In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2017年11月) No.1168〜1182

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
14枚。
なんだかんだでこのくらいの数に落ち着いた感じです。
いよいよ年末です。来年のいろいろな準備もあれば、今年中に済ますこともあるかと思います。
平成の世も残りあとわずかになって、何かが変わっていきそうな雰囲気もありますが、
足元を掬われないようにしっかりと「今」を踏みしめたいところですね。
今回は英国に始まり、英国に終わる、といった感じでしょうか。
というわけで以下より感想です。


・74年発表2nd。英国叙情派プログレバンドの代表格にして開花の一枚。初期の傑作と知られる作品。UK五大プログレバンドやカンタベリー一派、ジャズロック勢とも違う、非常に洗練された、透明感のある美メロが特徴。その絵画のような幻想的な印象は他のバンドは一線を画す魅力的なものだ。
ギタリストかつフロントマンのアンディ・ラティマーが奏でる、明朗なギターサウンドもさることながら、彼のもうひとつの顔であるフルートもまたバンドの魅力として押し出されている。下手に小難しくならず、優雅で口当たりのいい爽やかなサウンドプログレというジャンルにおいては非常にクセがない音
思想音楽の趣も強いジャンルの中で、キャメルのような物語的な叙情感を兼ね備えたバンドはポップではないにせよ、プログレというジャンルのエッセンスを抽出し、その洗練されたメロディをキャッチーに聞かせてくれる。非常に聞きやすいアルバムだろう。ジャンルの入り口としてもオススメな良盤だ。


古畑ミケ「月世界奇行」

15年頒布2nd。初音ミクと結月ゆかりをメインに「月」をテーマにしたコンセプチュアルなボーカロイドアルバム。15年の夏コミにて発表された。ジャケット&アートワークはかの貞本義行氏。ジャケットの雰囲気からも窺えるように、全編に渡って幻想的でダークなサウンドが聞ける。
サウンドの方は、平沢進のサイバー宗教的なエレクトロサウンドムーンライダースデカダンなフレーバーが散りばめられたものになっていて、そこにプログレシッヴな叙情性も織り交ぜられた完成度の高さを感じる。テーマが明確なのも本作の魅力を下支えする要因のひとつだ。
そういったサウンドに乗っかる歌声がボーカロイドの人工的な声であるのも相俟って、楽曲の雰囲気が非現実なものとして表現されているのが興味深い。アルバム内にしっかりとした世界を作り上げている点を取ってみても、本作が力作であることが証明されてるし、過去の作品を聞きたくなる良作だと感じた。

ライト・メッセージ(期間生産限定盤)

ライト・メッセージ(期間生産限定盤)

83年録音盤。通算18作目のリーダー作。スペースブギー全開のエレクトロファンクが展開されている。当時らしいスラップとペカペカしたシンセにタイトなリズムが絡み合い、スペーシーに鳴り響くサウンドはグルーヴを感じるというよりは軽やかな浮遊感と開放感を味わうダンサブルなものに仕上がっている。
ブラコン一歩手前のテクニカル・ライトメロウ・フュージョンという趣であり、そのキレの良い爽やかさは当時のディスコでも非常に映えたのも想像に難くない。アルバム全体のテンポとスピード感がとても心地良い一枚だ。目映いくらいに煌びやかな光を放つ、スポーティ&ダンサブルな良盤だろう。

HOMEWORK

HOMEWORK

97年発表1st。フランス出身でいまやハウス/エレクトロの代表的ユニットのひとつとしても知られるダフト・パンクのデビュー作。ハウスマナーに忠実な四つ打ちのキックとマットな低音リズムに芯の太いシンセ音が絡み合う非常にストイックなハウステクノが聞ける。まだまだ煌びやかさには程遠い作りだ。
当時らしいテクスチャーを纏ったサウンドであり、20世紀末を彩った流行のクラブサウンドという域を抜け得ないものではあるが、そのシンプルなキックとリズムだけで進行するトラックには不思議と古さはあまり感じられない。下手に装飾をしていない分、ハウスの良さが抽出されているのが上手く転んでいる
終盤に向かうにつれて、ダークな趣が顔を出してくるのが盤の特徴といえば特徴なのだが、やはり過度な装飾がない分、キックとリズムのみで勝負するには内容がやはり冗長な感も否めず、アルバムとしてやや間延びした印象を受けるか。もちろん悪くはないのだが、佳作の域を抜け出ない抜け出ない惜しい一枚

Discovery

Discovery

01年発表2nd。ハウステクノからディスコ回帰へと向かった、大ヒット作品。日本盤は彼らが大ファンである松本零士書下ろしのジャケットだったのも記憶に残る。その後、アルバム全曲を使った一大MVとも言えるアニメ作品も製作、アニメの受け取られ方の潮目が変わった印象を与える点では意義深い一作か
内容の方は極めて70年代後期のディスコサウンドやモダンポップスの流れを汲んだ、エレクトロサウンドで、前作と比しても並外れてポップ度は上がり、キャッチーな楽曲が立ち並ぶ。とはいえ後にもっと生っぽい肉感的グルーヴを押し出した作品を作ることを考えると、ここでは半ナマなビートが支配している
ビートとリズムが人工的なためか、テクノミュージック然としている部分が大きい。楽曲やメロディのカットバックや処理が非常にクラブ的であり、その視線も妙に醒めたものであることは否めないだろう。キャッチーな質感とは裏腹にアルバムが進行していくと、その醒めたフィーリングが強くなっていく。
楽曲の組み立て方がエレクトロなのもあり、このデジタルな趣がかえって時代的なテクスチャーを帯びたものになっているのは今改めてこのアルバムを聞いているからだろう。サウンドがキャッチーな反面、ビートがナマっぽくない為に、せっかくの熱気も冷めてしまい、冗長感が出ているのは痛し痒しだ。
狙い所は悪くはないし、むしろ成功も得ているが、時代の経過も影響して詰めの甘さが強くなっているのは止むを得ないところだろうか。クラブサウンドの新たな指針を示した作品としては十分評価できる作品であるし、ポップでメロウな一枚ではあると思う。全体にレトロフューチャーな印象を強く感じる。

05年発表3rd。前作のディスコ路線から打って変わって、ロック色が色濃くなった作品。純然としたテクノというには不純物が多すぎるし、このアルバムより先行してムーブメントを形成していたケミカルブラザースやプロディジーみたいな勢力と比べるとややソリッドでサイバー感が強く、ニュアンスが異なる
彼ら特有のクセがかなり強調された作りになっていて、全体的に音のアタックの強さやポップさを廃した、メタリックで機械的なビートが作り出すデジタリックなヒリヒリした感覚は相応に好みが分かれそう。というより辛口の酒を飲むような味口なので、前作の味に慣れていると戸惑うことは想像に難くない
その反面、前作までの反省を受けてか45分ほどというコンパクトな内容に纏まっていて、冗長な印象はあまりないか。だが同時にポップとはかけ離れた為、華やかさには欠けてしまい、単調な感じなのが惜しい。その突破口として本作唯一のメロウナンバーである5に活路を見出したのが次作というのが興味深い
スタジオ作としては本作を最後にヴァージンを離れ、8年後コロムビアへ移籍し、再びブレイクを果たす事になる、本作はEDM前夜の作品と捉えると、アプローチの仕方は間違っていない作品だが変化が急激過ぎた結果、低調に受け取られてしまったのだと思う。それらを考慮すると冒険的な佳作なのかもしれない

The Bird and The Bee

The Bird and The Bee

07年発表1st。音楽プロデューサーとして近年目覚しい活躍を続ける、グレッグ・カースティンとLittel Featのフロントマン、故・ローウェル・ジョージの娘でソロ歌手としても活動する、イナラ・ジョージのユニット。レトロフューチャーかつキュッチュなエレポップが物憂げに響き渡るのが新鮮だ。
イナラ・ジョージの声は亡き父親、ローウェルにそっくり(もちろん男女の声質の差はあるが)で、歌い回しも非常によく似た、独特な印象を受ける歌で、そこに過剰に音を置かず、空間の余白を意識したであろうグレッグ・カースティンのサウンドプロダクションが心地よく響く。静かだがポップ度は高い。
このサウンドの気持ちいい空間的な停滞感と閑散とした印象は現在、大活躍するプロデューサーとしての片鱗を窺わせるものだろう。全体にリラックスした穏やかさもある中で、毒気やシニカルさもある、一筋縄でいかない感じや80年代へのオマージュも意識しながらもエレポップも刷新する、抜け目なさを感じる一枚だ

アウト・オブ・ザ・ロング・ダーク

アウト・オブ・ザ・ロング・ダーク

  • アーティスト: イアン・カー(tp),ニール・アードレイ(key),ブライアン・スミス(sax、fl)
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: CD
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79年発表11th。当時のクロスオーバーブームに乗っかったシャープなタッチのジャズロックが展開されている一枚。フュージョンというよりは確実にジャズロックという雰囲気があるのは、英国らしい陰を感じさせる独特な音ゆえか、イアン・カーがロックミュージシャンというよりジャズメンだからか。
カンタベリー勢のようなくぐもった空間的な質感とクロスオーバー的な技巧さが絡み合いながら、メインで主張するのがイアン・カーの吹くマイルス直系のハードバップなトランペットという妙味が重なった不思議な音であるのは間違いない。トランペットの奏法がいかにもジャズ的で、ロックとは異なる。
なのでジャズロックといっても、「ジャズ」側からのロック的アプローチという向きが強い音になっているのが、このアルバム、ひいてはバンドの特徴となっているように思う。もちろん音は時代の波を受けて、洗練はされているが根っこがブレていないので「ジャズロック」の形を保っているのが面白い。
見ようによっては旧態然としたものに見えてしまうが、本作はそれでいいのだと思う。スタイルとして徹底して、ジャズロックを繰り広げているのだから、頼もしいというほかないだろう。当時の評価はどうであれ、今聞く分には非常に洗練されたジャズロックの好盤と聴けるし、内容も充実している作品だろう

Live: Thirty Days Ago

Live: Thirty Days Ago

04年発表ライブ盤。2ndリリース直後のヨーロッパツアーの模様を収めたライブアルバム。各地のライヴからの抜粋なのでセットリストどおりというわけでもないようだが、ライヴハウスのこじんまりとした空間の中で繰り広げられる熱気は確かに伝わってくる。収録曲も当時の代表的な持ち歌ばかりだ。
スタジオ録音と比べると、ややラフなニュアンスでざっくり削ぎ落とした、ライブ仕様のサウンドでアレンジの違いが楽しめる。演奏技術がしっかりしているためか、パッション迸るプレイは流石に聞くことは適わないが、しっかりとした土台の上でその手堅くまとまった佳作かと。

15年発表SG。http://P.A.Works 製作のTVアニメ「Chalotte」の主題歌シングル。OP&ED曲が収録されている。作詞作曲は本作の原作、脚本を手がけた麻枝准。テクノとロックorポップスが融合したような楽曲とメロディラインは独特な個性を放っており、その出来においては麻枝節といっても過言ではない
キーワードは「トランステクノ」。オルタナティヴロックにも影響を受けている(だろう)麻枝のもうひとつの片翼にはテクノミュージックが備わっており、今回の主題歌においてはエピックトランスから感じられる壮大さと神秘さをオルタナロックやポップスに落とし込んでいるように聞こえた。
トランスとロックを同居させたまま、繰り広げられるメロディは神々しくもあり、麻枝の独特な魅力を象徴している。どちらの曲も展開に一ひねりが加えられていたり、歌詞もよく聞くと本編の物語そのものであったりと、一筋縄でいかないところがドラマティックなシングルでもあるかと。

15年発表3rdSG。メジャーデビューしてからのポップ路線を踏襲したタイトル曲をはじめとして全三曲を収録したシングル。後に行けば行くほど、バンドの個性が色濃く滲み出た曲が流れてくるという構成になっていて、3はインディーズで聞けた早口ラップ調の楽曲で本盤の中で一番密度の濃い一曲だ。
もともと社会の孤独や生き辛さ、ネット社会における人間関係の噛み合わなさをメランコリックに歌い上げるバンドなのでそういったサブカル色に好みは大きく分かれるだろうが、どの曲も非常にテクニカルでメロディ、展開とともに聞き応えはある。バンドの勢いを感じる意欲的な一枚だ。
だがそれはあくまでもこの「時点」においては、という冠言葉がついてしまうのは否めない。この後、紆余曲折あるのは周知のとおりだがこの破竹の勢いが遠い昔のような寂しさを感じてしまうのが何か物哀しく思えてしまうのは気のせいだろうか。

  
15年発表55thSG。そして事実上のSMAPラストシングル。グループ結成日である9/9にリリースされたシングルであり、発売当初は解散騒動の影形もなかったことからもこちらも遠い過去のような錯覚に陥ってしまう上にリード曲の片方の提供者がゲスの極み乙女。川谷絵音である事も何か運命的だ。
もう片方のリード曲も提供者がMIYAVIとLEO今井というソリッドな布陣であることからも、このシングル自体かなり攻めた一作だ。特に「愛が止まるまで」は今改めて聞くと、その後の行く末を暗示しているような歌詞である以上に、提供者の川谷にとっても恐らくはこれ以上にない出来の楽曲ではないかと思う
元々、フェミニンかつサブカル色の強い孤独さや関係の断絶をメランコリックに描く、川谷の楽曲が国民的アイドルグループと称されてきたSMAPという存在の裏面を結果的に炙り出しており、その存在を保つ事への危うさをまざまざと描き切ってしまっているのはまさに奇跡的。だが終わりの始まりでもあった。
このシングルを企画した者は慧眼だったと思う。が、テクニカルな高速フレーズに乗って歌われる「I Love You」の物哀しい響きはファンにとって走馬灯的な刹那を思い起こさせ、えも言えない感傷に駆られてしまう事だろう。そういう点では一石を投じた作品にも思えるが、運命的な符号があまりにも重なりすぎた一枚。

Struttin

Struttin

・70年発表3rd。前作まではインストで構成されていたが、本作よりボーカル曲(カントリーのカバーなど)が導入されており、新境地を開拓した作品。昨今の音楽と比べても非常に隙間の多い、なおかつ空間的なグルーヴを作り出しており、オーセンティックなセカンドラインファンクを聞かせてくれる。
タメツメの効いたリズムとメロディがタイトに響き、ゆったりとした波にたゆたうような大らかな心地よさに支配されて、わずか40分程度の内容があっという間に過ぎ去っていく。演奏の粘っこさはけしてスタイリッシュではないが、朴訥としたマットな雰囲気にいつまでも浸っていたくなる良作だ。

Clap Your Hands Say Yeah

Clap Your Hands Say Yeah

・06年発表1st。レーベル契約を結ばず、音源を自主制作リリース(流通は大手に委託)という発表形態が話題になったグループ。現在は中心人物、アレック・オンズワースによるソロユニットと化しているが、デビュー当時はバンド然としたサウンドを繰り広げている。
内容はブルックリン系のインディロックらしく、ローファイかつアートスクールな知性を感じさせる一方で教育番組で流れてきそうな童謡的なメロディも織り交ぜてくる、奇妙な感覚が特色になっているか。全体にとぼけた雰囲気が漂うがシニカルな趣もあり、歌声も相俟ってトーキングヘッズを想起させる。
割れたガラスの切っ先のような怜悧な感覚に垢抜けないフォークソングやカントリー的なSSW的サウンドは今聞くとやはり一昔前というか、エレクトロが絡んでこない所が隔世の感もあるがこの時点でしか成立し得なかった音にも思える。初作にして音楽性が確立されている良盤だろう。

Serotonin

Serotonin

・10年発表3rd。ラフ・トレードに移籍して、制作された作品。前作、前々作のサウンドの発展型でそこに瑞々しいギターサウンドを加えた事により、光の粒が乱反射するが如き、明るさと透明感を備えながら、バンドの持ち味であるサイケな雰囲気を損なわないで楽曲を構成しているのに舌を巻く。
いかにも英国らしい翳りのある田園風景の緑を感じさせながら、そこに潜む得体の知れないダークサイドの趣やトラッドなメロディと現代的なポップソングのメロディーが絡み合い、独特なバランス感覚の音が響く。過去と未来が引っ付いて、現代をかき鳴らす姿に地に足がついた印象を受けたりもする
その点では過去のデータベースと現代性と先進性が一緒くたに混ざり合って、新しいものとして、このアルバムの音が完成されているのだろうと思う。温故知新を地で行くといえばそうなのだが、レトロ趣味に埋没せず、「今」を志向しているのがバンドそのものの強みなのだろう。そういった骨太さもある良盤