In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2018年3月) No.1221〜1229

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

9枚。
今回はThe Vines特集他、といった感じでしょうかね。久々にロックを聴いたという感じでしたが、いかんせん枚数が少なくなってしまったのが致し方なく。世間的にはいよいよ新年度なわけですが、すでに気候は夏らしいというかだいぶ暖かくなりましたね。半袖に腕を通す日も近そうです。
なんだか気づけば時間が過ぎている、なんてことが多くなってきてますがマイペースで聞いていければなあと思います。
というわけで以下より感想です。

Highly Evolved

Highly Evolved

02年発表1st。オーストラリア出身のバンド。ニルヴァーナ×ビートルズサウンドの融合という触れ込みで話題になった。確かにグランジっぽい、ラフでノイジーなギターサウンドビートルズ的なポップで甘いメロディーが鳴り響く、中毒的なサウンドが魅力的。が、バンドサウンド自体はポップ指向だと思う。
というのもグランジ×マージービート的なサウンドは彼らの専売特許ではないし、ヘヴィさとダークさでいえば、アリス・イン・チェインズが同方向で色濃い音を提示している以上、その独自性はわりと希薄ではあるか。コード進行でも上記バンドのアクが強いので、わりと素直なものに聞こえてしまう。
基本的にグランジよりというよりはポップさがこのバンドの特色でもあり、ガレージ色の強い演奏は同郷のAC/DCダットサンズを思い浮かべる一方で、メロディ自体はビートルズという以上にブリット・ポップの影響がかなり濃いように思える。シンセの音などを聞くとやはりそれらしく聞こえる。
こうやって書いていくと、時代はより後になるが日本において神聖かまってちゃんが90年代のJ-POPとオルタナを掛け合わせたサウンドを提示しているのと同様、ブリットポップグランジ(ガレージロック)を組み合わせた同傾向の音であるように思える。そういう点では組み合わせの妙味が面白いアルバムだ

Winning Days

Winning Days

04年発表2nd。グランジ色が薄まって、ガレージっぽさとポップ色が強まった作品。というよりグランジとガレージロックの音楽性をそのままにビートルズ直系のポップソングを奏でるとこうなるのか、と。単なるパワーポップとは言い難い、奇妙なローファイ感とルーズさにこのバンドのポップネスがある。
個人的には前作にあった、ぎこちなさのカドが取れてバンドサウンドとしては完成度を高めてきたように思う。なんというか初期衝動ありきで音楽活動してない感覚が非常に強く、破滅的ではあると同時に強かさも感じられるか。病的ではあるけど、正気は失っていないというアンバランスさ。
静と動のコントラストのメリハリや、ガレージロック・リバイバルの流れを汲む、ハードロック的展開やそれこそマージービート調のギターポップとサイケ感などが絡まり合って、独自の世界を展開できているのは早くも貫禄すら感じられる。前作の成功に驕らず、着実に進歩を遂げた一枚か。

Melodia

Melodia

08年発表4th。全14曲32分半という今時珍しいコンパクトな内容だが、中身は凝縮されたように濃い。演奏はグランジというよりパワーポップ色が強くなった感があり、ポップ度もかなり高くなった。その一方で病んだ趣が隠し味に利いて、サイケなフレーバーがそここに振り撒かれている感覚を味わう。
フロントマンのクレイグ・ニコルズがアスペルガー症候群を患っている事が関係しているのかはいざ知らず、その病んだ感覚がバンドの骨子であり、特性であるために平常を保っているようで、真性のサイケさが滲み出ているのは興味深くはあるか。そういう点でも危うさもあり、過去と未来が表裏にくっ付く。 このバンドの音楽が6〜70年代のブリティッシュミュージックとグランジブリットポップを通過した08年現在の新しさが介在しており、不思議な接続感がある。古さと新しさが同列しているというか。温故知新とも違う、フラットな扱い方が非常に独特。それゆえに惹きつける魔力を感じる強力盤だろう。

ヴィジョン・ヴァリィ

ヴィジョン・ヴァリィ

06年発表3rd。こちらは全13曲31分半。とはいえおそらく彼らのディスコグラフ史上、もっともメロウかつ穏やかな作品に聞こえた。もちろん激しいところは激しいのだが、全体のトーンは非常に叙情的でまろやかな印象を受けるというより、彼らの引き出しのひとつである、ブリティッシュポップス色が濃厚だ
6〜70年代辺りの英国音楽シーンを髣髴させるような叙情的でウェットなメロディが鳴り響き、トラッドな趣を感じさせるミディアムナンバーのメロディが耳に残る。前作までの牙の鋭さが取れ、全体のトーンが妙に柔らかさを覚える。病んだ雰囲気が弛緩しているというか、マイルドなメロディが支配している
過去二作を考えると、バンドの勢いが減退しているようにも感じられるが、少しスピードを落として、音楽性を掘り下げた、という風に聞こえるか。熟成という言葉が合ってるかは分からないが彼らなりに自身の音楽に深みを持たせようとしたそんな一枚に聞こえる。刺激は今までより弱いが味わい深い作品だ。

Future Primitive

Future Primitive

11年発表5th。前作まで2年おきのリリースだったが、グレイグの体調不良が重なって3年ぶりの新作となった作品。バンド史上もっともサイケデリックに寄った内容となっていて、アルバムジャケットでも表現されているような、極彩色の毒気が全体を支配する。一方、時流を見たエレクトロサウンドも顔を出す
きわめてフラットに新旧の音楽スタイルが鳴り響くのはこのバンドの特徴であるが、その振り幅がいつになく大きく感じられる。同時にそれらが違和感なく流れていくのは、グレイグ・ニコルズの独特なポップセンスゆえだろう。アメリカでもなくイギリスでもない、オーストラリアだからこそ成立する音か。
ポップサイドは非常に英国的だが、ガレージやサイケデリックサイドは非常に米国的。この二極が絶妙にブレンドされてバンドサウンドが生まれていることを考えても、オーストラリアという地でしか生まれ得なかったバンドにも思える。本作も33分半という短い内容ながら凝縮された魅力の詰まった良盤だろう

未知への飛翔

未知への飛翔

78年録音盤。北欧のジャズギタリスト、テリエ・リピダルウェザー・リポートの初期メンバー、ミロスラフ・ヴィトウスキース・ジャレットの共演などで知られるジャック・ディジョネットのトリオ作。ECMレーベル独特の緊張感と静謐感が空間全体に広がる、アンビエントなヨーロピアンジャズ。
テーマや明確なメロディがあるわけでもなく、フリージャズのようにプレイヤーのそれぞれの呼吸に合わせて、空間に演奏が鳴り響く。イメージとしては題名の付けられた抽象画が描かれていく様子を眺めているような感覚。なものだから曲展開に起伏があるわけでもなく始まりも終わりも曖昧だ。
そういう点では観念的、思索的な小難しい音楽にも思えるかもしれないが、前衛性は皆無で楽曲のテクスチャー自体は後のアブストラクトなテクノやドラムンベースアンビエントテクノにも通じるグルーヴが潜んでいるのが興味深いところ。じっくりと聞き込めば深く沈めるエクスペリメンタルジャズの良盤だ

THE BEATLES

THE BEATLES

・68年発表10th。唯一の2枚組。アップルレコードから出た最初の作品であり8トラックレコーダーを使用しだした作品でもある。久々に聞いて感じたのは、もはやビートルズという「バンド」がビートルズという「記号」でしかなくなった、という点だろうか。「記号」の元に各人の個性が溶け合ってしまう。
細野晴臣YMOは「匿名性」で始まったバンドにも拘らず、次第に「記名性」を帯びていったという発言をしていたが、この当時のビートルズもそれに近い感覚があったのだろうと勝手に推測する。やってることは各人てんでバラバラ、4人そろって演奏してる曲も少ない。だがこれは「ビートルズ」のアルバムだ
アルバムとしてのまとまりはないが、ここまで好き勝手やってしまっても「ビートルズ」の曲として認識されてしまうジレンマ、みたいのは当の本人たちが感じていたことなのかもしれない。実際、ジョンとポールは自らの音楽ルーツや影響を振り返る曲が多いように思うし、ジョージは創作意欲に溢れている
リンゴも自作曲を提供していることからも、各人の個性は滲み出している。同時にそれらを「ビートルズ」という「記号」は内に取り込んでしまう。4人の個性をバンドの「個性」にしてしまえる程には「記号」は「肥大化」、一人歩きしてしまっているということを自覚してしまった作品なのだろうと。
こうなってしまうとメンバーが「自己主張」したくなるのも自明の理で、本作がバンド崩壊の始まりとか言われてしまうのだが、むしろメンバーが「記号」を制御出来なくなった、という方が正しいように思う。それ故にバンドに残った余白の「可能性」が見え隠れする所に面白さと魅力が詰まった作品だと思う

C2(初回限定盤)

C2(初回限定盤)

15年発表6th。インディーズから数えてアルバムデビュー10周年という節目の一枚で、インスト盤とメジャー1st「C」のリマスター盤を付属したエクストリーム仕様三枚組。次の10年へ向けての意気込みを感じる作りだが、今までに比べると迫力に欠ける出来なのは否めないか。
というより、シンセを使わずにギターサウンドで突き詰めていったバンドサウンドが飽和点まで来てしまった、という方が正しいかもしれない。エクストリームシリーズと銘打ってきたシングル曲のキレが良かった分、収録曲の新鮮さがあまりなかったように思う。もちろん彼らの王道サウンドが聞けるのは確か
ただ前作であそこまで拡張してしまったサウンドの先のアプローチが小さく収まってしまったのと、シングルでも顔を見せていた大人の落ち着きが結果として、盤全体の勢いの足りなさに繋がってしまっていると思う。インスト盤を聞くとある程度その不満も解消はするがフレッシュさより味わい深さが先行する
「C」のリマスターを聞いていても、かつてあった若々しさは10年の時を経て、失われた分、その補完をどうするのかという問題点が露わになった一枚だと思う。彼らのこだわってきたギターサウンドがもはや足枷になっている点も含めて、悪くはないが初めて「停滞」した悩ましい作品だろう。

Morph the Cat

Morph the Cat

・06年発表3rd。前作から実に13年ぶりのアルバム。その間、スティーリー・ダンを再始動させたりもしていたが、それも一段落ついた事でソロに向かったという印象。9.11や母親の死に影響された、「老い」がテーマになってる作品で、前作前々作とで三部作らしい、とも。
サウンドの方は再始動スティーリー・ダンの方向よろしく、枯れた味わいのタイトなファンクビートに乗せたNYサウンドという印象。都会の狭間で繰り広げられる、ハードボイルドな私小説といった趣がいっそう強く、ポップというよりは辛口で乾いたメロディが独特なグルーヴを生み出す。
金太郎飴といえばそれまでだが、その枯れゆく趣に達観と色褪せたノスタルジーに独り男が静かに酔うイメージが全体の偏屈さを強めているが、その無粋さにほっと安心してしまう一面も憎めない作品だろう。女子供を寄せ付けない、ダンディズムが広がるシティ・ミュージックの滋味盤だ。