In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2018年10月) No.1271〜1278

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
少し復調して、8枚聞けた。ホントはもうちょっと聞けたらいいんですが。ともあれ10月鑑賞分でついに2015年の新規購入分を聴き終えることが出来ました! いやー長かった。とは言いつつ、ようやく2016年に入ることが出来るわけですが、その間も購入続けてて、どんどん聞くものが溜まっていっているのはうれしい悲鳴という感じでしょうか……。地道に聞いていきたいと思います。年の瀬もいよいよ迫ってきています。病気や怪我をせずにこのまま過ごせるといいのですが。体調を崩しやすい季節に差し掛かって着てますのでこれを呼んでくれている皆さんもどうかお気をつけて。

というわけで以下より感想です。


海洋地形学の物語

海洋地形学の物語

73年発表6th。ブルーフォードが脱退して、アラン・ホワイト加入後初のスタジオ録音にして、前作以上の大作主義によって作られた2枚組アルバム。ブルーフォード独特の不規則なビートから一転して、タイトさのあるアラン・ホワイトのビートによって、音が太くなった向きはあるが、奇妙にユルい。
前作からの緊張感のあるサウンドが全体のトーンではあるが、一曲ごとが非常に大作になったため、演奏そのものが間延びした感じになっており、緊張感を保ったまま、たおやかなユルさが感じられてしまうのが冗長であるという原因だろうと思われるが、それがこのアルバムの魅力でもあるので痛し痒しだ。
メンバー自体は全盛期のテンションを維持しているので、聞き応えがある演奏が続くのが興味深いし、ある種の宗教体験としてのトリップミュージックとして聞くと、このアルバムは結構心地いい事に気づく。サイケというか、今で言うジャムロック的なのをもっとスピリチュアルにやっている感覚が面白い。
そういう点では、バンドのセッション風景を眺めているようでもあり、きわめて自由律な作品であるが、これを作り上げるのは壮絶な作業だったことも目に浮かんでしまう。事実、このアルバムの製作に嫌気が差し、リック・ウェイクマンが脱退してしまう。これによってバンドは新たな舵取りを要求される事になる。
バンドメンバーのクリエイティヴィティがアルバムの出来と一致しないという典型的な一枚である一方、プログレという音楽ジャンルの曲がり角を記録した一作でもあると思う。73年を境に各バンド、それぞれの道を模索していくことになるがこれもそういったバンドのターニングポイント的一枚といえるだろう


サウンドミュージアムファミコン編〜スーパーマリオブラザーズ3

・04年発表OST。雑誌ニンテンドードリームvol.112に付属された88年発売の「スーパーマリオブラザーズ3」のサウンドトラック集。あくまで雑誌のおまけなので一般流通はしていない代物。当時食玩シリーズで出ていたものの特別版という形での8cmCDサウンドラックとあっており、収録時間も20分足らず。
後にファミコンマリオシリーズを取りまとめたCDは出ているが、マリオ3のBGMを単体で聞けるのはこれがおそらく唯一。今改めて聞くと、8bitの限られた音数の中でリズムパターンがあまりにも多彩だということに驚かされる。音楽を担当した近藤浩治氏の手腕が冴えたものとなっている。
88年という時代柄か、ヒップホップのリズムが織り交ぜられたり、ウェスタン調やラテンの陽気さが漂うサウンドなどかとなくワールドミュージックを意識した音楽なのも、当時のバブル景気とともにファミコンサウンドの進化も分かるものとなっており、興味深い一枚だと思う。個人的にはワールド6が印象に深い。

15年発表4thSG。当時飛ぶ鳥を落とす勢いそのままの高いテンションが収められている意欲的なシングル。スキャンダルが露呈する直前とはいえ、歌詞のやるせなさや諦念感、ぐちゃぐちゃなルサンチマンの自己言及感が聞いていてぐさぐさ来る。なんというか鬼気迫るという言葉が似合うような際どい感じ。
ダブルA面となっている楽曲以上にハイライトは4の「灰になるまで」だ。今聞くと本当にスキャンダル以前の曲かと思わんばかりに、切迫感と焦燥感がちりつく赤裸々な歌詞内容に心がざわついて仕方ない。本当のことを言っているかどうかはともかく、何かが渦巻いていたことが窺えるもので興味深い。
このシングル発表以後は報道の通りだがこの時点では何かが張り詰めていて、今にもはちきれんばかりに鬱屈していたようにも感じられる内容であることは確か。スキャンダルが良くも悪くもガス抜きになったというより凧の糸が切れたようにも思えるか。なんだかんだで彼らの分水嶺的なシングルではないかと。

ドラム・オード

ドラム・オード

75年録音盤。エレクトリック期のマイルスバンドでサックスを吹いていたデイヴ・リーブマンがその在籍中にECMで録音したアルバム。当時のクロスオーバーサウンド的な内容であるが特筆すべきはツインドラムをはじめ、パーカッション陣が8人も参加しているというメンバー構成。
パーカッションの多さやアルバムタイトルからもわかるようにリズム探求的な楽曲が立ち並んでおり、ラテン、アフリカン、ブラジリアン的な細分化されたリズムが入り乱れる。そこにリチャード・バイアード、ジョン・アバークロンビーといったECMお馴染みのメンバーが絡み、熱っぽい演奏が繰り広げられる
リーブマンの吹き上げるサックスは、オーソドックスなプレイが力強さと存在感を高めており、全体のサウンドの中核を担う。RTF期のチック・コリアウェザー・リポートなどに接近したサウンドではあるが、よりリズムに特化した印象でECMの静謐なイメージとは異なり、神秘的な躍動感に満ちた一枚だろう。

Amazing New Electronic Pop Sound of

Amazing New Electronic Pop Sound of

68年発表4th。ディズニーランドのエレクトリカルパレードで有名な「Baroque Hoedown」の作曲で知られる、ジャン・ジャック・ペリーのソロ作。と言ってもやってることはPerrey and Kingsleyの頃とあまり変わらず、モーグ・シンセザイザーを使った演奏によるハッピーでモンドな楽曲群という感じ。
このアルバムは自作曲(&クラシック曲のマッシュアップメドレー)で構成されており、楽曲タイトルのイメージからすると、当時のアポロ計画による宇宙趣味や映画音楽、あるいはエキゾチックミュージックなどエッセンスがふんだんに盛り込まれた、陽気なトラックが生ドラムのリズムに乗って聞こえてくる
面白いのはこの陽気な底抜け感やエキゾチックな感触、シンセの人工音と人間の叩くリズムの妙味と言うのがそのまま、後のYMOが送り出すテクノポップの形そのままであるということ。勿論、時代的にYMOの方が洗練はされているし、どちらにしてもマーティン・デニーなどからの影響は隠せないだろう
しかし偶然?にもこの組み合わせが68年の時点で形作られていることを考えると、YMOの音楽のインスパイア元のひとつではないかとも思えてくるから興味深い。後ろめたさのない、極めてハッピーなトラックから感じられるキャッチーな印象は古くはあるが、今聞いても楽しい気分にさせられる。
実際そうであるかを抜きにしても、ジャン・ジャック・ペリーの作り上げた音楽が源泉となって後の電子音楽の歴史を切り開いたのはいうまでもなく事実であるし、その線上にYMOもいると言う歴史的な流れを感じ取れるだけでも意義のある一枚だし、そんなことを考えずとも、楽しい聞ける好盤だ。

Free

Free

69年発表2nd。前作から7ヵ月後にリリースされたアルバム。当時、10代のメンバーが繰り広げるブルースロックといった趣なのは変わりないが早くもその枠を飛び越えて、音楽的な幅広さも感じられる内容となっている。英国出身らしく、ブルースを演奏していてもそこまで泥臭くならず、垢抜けた音。
都会的なシカゴ・ブルースとも趣が異なり、なんというか草の匂いと英国の叙情的なメロディが絡み、乾いた音というよりは枯れた味わいの中にも湿度をじんわり感じるのがこのバンドに限らず、ブリティッシュロックの特徴なのかもしれない。湿度の重さの分だけ、ボトムラインの安定感が映えるか。
この盤に限っていえば、アンディ・フレイザーのベースの存在感が目立っているというか頭ひとつ抜けている印象も感じるか。ポール・コゾフのブルージーで神経質なギターがその上に乗っかって、奏でられている感じで繊細さと骨太さが同居した奇妙なバランス感覚が耳に残る。
非常に筋肉質な反面、内面のセンシティヴかつナイーヴなセンスが当時一線を画す、バンドのオリジナリティであったのかなと推察される。同時にそれは諸刃の剣でもあり、まだまだ青春という時代に生きていた人間だから成立できた音でもあるかと思う。成長著しく、音楽性を幅広く拡張した早熟の一枚。

Wasp Star: Apple Venus 2

Wasp Star: Apple Venus 2

00年発表12th。現時点における最終作。中心人物のアンディ・パートリッジ自身「もうXTCの新作は有り得ないだろう」とも発言しているそうなので、ラストアルバムだと考えて良さそうだ。前作の続編でエレクトリックサイドの楽曲がメイン、というか従来路線の内容が繰り広げられている。
XTCらしいパウンドケーキのように厚みのあるブリティッシュポップサウンドで、その影にはビートルズを始めとした、歴史と伝統も感じさせなくない作り。ちょっぴりサイケなラム酒を織り交ぜて、練りに練り上げたポップスは毎度毎度ながら安定感があり、全編を通して外れがない職人芸を感じる。
それゆえに楽曲のメロディなどはかつてないほどまろやかな口当たりでのど越しが小気味良く滑っていく。それこそ程よく熟成されたワインやウィスキーのように。反面、メロディの展開には過去作で聞いたことあるようなフレーズがちらほら出てきていたりと、自家中毒感が否めないのも確かだ
しかし、もはや音楽的革新を目指すバンドではないし、いかに金太郎飴であろうが、そこにポップさがある限り、職人的な腕前を楽しむ作品であり、そういう点ではまったく問題ないどころか、タイムレスな魅力をいつまでも放ち続ける作品だろうと思う。おしむらくはその歴史が止まってしまったことだけだ。

ウィ・スリー

ウィ・スリー

58年録音盤。名ドラマー、ロイ・ヘインズのリーダー作。当時ジャズクラブで定期的にギグを繰り返していたピアノトリオでの録音。フィニアス・ニューボーンとポール・チェンバースという実力派が繰り広げた演奏は熱っぽさよりかはリラックスした雰囲気のスムース&ブルージーなもの。
しかしその寛いだ中でも、各人の技量の高さが窺えるプレイを見せており、白熱した演奏ではないが達人たちが余裕を持って、事も無げに熟練したテクニックを披露し合っている。ある域に達した者だからこそ描き出される演奏の妙に凄みを感じる。あえて火花を散らさず、じっくりと聞かせてる演奏はクールだ。
そんなシブく決めているアルバムだが個々の演奏はそれぞれ聴いていると、どれも才気あふれるものであるのも興味深い。演武のような演奏、といってもいいかもしれない。攻めようと思えば、いかようにも出来る布陣だがお互い息の合った掛け合いがとても楽しい一枚だろう。何もしないで静かに浸りたくなる。