In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2017年9月) No.1136〜1147

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
前月と変わらず12枚。
今年は残暑もあまり厳しくなく、ここ最近ではいつになく秋の深まりを感じる9月だったかなと。
聴いている音楽もどことなく翳りのある感じのものが多いような気がします。
このまま今年は冬にまっしぐらとなりそうですね。今年もいよいよ年末が近づいてきました。
というわけで以下より感想です。

So, Who's Paranoid

So, Who's Paranoid

08年発表10th。前作のゴシック然としたパンクサウンドから、一転してダムドサウンドの集大成を見せ付けてくる内容。パンクあり、ゴシックもあれば、パブロック、サイケ…と、なんでもござれなサウンドだが、その一方でスタイリッシュにはなり切れない、垢抜けなさをそここに感じる。
なんというか良くも悪くも、英国の下町情緒というか下世話な大衆らしさが濃厚に立ち込めてくる雰囲気というか。小さなライヴハウスで力いっぱい暴れ回る様が容易に想像できるそういったエネルギッシュさと一種の人懐っこさを感じるポップさの洗練しきれない趣がとても彼ららしくもある。
頑なに方向を変えず、愚直なまでに我が道を進み行く姿勢に積み重ねた年輪の厚みを感じさせる。パンクだけに限らず、雑多な要素を含んだものになっているのもバンドの紆余曲折を血肉として、その雑味すら魅力へと昇華しているのだから息の長い活動も頷けるか。未だ現役感の衰えない、強靭な傑作だろう。

Phantasmagoria

Phantasmagoria

85年発表6th。中心人物の一人でもあった、キャプテン・センシブルの脱退もあって、サウンドががらりと変貌したことで知られる一枚。初期のパンクサウンドから一転して、バウハウスや中期のストラングラーズのようなゴシック色が強く打ち出され、陰影のコントラストが濃厚になった音が聞ける。
Voのデイヴ・ヴァニアンの趣味が色濃く反映されているらしく、歌唱も中低音を生かし、朗々と歌い上げるスタイルに変わり、演奏のテンポもやや落として、パンクらしい攻撃性は極めて薄い。が、そういった大胆な路線変更にも拘らず、なにか必然を持って変化したと思う程、アルバムの完成度は非常に高い
キラーチューンらしい楽曲はないが、全体を統一する耽美な美意識とそれを表現してしまえる演奏力の高さがバンドの底知れなさが窺えるというか、まさしく新境地を打ち出せてしまえる引き出しの奥行きの広さに感嘆する以外ない。しかもこの路線変更したサウンドで大ヒットしてしまうわけだから侮れない。
とはいえ、この翳りが強く、湿っぽいメロディラインは英国民謡らしいトラディショナルな趣をそここに感じられるのでその辺りが琴線に触れたのではないかとも想像する。シアトリカルでゴシックな印象がひたすらにカッコいい中期の傑作だろう。初期とはサウンドが全く異なるがまた別の魅力が輝く一枚だ。じっくりと内容で聞かせてくれる。

GAUCHO

GAUCHO

・80年発表7th。長らくグループの最終作だった一枚。名盤たる前作のしなやかなエレガントさやファンキーな趣に比べると、クールな趣がいっそう強まった印象を受ける。その冷ややかさが漂う、乾ききったサウンドはそのままドナルド・フェイゲンのソロ初作である「ナイトフライ」と地続きの音だ。
「ナイトフライ」に比べると全体のコンセプトがない分、より雑多な印象を受けるのが本作と見る向きはありそうか。先の作品がノスタルジーを付与している点もあるが、よりNYという都市の情景がサウンドに色濃く反映されているように感じ取れる。アーバンな雰囲気と人種の坩堝にある響きが映し出される
その完璧主義ともいえる徹底したスタジオワークによって、滲み出てくる緊張感や厳格さには名盤の次作という気負いも感じられるが、それ故ポップさにはやや欠けるか。全体に鈍く輝く硬質なサウンドで、「ナイトフライ」前哨戦という印象が強い良作。作風がブレない分、最終作という気もしないのも特徴か

Songs of Faith &...

Songs of Faith &...

93年発表8th。前作の世界的大ヒットを受けて、その華やかさを削いで、ストイックに音楽性を追求した印象を受ける一作。そういう点では耽美な趣を抑えて、再びマッシヴなインダストリアルサウンドに回帰したとも言えるか。とはいえ、以前の硬質な音に比べると、ずいぶん肉感的な音に変化している。
エレクトロ色とロック色は半々で、その適度に混ざり合っている感じがそういった音の肉付きに影響してるように思う。前作でも感じ取られたブルージーな憂いや本作で感じられるゴスペル的な慈しみが幾分か救いのある響きとなっており、その宗教観は過去作に感じられたものがアップデートされている感触も
よりフィジカルなサウンドになったことで音楽性の奥行きを感じる作品と言ったところだろうか。大ヒットした前作による気負いよりは売れたことによって、大いに音楽の幅を広げた印象が勝る。一方で全体にはいぶし銀的な魅力が光る地味さは拭えないか。派手さには欠けるがしっかり足場を踏みしめた佳作。

This Is What We Do

This Is What We Do

05年発表3rd。ライナーノーツによれば、ジャズロック的なサウンドを標榜した前作から再び、純ファンク路線に回帰した一作との事。実際、のっけからグルーヴィなギターフレーズに乗って、ファンキーサウンドが展開されている事からも明白で、全体にソウルフルな演奏が聞こえてくる内容だ。
ともかく演奏が非常に気持ち良く、気付けばいつの間にか半分を過ぎている、という位にファンクグルーヴが立て板に水のごとく、スムースに展開されるので一気に聞けてしまう。浅くもなくそれほど深くもなく、適度にグルーヴィーでファンキーなリズムとサウンドがとても抜けが良くずっと聞き続けたくなる
バンドの演奏もジャムセッションしてるような感覚で、全13曲の収録曲が1曲のように連綿と続いていくような違和感のなさは、まるで水を飲むような感覚ですっと入っていく。それほどにバンドのグルーヴもいい具合に熟成されているのもあって、なにより楽しそうな雰囲気が伝わる人懐っこい良作かと

ポラリス

ポラリス

01年発表1stMini。元フィッシュマンズのベーシスト、柏原譲が結成したユニット。フィッシュマンズ由来のゆったりとしたダブサウンドの響きを土台にポストロック〜音響系のニュアンスやパット・メセニー辺りのコンテンポラリーなジャズフュージョンの趣も織り交ぜたポップなサウンドが特徴的。
フィッシュマンズの音と比べても、格段にメロウで喉越しのいいたおやかな音が広がっていく。実際リードトラックである二曲が10分超なのだが、冗長になることなく心地よく聴けてしまうのはその隙間の多さと演奏のグルーヴの良さに他ならないと思われる。奥行きの深いベースラインを楽しむ盤だろう
またクリムゾンの「風に語りて」のカバーも収録されているように、メランコリンックさを携えたポップな響きがこのユニットの特徴でもある。憂いに穏やかさと光を織り交ぜることで沈痛な趣を軽減させるというか、ヒーリング的な要素を含むのは00年代的な時代感覚も掬い取れる。秋空にぴったりな良盤だ

クリエイティング・パターンズ

クリエイティング・パターンズ

01年発表4th。前作のジャジーな趣をさらに推進して、レアグルーヴな感触すら覚えるオーガニック(?)なエレクトロと化した一枚。ドラムンベースの特徴である性急なリズムパターンは鳴りを潜め、よりアーバンソウルやライトメロウフュージョンに民俗音楽の色合いを強めた異色な作りになっている。
メンバーがそうであるのも影響しているのか、さらに黒人音楽へと比重を傾けているものとなっており、テクノらしさは皆無であるがエレクトロミュージックを通過したソウルやR&Bという向きは大いに感じられるか。クラブミュージックという枠組みへと、バンドの音楽性が変化したとも言える。
ゆえにもはやドラムンベースとはいえない作りにはなっている(その為か、この作品を実験的、異色作と評するのも理解はできる)が、そのフィルターを通して洗練された新しい黒人音楽として聞くと中々興味深い。ロイ・エアーズやテリー・キャリアーの客演もその流れゆえか。意欲作にして冒険作だろう

Go!プリンセスプリキュアボーカルアルバム1

Go!プリンセスプリキュアボーカルアルバム1

15年発売の同名アニメ作品キャラソン集。OP&ED曲を含めたキャラクターソングアルバム。全体的にはミックスがハイファイな仕様でやや音圧が高め。内容もスローナンバーがなく、アップテンポな曲が続くので元気さと勢いのある、華やかな作品といった印象を受けるか。反面、メリハリには欠ける。
苦言を上げるならば、アルバムの全体的なトーンが一昔以上前の特撮やアニメの雰囲気で、音のテクスチャは現代的なのに楽曲のノリが少しばかり古臭く感じられてしまったのが気になった。オマージュとして理解するが、作品らしい咀嚼と昇華を感じることはなかったか。安定した出来の一方で難しさの残る盤だ

IT'S A POPPIN' TIME (イッツ・ア・ポッピン・タイム)

IT'S A POPPIN' TIME (イッツ・ア・ポッピン・タイム)

78年発表ライヴ盤。六本木ピットインで録音された二枚組ライヴ。村上ポンタ秀一坂本龍一など、当時の山下達郎のレコーディングメンバーとして名を連ねていた錚々たる面子で行われた。が、その実情はスタジオ録音よりライヴ録音の方が費用がかからないという苦肉の策だった模様。
とはいえ収録時間の関係上、二枚組になってしまいレコード会社から売り込みづらいと苦情を言われるオチがついてしまうのだけど、内容は素晴らしい演奏のオンパレードというか、非常にシブい魅力を放つステージが繰り広げられている。ニューソウル的でもありライトメロウでもあり、派手さに欠けるが味わい深い物
ほどよくジャジーでクロスオーバーな演奏に若き日の山下達郎の力強いソウルフルな歌声から売れ線どうこうではなく、いい音楽、演奏を送り届けようという熱気が込められているし、ここまで充実した内容になっているように思う。リマスター版のボートラによって録音当日の主要曲はほぼ収録。質量ある良作

Beyond the Mix

Beyond the Mix

91年発表1st。ハウステクノのゴッドファーザーが送り出した初作。とはいえ、こうやってアルバムのリリースよりはEPやDJプレイなどの活躍が多岐に渡っているので、その全容はなかなか把握しづらいが、このアルバム自体はフロアクラシックをふんだんに詰め込んだ挨拶状的内容。
代表曲でもある3を初めとして、90s初頭のオールドスクール感が強いか。Hi-Fiなメロディとマットな重低音、トーキング気味のラップと、当時を象徴するテクスチャーが所狭しと配置されている。今の音に比べると隙間の多い音なので、そのシンプルさが返ってグルーヴィな心地よさを与えてくれる。
ハウスマナーな四つ打ちのキックにピアノのハイノート気味のリズミックな響きの黄金率は、これぞハウステクノというべきサウンドで、そこの乗っかってくる歌声の高揚感がひたすらに楽しい。ハウステクノにおける金字塔的一枚かと。未リイシュー盤なのでいつかは内容を増補して、出してほしい名盤だ。

Shockwave Supernova

Shockwave Supernova

15年発表15th。名盤といえる出来だった前作から打って変わって、最も穏やかで和やかな雰囲気で覆われた一作だろうか。オーソドックスな何気ない演奏に熟練したテクニックが織り交ぜられており、円熟味を感じさせる。音の方もそういった意味では原点回帰的なニュアンスも含んだものになっている。
1stで繰り広げられたデジタルサウンドと人間が奏でるギターフレーズの融合、というのに再び挑戦しているが、今まで以上にカドの取れた質感でまろやかな味わいになっているという印象。テクノロジーの進化も当然あるが、近年のエモーションを重視したサトリアーニのプレイが柔軟に対応している。
かつてはデジタルサウンドとギターサウンドの拮抗、のようなせめぎ合いが主だったが、本作ではそれらがぴったりと合わさって、聞こえてくる印象を受けた。対立しあうのではなく調和する事に重きを置いているので演奏は非常に心地いいものとなっている。派手さはないが実に味わい深い熟成した一枚だろう

15年発売コンピレーション。同名TVアニメ作品のED楽曲集。前半12話のED曲+劇伴BGMが収録されている。ジャポネスクサイバーパンクハードボイルドニンジャアニメ(?)らしく、楽曲はどれもこれもダーティな響きやバイオニックな奇妙さ、アングラかつアナーキーサウンドが目立つ。
そのトラッシーな印象も相俟って、洗練とは無縁な産廃物的な趣で響くホップ感覚はアウトサイダー的な面白みがあるのも確か。均質化されない個性の強い曲がひしめき合っているのが面白い一方で、Mondo Grosso大沢伸一が手がけたBGM集が実際ワザマエなのも興味を引く良盤だろう。