In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2017年8月) No.1126〜1135

月一恒例の音楽鑑賞履歴。もう9月ですよ、早いなあ。
12枚(※三枚組含めて)
毎週の映画鑑賞と後半体調を崩したせいであんまり聞けてませんね。
しかし、今年の夏はあまり晴れ間が少なくて、夏っぽい感じが余りありませんでしたね。
そう言っても気温は高くて、じめっとした天気が多かったのですごしやすかったかといわれるとそうでもなく。
9月もこの調子で寒くなっていくのかなというこの頃。
今回はUK特集です。ディペッシュモード特集でもありますか。
じめっとした夏らしく(?)、ウェットなものを聞いていたようにも。
9月も地道に聞いていきます。
というわけで以下より感想です。


Construction Time Again

Construction Time Again

83年発表3rd。前作の耽美なアート感覚にインダストリアルな趣が重ねられて、より硬質なサウンドとビートが提示された一枚。とはいっても、シンセの音の厚みはまだ薄く、どこか軽やかさの残る雰囲気が今、聞くと独特なバランス。煩雑とした工業的な鉄くささと宗教的な清廉さが入り混じった印象。
この当時、日進月歩な勢いだったシンセサイザーの進化速度に比例してか、音色はさらに増え、ブラスシンセなども聞けるし、リズムパターンも格段に広がった。全体にインダストリーな硬質さが漂っており、前作の繊細な印象とは打って変わって、マッシヴな印象が強く、耽美さも肉感が増している。
こういった音の印象に東洋的なリズムパターンなども加わり、ヨーロッパに限られないエスニックな情緒をも取り込んで、エレポップに纏め上げる手腕の冴えを見せてている。初作のポップな姿は完全に払拭されて、新たな音楽性を確立したアルバムとして記憶される一枚だろう。深みはまだないが味は定まった。

Black Celebration

Black Celebration

86年発表5th。従来の路線にゴシック色が上乗せされた感のある作品。インダストリアルなサウンドが深化する一方で、サンプリングマシーンの台頭もあったりで、生楽器の音が挿入されたことで、若干硬質さが和らいだ印象。この辺りは同年発表のニュー・オーダーの「ブラザーフッド」とも重なる作りだ
だが彼らは刹那的な快楽性を求めることなく、求道的に自らの音楽性を掘り下げている。ゴシックというとなんとなく幽玄な儚さも付随してくる印象だが、従来の無機質かつ工業的な音が儚さより実像も浮き上がらせており、質量を感じさせる。翳りのある音が物質になって、迫ってくる感覚に囚われる。
そうやって深化した音とインダスリアルビートからはその無機質さゆえに一種の荘厳さというか、宗教的な神聖さを図らず纏っているように聞こえる。アルバムタイトルもそういった感覚にメンバーが自覚的だという表れなのだろう。質感はダークだが宗教的な慈愛と優しさも滲み出ている好盤だ。

Music for the Masses

Music for the Masses

87年発表6th。前作のダークな印象から、ストリングスや生楽器の比重を高めて、光が淡く差し込んでくるブライトリーなサウンドとなった作品。前作が真夜中だとすれば、本作は夜明け前の透明感のある趣。なお本作からデジタル録音。重苦しさが抜けて、サウンドスケープ的な奥行きのある景色が広がる
この広がりのある透明感は本作のプロデューサーの一人、デヴィッド・バスコム(ピーター・ゲイブリエルティアーズ・フォー・フィアーズなどのレコーディング・エンジニアを担当)によるものかと思われる。実際、ここまでの作品の中でも一、二を争うくらいに明るい音だろう。
だが前作で見せたゴシック色も消えておらず、シンセの比重が減り、ストリングスや生楽器の響きが増した事で、音の印象を変えつつも宗教的な荘厳さは維持している。漆黒の闇から、透き通る冬空に差し込む光のような雰囲気を感じる一枚。ここまでの作風の集大成的内容だろう。ポップよりアートさが印象的

Violator

Violator

90年発表7th。新たなフェーズに入った感のある作品。最高傑作との評も高く、全米でミリオンセラーになったことからも本作で世界的なトップバンドの仲間入りをした最大のヒット作でもある。サウンドはメインのシンセサウンドが前作から比べても、格段に重くなり、ずっしりとした印象を受ける作り。
ゴシック色も継続し、デカダンな趣と陰鬱さが加えられた事で従来のダークでインダストリーな持ち味はさらに進化した。色の黒さにグラデーションがついて立体感が増したのが彼ららしい多彩さになっていると思う。今までなかったエレキギターも重ねられ、音の分厚さも初期とは比べものにならない。
一方でこのダークな趣がポップに響くのが興味深い。重くはあるのだが、シンセサウンドの密度が足取りを軽やかにしており、のど越しのいい響きで鳴っているためなのだろう。同時に全体に通じる仄暗く、物憂げなトーンはブルージーにすら感じられる。ゆえん「泣き」のトーンといわれるアレだ。
そのブルージーさはおそらく欧米の人々の琴線に触れるものであり、彼らより先立つバンド、例えばピンク・フロイドなどの持つ質感と同種のものだと感じられた。そういう点はエレクトロ方面からのロック的なアプローチの先駆とも言える。彼らの代表作はそんな普遍性が内包した一枚なのだ。

Red Thread [限定スペシャルプライス仕様・ボーナストラック2曲・歌詞対訳・日本語解説付き国内盤] (BRC-156LTD)

Red Thread [限定スペシャルプライス仕様・ボーナストラック2曲・歌詞対訳・日本語解説付き国内盤] (BRC-156LTD)

06年発表1st。マンチェスター出身のバンド。同郷らしく、ローゼス系のグルーヴがかった演奏にザ・スミスの系譜にも通じるネオアコの趣も感じるサウンド。が、ニュー・オーダージョイ・ディヴィジョンのエレクトロな感触もごった煮になっていて、後発のバンドらしいアップデート感も印象に強い。
同郷で同期バンドにリヴァプールの気鋭レーベルであったデルタソニック所属のThe Longcutがいて、彼らと似通っているサウンドともいえるか。テクノミュージックをロックとして再構成というか、ロックとしてテクノを演奏するバンド、という少し変わったアプローチをしているのが特長だ。
先に語ったように、ザ・スミスのようなネオアコサウンドのテクスチャーを、アタックの強いベースラインで導いて、テクノのレイヴ感を出そうとしているのが独特で、ローゼスがテクノをロックに飲み込もうとしていたのに対して、その辺りの価値観がとてもフラットなのが当時らしいアプローチ。
ロックもテクノも関係なくより純度の高いダンスミュージックを人力の演奏で抽出しようとしてる試みは振り返ってみれば興味深いし、同じアプローチでブレイクしたフランツ・フェルディナンドの発展型として捉えると、荒削りながらも聞き応えの力作だろう。クラブの密室感と切なさもよく出ているかと。

Vice & Virtue [ボーナストラック・歌詞対訳・日本語解説付き国内盤] (BRC-213)

Vice & Virtue [ボーナストラック・歌詞対訳・日本語解説付き国内盤] (BRC-213)

08年発表2nd。前作の趣にクラウトロックシューゲイザー的なシーツ・オブ・サウンドが甘く深遠に響く一枚。前作よりもロックミュージック的なダイナミズムが増して、スケール感が大きくなったようにも。テクノやエレクトロの高揚感をロックのグルーヴに落とし込むサウンドも堅調さがある。
端的に言えば、The Horrorsの2ndに非常に近いアプローチなのだが、もちろん発表は本作の方が1年早い。ミニマルなハンマービートのグルーヴ感にシューゲイザーの密な空気感とネオアコの疾走感や瑞々しさが絡み合っているのは、前作でも語ったようにマンチェスターという土地柄を感じる
そんな演奏のアプローチが悪くない一方で、歌メロの弱さが若干目に付く印象で、クオリティは高いのだがキャッチーさと印象に欠けるのが惜しくもあるか。事実、バンドはこのアルバムと一枚のEPをリリースした後、活動を休止してしまう。興味深い可能性のあるバンドだっただけに残念だが良盤な一作だ。

ソウラライズド

ソウラライズド

04年発表4th。前作の醒めたエレクトロ色を踏襲しながらも、よりエスニックでダビーな感覚を強めてきた作品。特にダブ特有のエコー処理などはしてないが、サウダージな印象やダルなギャングスタ感覚が多用されているホーンや電子音と重なって、サウンドの味わいに深みを出している。
イアン・ブラウン本人も自らの声の特質を知っているのか、この抑揚はないが引き付けられる声色を、楽曲の中に上手く配置している印象でサウンドも自然とドープな趣へ向かわせている。閉塞した闇の中で光を見出すように感情のこもらない歌声がクールに響き渡るのが非常に興味深い一枚であり、傑作だろう
Elastic Rock Ltd.Ed. (Spec)

Elastic Rock Ltd.Ed. (Spec)

・70年発表1st。英国ジャズロックバンドの処女作。ソフト・マシーンとともにその双璧の一角を担ったバンドとしても知られるが、ソフト・マシーンの出自がサイケデリック・ロックである一方、こちらはよりジャズとして純度の高いクロスオーバーを最初から志向していたように思える内容だ。
メンバーの何人かが後年、件のソフトマシーンに流入していくのもあって、肌触りとして後期ソフトマシーンの硬質でシャープなジャズロックを早くも標榜している。このタイトな感覚は、中心人物のイアン・カーがトランペッターというのもあり、リー・モーガンジャズロック路線にも肉薄している印象。
そうはいっても、リー・モーガンの音に比べると、ロック的なダイナミズムとボトムラインが強調されていて、その力強さがジャズというよりロックだという事を象徴しているように思える。更には後期ソフツの、アブストラクトな趣はここではさほど強く出ておらず、そういう点でも骨太な音が聞こえてくる。
英国のバンドの割に音も割りと乾いているので、結構スタイリッシュな音に纏まっているのではないかと思う。しかし、それゆえにソフツのミステリアスな響きと比べると、印象は弱くなってしまうか。全体的にシブい魅力の良盤か。ギターに渋好みのクリス・スペティングが参加しているのもそれを助長しているかと

Kleptomania

Kleptomania

04年発表未発表音源集。幻となった4thアルバムの未発表セッション音源を含む、3枚組のマテリアル集。バンドが瓦解してしまった後、ファンの署名活動を受けて発表されたものでまさしくお蔵だしというにふさわしい内容だろう。1枚目が4thアルバム、2枚目がB-side集、3枚目がレア音源。
一番の目玉は一枚目の4thアルバムとなるはずだった楽曲の数々だろう。一聴した印象では原点回帰しつつも、よりソリッドかつコンパクトに収めようとしているが、元より一曲にこれでもかとメロディを濃密に込めるのが特徴であったので、それを考えると随分とアクが抜けたようにも感じられる音だ
より1曲ごとの完成度を高めにきているというか、先祖がえりするかのようなロックの重厚さを思い出させてくれるヘヴィなサウンドに英国らしいお国柄と伝統が現れているようにも思える。が、反面、その試行錯誤が見え隠れもしていて、レコーディングが難航するのも頷ける内容でもあるか。
2,3枚目はBサイド集とデモ&レア音源なのもあって、割と肩の力を抜いた感じのものが多く、やはり世紀末という過渡期に現れた、オルタナバンドとしての側面が強く出ているのが印象的でもある。ブリットポップからロック・リヴァイバルへのミッシングリング的な立ち位置であった事を再確認できる。
後進のバンドで聞けるような壮大さや、クラウトロックフォロワーな音も聞けたりと、随所に可能性を感じられるので、どうしても「もしも」が付きまとってしまうが、バンドとしてはこれで「清算」という側面が強く出ているように感じられる音源集といった所。なおCCCD版があるので購入の際は要注意。

Disraeli Gears

Disraeli Gears

・67年発表2nd。前作に比べ、格段に飛躍した作品でジャケットアートワークからも察せられるようにサイケデリック色が盛り込まれた作品。自作曲も格段に増えた一方で、インタープレイは鳴りを潜め、楽曲の完成度に重視した内容となっている。今聞くとサイケというより渋めのポップという印象。
ジャケットのカラフルさとは裏腹に、ブルースを基調とした陰影の濃いナンバーが並び、硬派な演奏が続く。その反面、コンパクトに収めたポップな感触も強まっているので、割り合いに聞きやすい。そういう点で彼らの中では最も完成度の高い作品だろう。短いながら代表曲の2など聴き所は多い。
プレイヤーとしてよりも三者とも、ミュージシャンとしての成長が著しい一枚であり、火花を散らすというよりはトリオとしての総合力の高さが出ている。なお6は次作に収録される「White Room」の原型にもなった一曲として知られる。入門盤としても推せる彼らの代表作だろう。