年発表編集盤。彼らの所属していたレーベルであるI.R.S時代のシングルB面&レア音源集。ヴェルベット・アンダーグラウンドのカバー曲やCD版には彼らのデビューEPであるChronic Townが増補収録されていて、彼らの活動初期を総決算した内容となっている。
サウンドの質感的には同時代のザ・スミスとようにギターのアルペジオリフを主体とする殺伐とした趣のいなたい青春の響きが聞こえる。とはいえ、パンク由来の疾走感はあまりなく、アメリカのバンドらしい大らかさが全体を支配しているのもあって、ザ・バーズ辺りのフォークロックにも通じるのが興味深い
むしろ殺伐さにおいては上記のバンドより深度が大きいように思う。こちらの方が淀んでいる印象であり、屈折したぎこちなさがよりまとわりついている。粘着質というか。この時期におけるマイケル・スタイプの歌唱にも顕著だが、ネイティヴが聞いても聞き取れない歌声もそんな捻くれた感情の表れだろう
そんなミステリアスで閉鎖的な姿勢ゆえの痛々しい若さやその苦味が滲み出ている一方で、サウンドの骨子自体は中道的なもので、オーソドックスな演奏であるため、ひとつ皮をむけばアメリカンロックの王道を響かせているのも抜け目ない所か。穏やかで淀んだ殺伐さが妙にクセになる佳作。

Green

Green

88年発表6th。メジャー進出第一作。インディーズ時代と比べると、サウンドがだいぶ明朗になって、Voも聞き易くなっており、ドラスティックな変化が窺えるが、元より音楽スタイルはアメリカンロックの王道を突き進んでいたので在るべき所に収まったような印象も受ける、安定したサウンドだ。
彼らの素地にあるだろう、フォークロックの趣が前面に押し出される一方で、マッドチェスターやセカンド・サマー・オブ・ラブに呼応するような、打ち込み的なダンスビート風味が各曲にまぶされていて、そのテクスチャーが当時を喚起させる。ブリットポップ的なアプローチでもありその肌触りは面白い。
マンドリンアコーディオンなど、トラディショナルな楽器を使っていることやバンド自体の屈折した趣がUKバンドっぽくもあるが、その拭えないどよんとした違和感こそがこのバンドの最大の特徴でもあり、そんな穏やかな淀みからくる諦念によって、共感を得たのではないかとも思う。
彼らのようなブレない個性があると、サウンドは時代の影響を受けながらその都度、変化していくのだろうと思われる。本作もそういったアプローチの中で、メジャーに行ったことで変わった部分もあれば、そうでない部分も感じ取れるのではないだろうか。どこでも成すべき事は同じという強い意志を感じる佳作。

You're Living All Over Me

You're Living All Over Me

・87年発表2nd。前作で提示されたサウンドがさらに鋭利かつノイジーになり、怒涛の疾走感で押し寄せてくる名作。青臭い焦燥感と鬱屈した感情が、容赦なく轟音となって鳴り響く様は社会への反抗心として鳴ったパンクとも違い、非常に内省的に深く心に刻まれていくのが非常に興味深い。
この作品が世に出る10年前に勃興したパンクの音と比べると、本作は非常に自意識との対話的な音である。心の中に表れてくる、陰鬱な感情やどろっとした心の淀みやあるいは歪みを咆哮としてぶち撒けている、はたまた自己を開放しているようにも聞こえる。ある種、自己治癒的な音楽。
精神の弱さやダメな部分をはっきりと自覚・肯定することで前向きな何かを覚醒させるようなイメージ。バンドがそのあたりを意識してやっているかは甚だ疑問だが、結果的にこのダウナーな音楽におぼろげな光を感じるのは、そういう面もあるように感じる。アメリカ的な大雑把な部分も含めて、希望も持てる名盤だ。