In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2017年10月) No.1148〜1167

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
久々に20枚。
今回はバラエティに富んでますね。映画の鑑賞を極力抑えたのが多く聞けた原因かも。
なにかぱっとしない天候の続いた一月でしたが、そのおかげで秋の深まりをひしひしと感じましたね。
後半は映画「アトミック・ブロンド」を見に行った影響で、作中の時代近辺の音楽を聴いてます。
久々にいいアクション映画を見ました。
今年もあと残り二ヶ月。いよいよ年末の慌しさが押し迫ってきそうですが、体調を崩さないようにしたいですね。
というわけで以下より感想です。


「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」1stシングルCD「プロローグ -Star Divine-」

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」1stシングルCD「プロローグ -Star Divine-」

17年発表1stSG。ブシロードの「アニメ×演劇」二層展開企画作品「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の1stシングル。9/22~9/24の公演において披露された全員曲の3曲を収録した物となっている。どれも作品を象徴するナンバーで印象的。歌詞の方も専属作家が付いていて統一感がある
その為、いろいろ歌詞も想像しがいがあるものとなっているが曲順も練られていて、9人の歌唱が一塊になっている1から2、3へと行くにつれて、キャストの個性を細分化していく曲構成になっていて、興味深い。楽曲のキャッチーな魅力がある一方で、歌詞も読み込ませる仕組みで今後の期待が高まる一枚だ


少女☆歌劇 レヴュースタァライト」限定シングル スタァライト九九組「プリンシパル -Fancy You-」

少女☆歌劇 レヴュースタァライト, 【販路限定】「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」限定シングル スタァライト九九組「プリンシパル -Fancy You-」 | きゃにめ
17年発表会場限定版SG。同じく「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の会場限定販売シングル。リンク先の公式通販サイトで購入可能。1stの全員曲に対して、こちらはユニット曲が3曲収録。こちらもキャラの配置を考えると考察があれこれ思い浮かぶような作り。収録曲は全て公演で披露されている。
曲想は1stよりさまざまで、開放感のある曲があれば、エレガントでスキャンダラスな曲もあり、バラードもある構成。こちらも歌詞を読み解いていくと、キャラクターの背景がより深まるように出来ていて、現時点で提示されている情報以上にキャラの一面が読み込めるのが面白い。作品を拡張する良盤かと

Departure

Departure

・80年発表6th。ブレイクの兆しを感じる、キャッチーなポップさが滲み出た作品。彼らの70年代を総決算したような、プログレッシヴなアプローチやブルージーなハードブギー色もまだまだ残る中、その時代的な垢抜けなさが時たまふっと、洗練されかけるサウンドが今聞くと独特な魅力だ。
ベイエリアのサイケ的なアプローチから発展したコズミックなブルーズ感覚の強い、スピリチュアルな猥雑さをスティーヴ・ペリーという稀代のVoの存在によって払拭、洗練化させていっているのは時代の追い風とともにロックの「形」が完成されていったのにも付随しているように思える。
当時の評論家がそれを「産業化」と揶揄したのも理解はできるが、形式が固まったからこその、ジョイフルな魅力はやはり捨てがたい。かつてはカウンターミュージックでもあったロックが「ポップミュージック」として完成されていく様子がバンドの変遷からも窺えるのはなかなかに興味深い一例ではないかと
アルバムとしては次作の大ヒット前夜的な過渡期な向きも否定できないが、まだ落としきれていない「垢」がなんともいえない妙味を出していて、捨てがたい一作だ。とはいえ、バンドとしては転換点でオリジナルメンバーのグレッグ・ローリーが脱退。次作以降はさらにポップな色合いを強めていく。

すとーりーず

すとーりーず

・12年発表5th。前作のエレクトロ路線を引き継ぎつつ、従来のポストパンク的な前衛色が戻ってきて、肉感的な向きがやや強くなった。エレクトロにスピリチュアルなニュアンスを残しながら、バンド演奏の人力感がそれを引き締めてくるような趣が印象に残る。それゆえかコンパクトかつタイトな内容。
歌詞の方はナンセンス度が今まで以上に跳ね上がり、煙に巻く作りになっているが、だからこそ見えてくる知性の鋭さにどきりとする瞬間も。前作ではあまり見られなかった定番のフレーズも今回は健在でメタリックかつエレクトロなザゼン・ファンクはさらにグルーヴを増しているようにも受け取れた。
それだけにかなり掴み所のない作品にもなっていて、一度聞いただけでは魅力に気づきにくい作品になっていることも確か。意識しないで聞いているといつの間にか終わってたというのもあるが、バンド特有のグルーヴを覚えれば、実に奥行きが深く、底の知れない一枚でもあるように思う。歯応えのある良作だ

プレヴィザォン・ド・テンポ

プレヴィザォン・ド・テンポ

73年発表10th。ブラジル音楽を代表する作曲家の一人であるマルコス・ヴァーリの「天気予報」と名づけられた10作目のアルバム。本作ではライトメロウ〜フュージョン界隈で再評価著しいアジムスをバックバンドに従えて、涼しげなライトメロウを繰り出している。リリース年を考えると先鋭的だ。
もちろんボサ・ノヴァやサンバを感じさせるリズムに60年代的なキッチュさがまだ乗っかっているのだが、アクになっておらずあくまで自然体に推移している。一方でその奏でられるメロディは癖が強く印象的ではあるが、アジムスのクールな演奏力の高さとヴァーリの作曲能力の高さもあって非常にポップ。
メロディラインはかなり不思議な印象を残すものであるのにも関わらず、ファンシーさもありつつ非常に甘さを感じる中毒性の高いポップになってて、飽きが来ないのは興味深いところ。キャリア最高傑作とも評されるのも頷ける、時代の5年先を行くサウンドを提示した傑作だろう。ベースラインも心地いい。

陽はまた昇る

陽はまた昇る


92年発表3rd。ミュージシャンズ・ミュージシャン的な評価も高いギタリスト、山口洋率いるバンド。派手なことは一切しない、無骨なまでに響くギターフレーズをメインにした、オーソドックスなロックが特徴。大陸的な雄大さを伴ったアーシーな開放感が日本人離れしたスケールを感じさせる。
歌も普遍的で力強いメッセージを伴っていて、フォークソング的でもあるが変に媚びた印象がなく、文字通り等身大のパーソナルに響くものとなっていて、すごく誠実さを感じるもの。非常に堅実さのある、心と体が見事に合わさった抜けの良い素朴なメロディとビートがとても心地良い快作だろう。

つづれおり

つづれおり

71年発表2nd。70年代を代表する名盤にしてキャロル・キングの代表作。いわゆるシンガーソングライターという語句が流布したきっかけを作ったアルバムのひとつでもあり、その私小説的な内容は60年代におけるロックカルチャーへのカウンターでもあった。このため、非常にパーソナルな響きを持つ
ロックの混沌と熱狂が渦巻く響きに対して、極めて冷静かつ内省的なサウンドは60年代的なフォークソングやソフトロックとも一線を画しており、適度な湿度と重さを感じさせる。のちにウェストコーストサウンドと呼ばれる流れと密接にリンクしており、このテイストがAORやライトメロウに繋がっていく
それゆえにカントリーやソウルなどの歌ものに比重を置いた作りにもなっていて、演奏は「歌」に寄り添うものとして扱われているのがよく分かるし、完成度の高い演奏も求められているのも窺える。より音楽の個性と完成度を際立たせる点においてはかなりエポックメイキングな作品なのではないかと思う
その面ではこの盤は歴史的な分岐点でもあったと考えられるだろう。余談ではあるが、ほぼ同時多発的にこの時期、荒井(松任谷)由実が日本でデビューを果たしている事からも、60年代的な趣に区切りが付き、70年代が始まりを告げた一枚なのだろう。後の影響も大きい、すべての始まりが詰まった傑作だ

Normal As the Next Guy

Normal As the Next Guy

01年発表6th。バンドの21世紀最初の作品にして、ラストアルバム。DrでMr.Bigパット・トーピーが参加している。かつての疾走感溢れる正統派パワーポップはもはや聞けないが、ビートルズ直系のビートポップをマイルドなスピードで悠々自適に演奏するさまには年季の入った貫禄を覚える。
テンポが落ちた分、演奏の味わい深さが増していて、一音一音の瑞々しさと甘酸っぱいポップな響きはかつてより熟成した魅力を感じる。酸いも甘いも混ざり合って、バンドの持つメロディと演奏の良さが引き立つ。もちろん衰えもあるがそれを弱みと感じさせないエネルギッシュさは昔と変わらず顕在だ。
カントリーやロカビリーなどのルーツミュージックの側面も見せつつ、歌があっていい演奏とビートがあって、グッドメロディーがただそこにある、素朴な喜びを感じさせてくれる一枚かと。単純に聞いていて、気持ち良いし楽しくなる。じっくりと繰り返し聞きたくなるそんな良盤。一発屋の姿はもう、ない。

フレイゼズ・フォア・ザ・ヤング

フレイゼズ・フォア・ザ・ヤング

・09年発表1st。The Strokesのフロントマン、ジュリアン・カサブランカスのソロ初作。全10曲のうち、前半が後にThe Strokesでも導入されるエレクトロサウンドを基調にしたバンドサウンド、後半がソロの次作で発展ていくアナーキーかつダーティなNYサウンドという構成。
久々に視聴して思うことは、この時点でジュリアンが10年代的なサウンドの指標を提示していた点に尽きるかと。ロックバンドがEDM化していく一方で、挑戦的な音はアンダーグラウンドに潜んでいくという傾向。10年代も後半に入っている今聞くと彼の指標がそのまま洗練化されているの気付く。
発売当時は割りと凡庸な作品に思えたが、今にして思えば時代の先が見えていたのだなと思わざるを得ない。とはいっても、水と油のような可能性を同居させている分、その悪夢的かつ前衛的なアルバム構成はポップさに欠けている面も無きにしも非ずだ。高いアート性は感じるが名作には一歩及ばない佳作か。

Anything

Anything

86年発表7th。前作の路線を踏まえつつ、さらにポップへと振れた作品。モノクロなゴシック然とした趣からカラフルな色彩を感じるメロディラインが増えた一方で、アルバムの統一感は薄れてしまい、結果とっ散らかった内容になってしまっている。欲目を出したのが災いしているのか、なにかぎこちない
結局、メインストリームなポップ志向はバンドの柄じゃないということが最大の要因だとは思う。前作で発掘した作風をより能天気な方向にした分、美意識が損なわれ、下世話な地が顔を出してしまった印象を持った。ただこういう無邪気さはこのバンドの美点であり欠点でもあるので悩ましさは残る
内容が良くないというよりは、サウンド面で取り纏める役がいない分、好き勝手にやったらこうなってしまった、という感じだろうか。事実、この盤ではミックスやリミックスが多いのはなんとなくそんな側面もあるのでは勘繰りたくはなるが。その垢抜けなさがなんとも愛らしく感じる佳作、という所か。

Jack & The Beanstalk

Jack & The Beanstalk

95年発表8th。前作より9年ぶりの作品だが、リリースに至る経緯がやや複雑でまず最初に「Not of Earth」のタイトルで日本先行発売、その後、間の期間にオリジナルラインナップで作られた1曲を追加して、本国イギリスでリリースされた際に付けられたタイトルが「I'm〜」になる。
このような顛末にいたったのは楽曲の権利関係の模様。どうも9年の間に活動休止状態にあった中、ドラムのラット・スケイビーズが本作でのバンドメンバー、アラン・リー・ショウと制作した曲がメインになっており、そこにデイヴ・ヴァニアンが参加するという形で作られたのがこのアルバム。
また、デイヴの方も離婚を経験して、慰謝料の補填する為にツアーと続けたかったのと、ソロバンドの活動があったことや、ラットの方も当初は乗り気だったようだが、少ない客を相手するのに難色を示し、本作の楽曲権利で揉めた末、脱退というバンドの内情が悪化した時期の作品でもある。
そういった混沌とした状況の中で作られたある種「再々結成」的な趣の否めない作品ではあるが、アルバムの内容は原点回帰している。パンクというよりはハードロックなのだが、前作までのゴシック色が払拭されて、ベーシックなガレージロック的な音が聞こえてくる。恐らくオルタナの波を受けての音だろう
流石に往年の音に比べると、見劣りしてしまうがそれでもここでバンドサウンドにリセットがかかったのは大きい。2曲、元セックスピストルズのグレン・マトロックが参加、ジャズファンクで有名なジェイムス・テイラー(米のSSWとは同姓同名の別人)もオルガンで参加している。
紆余曲折あって、ラットの脱退後、入れ替わりにキャプテン・センシブルが復帰し、現在の体制に移り変わっていくわけだがバンドが継続する点において、本作はかなり重要なターニングポイントだ。少なくともこの盤のおかげで、バンドは息を吹き返すわけだから不思議なものである。鬼子的な佳作だが重要作

『それって、for 誰?』 part.1(完全生産限定盤)

『それって、for 誰?』 part.1(完全生産限定盤)

15年発表17thSG。音楽配信などが主流になりつつある現代においてシングルCDを出す意義を問いかけるというコンセプトで発表されたエクストリームシングルの第一弾。タイトル曲の他にボーナスCDで日比谷野外大音楽堂でのライヴ音源が丸々収録されたボリューム感ある内容となっている。
表題曲は切れ味あるカッティングギターに乗せた彼らの王道といえるべきダンスチューン。その歌詞とボーナスCDにおけるMCを合わせて、バンドの所信表明にしているのだと思う。彼らなりの音楽業界に対する真摯な姿勢を感じるとともに、その勢いのある演奏が企画の初手として鮮烈に響く一枚だろう。

NO NUKES 2012

NO NUKES 2012

15年発表ライヴ盤。2012年の「No Nukes(「脱原発」を掲げたロックフェス)」でのライヴを収録したアルバム。07年ごろから緩やかな再結成状態が続けていたYMOであったが、自らの代表曲の演奏の収録を頑なに忌避してた節があり、本作はその禁を解いた作品となっている。
演奏そのものは非常にリラックスしたもので、和やかさすら漂うような味わい深いプレイ。それゆえに曲自体の持つシリアスな雰囲気と合わさって、不思議な緊張感も漂う中、角が取れたしなやかなグルーヴが全体を覆っている。かつてのスピードやテンポがない分、雑味が抜け、熟成されたリズムが鳴り響く。
収録曲が少ない、あるいは次の日の演奏が良かったという評もあるが、このアルバムの意義はどちらかというと「代表曲」を屈託なく演奏する姿を収めることのほうが大きいように思えるし、かつてのライヴ盤という形式を考えるとこのボリュームでも十分なくらいではなかろうかと。熟練の技を楽しむスルメ盤だ。

11年発売OST。同名アニメ作品のキャラソン集第二弾。音楽が主題の作品だけあって、バラエティに富んでいるが、バラード系の楽曲はなく、楽しげなメロディラインの曲が並ぶ。一部キャラクターが歌っているというより、担当声優の歌唱に聞こえてしまうという欠点もあるが、それを抜きにしても良作だ
聞き所はベースラインと各曲で響くギターだ。特にギターは全編に渡って所狭しと鳴っており、この盤の魅力の一角を担っている。ロック調の曲が多いのもあって、ギターソロが目立っている印象。全体として非常に現代的なポップスの趣を強く感じるアルバムだ。楽曲構成もメリハリがついていて、聞きやすい

ライヴ

ライヴ

72年発表ライヴ盤。グラント・グリーンとの共演でも知られるヴァイヴ奏者の実況盤。ヴァイヴというとクールな印象のジャズを想像しがちだが、ライヴハウスの熱気もあって、とてもホットな演奏が繰り広げられている。リズムも重戦車のようなヘヴィな響きで一気に駆け抜けいくのがかなりのアツさ。
とにかくヴィブラフォンという楽器から出てくる音の印象を覆す演奏で、そのクラシカルで優美な響きとは一切無縁な、非常にワイルドな響きがファンキーに迫ってくる。矢継ぎ早に出てくるの力強いフレーズは硬質でクリスタルな楽器本来の響きとのギャップもあって、印象的に聞こえてくる。
ライヴなので、熱気とともに一気呵成に聞かせる勢いもあり、プレイヤーのテンションも非常に高い名演なのは間違いないだろう。現在、イメージされるジャズファンクとは趣とは異なるが、レアグルーヴ/ジャズファンクの名盤として輝く一枚だ。ボーナストラックでマッドリブによるリミックスも1曲収録されている。

Black Album (Dlx)

Black Album (Dlx)

80年発表4th。おそらくバンド史上最もポップな作品。世間の評価ではサイケデリック色やプログレっぽくなったともいわれる一枚だが実際の所、英国ポピュラーミュージックの伝統に則ったトラッドの色合いを持った層の厚いメロディと前作までのパンキッシュさに新機軸のゴシック色が入り乱れている。
それぞれが融合せずに独立して成り立っているおかげか、そのカオスな肌触りは過渡期の作品という印象を受ける。が、そこまでちぐはぐさを感じないのはバンドの勢いと楽曲のポップさゆえのように思う。バンド特有の無邪気さがかつてなく弾けたポップネスを叩き出しているのが功を奏した結果だろう。
その中で萌芽したばかりなのがゴシック的なアプローチだ。ラストの長尺曲にも顕著のように本作のポップさが返って邪魔になってしまい、楽曲としては昇華し切れていないように感じられしまう。サウンドの完成は次作以降となるが、本作で示された方向性を偶然掴み取るのがこのバンドらしいとも言える
なお本作はスタジオ録音ととライヴ録音という変則的な構成になっており、Disc2にはライヴ音源部分とボーナストラックが増補。こちらはまだパンクバンド然とした演奏が聴ける。先の可能性を示しつつも、ポップさを頼りに音楽性を模索した感のある一枚。一方で最もキャッチーな魅力に溢れた作品だ。

SONIC FLOWER

SONIC FLOWER

・87年発表1st。現在も活躍し、2017年にバンドデビュー30周年を果たしたプライマル・スクリームの初作。今の姿が想像できないような、当時らしいネオアコの雰囲気を帯びた、フォーキーかつサイケな音でかなり驚く。この時点ではボビー・ギレスピーとギタリストのジム・ビーディの双頭体制。
密室的な篭ったサウンドでもあるが、当時流行のネオアコの質感でネオサイケをやってるような気怠さとダウナーさは後のサウンド志向とボビーのパンクスピリットを考えると妙に納得するものがあり、ポップよりロック的なアプローチで挑んでいたこともなんとなく窺える。芯があるというか。
本作限りでジム・ビーディは脱退するが、結果的にネオアコという一時の流行より、先のサウンドボビー・ギレスピーは見据えていた為、ひとつのスタイルに固執せず、アルバム毎に作風に変化をつけ、息の長い活動を続けていくことになる。その点では質感より核の部分に骨太さを感じる佳作だろう。

Substance

Substance

・87年発表ベスト盤。イアン・カーティスの自殺を経て、ジョイ・ディヴィジョンから発展したニュー・オーダーの1st〜4thまでのシングル曲とリミックス&Bサイド曲をコンパイルしたベストアルバム。17年現在、これらより網羅的なベスト盤が出てしまってるので価値は薄いが当時では貴重だった
なにしろ活動初期においては、前身のジョイ・ディヴィジョンのポリシーを引き継いで、「アルバムにシングル曲を収録しない」スタンスであったから、アルバム未収録曲を取りまとめている本作はマストアイテムだったといえる。とはいえ、収録曲については痛し痒しなものとなっているのも確かだ。
バンドのターニングポイントとなった2曲がオリジナルではなく、リリース当時のニューアレンジ版になっていたり、他のシングル曲も12inchヴァージョンが主に収録されていたりで、完全網羅とはいえない内容。それでもニュー・オーダーというロックとエレクトロを融合させたバンドの魅力は替え難い
密室的なダンスビートと煌びやかさを備えたシンセサウンドに乗っかる生身の演奏が作り出す刹那的な快楽は80年代に流れる諦念と絶望にも重なり、残響のような傷跡を残していく。行き詰まりの宙吊り状態で重厚さも軽薄さも一緒くたになって踊り尽くす先に鳴り響く音。涅槃的なメロディが伝わる入門盤だ

EP'S 1988-1991

EP'S 1988-1991

・12年発表編集盤。タイトルの通り、88~91年にかけて発表されたEPの収録曲を取り纏めた二枚組アルバム。オリジナルのEP自体が入手困難となっており、このような形でのリリースを期待されていた。一度は発売中止にもなったが、22年ぶりの3rdアルバムリリースに先駆けて改めて発売された
内容としては、バンドがシューゲイザーサウンドを覚醒させる過程が記録されており、1stから2ndへと変遷するサウンドミッシングリンク的な役割を果たしている。結果、両作にはない、荒々しい轟音ギターが聴けたり、バンドのパッションがひしひしと感じ取れるエネルギッシュな魅力が迸る。
ネオアコとネオサイケがエレクトロビートと絡み合い、轟音ノイズが響くサウンドはUSにおけるグランジを先駆けてもいるし、その静謐な音はアンビエントにも肉迫している。エスニックなテイストもあって、シューゲイザーサウンドの骨子を垣間見るようで興味深い。むしろ彼らのコアを知ることが出来る。
80年代と90年代のわずかな狭間でしか生まれ得なかったカオティックな音楽はまた、多くの可能性を秘めた音でもあったというのが、この編集盤からひしひしと感じられるし、実際、独特な響きは抗いがたい時代の魅力の詰まったものだろうと思う。歴史的な隙間を埋める重要作でもあるかと。

Strawberries

Strawberries

82年発表5th。さらにポップ路線を推し進めて、パワーポップと英国モダンポップの間を行き来するような作品。前作での新機軸は一旦、鳴りを潜め、サックスやキーボードなどを重ねた音は70年代中期ごろのモダンポップ的な洗練された響きとずっしりとした重たさを感じる。メロディも多彩だ。
モッズやパブロック、あるいはビートポップ、といった英国の土壌が培ってきたジャンルと非常に地続き感のあるポップスで、後に「ハッピー・トーク」のカバーでヒットを飛ばすことになる、キャプテンセンシブルのポップセンスが大きく影響してるように感じられる。パンク的な凶暴さが皆無なのも興味深い
中には10ccのようなテクスチャの楽曲もあり、もはやパンクの一線を飛び越えて、70年代の高品質ポップに肉迫するようなサウンドとなっている。一方でパンクではない評価をやむを得ないだろう。この手の音をやるにしてもちょっと時代が遅かったようにも思う。そこが無邪気だといえばそうなのだが。
本作で自らの個性に依ってやり尽くした感のあるキャプテンセンシブルは脱退の道を選ぶ。これによって、次の作品が大きく変化してゆくし、ここまでのバンドの集大成的な音が詰まった節目の作品といえるだろう。音楽性の触れ幅が激しくなっていく一方で、伝統的なポップスマナーに忠実な良作だろう。