In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

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【ネタバレ】「私たちの居る理由」歌詞読解〜少女☆歌劇レヴュースタァライト〜

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今回は「少女☆歌劇レヴュースタァライト」舞台版のミュージカル曲についてのお話。



本作はアニメと舞台による二層展開式となっている物語で、そこで繰り広げられる「歌」も作中あるいは物語において、かなり重要な位置を占める要素となっています。本作のキャラクターユニット、スタァライト九九組が歌う全楽曲を作詞しているのが中村彼方さん。
中村さんのインタビューを読むと、作詞家としては珍しく作品の企画脚本会議に初期段階から参加し、物語構築の根幹にも深い関わりを見せているようなので物語同様、その中で披露される楽曲についても、読み込む必要がありそうです。
そこで今回は歌詞の読み解きをしてみようかと思います。
↑に張った舞台版のBDを手に入れてから暇さえあれば見返しているのですが、その中でも特に読み解きがいのある一曲をチョイスして、語ってみようと思います。それが今回取り上げる「私たちの居る理由」です。
ただここで留意してほしいのは「私たちの居る理由」は作詞クレジットがはっきりしません。舞台版のパンフレット、BDのブックレットを見ても、中村さんの肩書きは「劇中戯曲脚本と作詞(2部ライヴパートの楽曲)」となっています。なので舞台の劇中で歌われている楽曲の作詞については、舞台の脚本を担当された三浦香さんである可能性が高いです(というよりほぼ間違いない?)。とはいえ、中村さんの作詞した「Star Divine」も劇中歌として使用されているのでそのあたりの境界線がはっきりしていないのが悩ましい所。舞台版のプレコール(自己紹介曲)とは別に、キャラ紹介楽曲である「よろしく九九組」をTVエンディング曲のカップリングに作っている辺りを察すると、はやり違うのかなとも。

それらを踏まえて、今回の記事をお読みいただければと思いますが、それにしても「私たちの居る理由」の歌詞が聞く度に唸ります。端的にいうととてもエモい。エモくて、いろいろ今後のことがいろいろ思い浮かぶくらいなのですが、それはおいおい語るとして。
例によって舞台版視聴を前提としたネタバレになります。
続きを読む場合は以下をクリックして、お読みください。

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音楽鑑賞履歴(2018年6月) No.1253〜1263

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

11枚。
梅雨に入ったと思ったら、6月の内に梅雨明けしてしまいました。
7月に入ったばかりなのにもう夏の日差しですでに猛暑の様相を呈して、今年の夏の暑さを物語っていますね。
先月は計らず、フランク・ザッパ特集で新規盤より所持盤の感想が多くなってる感じです。
色々あって、しばらく聞いてなかったのですがやっぱり好きですね、ザッパ。
夏もいよいよ到来。暑さに体力を奪われずに過ごしたいですね。
というわけで以下より感想です。

Yellow Shark

Yellow Shark

・93年発表62th(※ライブ盤も換算した枚数)。この作品のリリース約一ヵ月後に亡くなったのでこれが遺作となる。録音は92年9月。ドイツの室内楽団、アンサンブル・モデルンがザッパの楽曲を演奏した音源が収録されている。ザッパは一部指揮を行っているが基本的にはプロデュースのみで演奏には不参加
内容も完全に室内楽なのでロックな演奏を期待してはいけないが、ザッパミュージックの一角として、現代音楽、あるいはクラシック音楽のアプローチは重要な位置を示している通り、奏でられる音楽はまさしくフランク・ザッパの音楽である。あの独特なテンポと音のうねりを再現してしまえる楽団も凄まじい
というより、ザッパの脳内に鳴り響く「音楽」とはこういうものだったのか、ということを再確認する。「正確な演奏」であるならば、晩年傾倒したシンクラヴィアによる音楽がまさにそれなのだが、おそらく「再現性」で言えば本作に軍配が上がるのではないか、と。ザッパの想定する楽器で響く演奏。
それを考えると、ロックミュージシャンとしてのザッパの特異性も見えてくるのではないかと。このユーモラスかつシリアスなミュージックこそが思い描いたものであり、必ずしもロックはその音楽の最適手ではなかった。それ故に、この盤に包み込まれる賞賛の拍手は純粋に彼の音楽に贈られたものだろう。
そんな最晩年の幸せな一瞬も捉えた作品でもあるのだと思う。初手に聞く作品でもないし、お薦めしづらい一枚でもあるが。ファンならどこかのタイミングで聞いてほしいと思うアルバムだ。

ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「殺」

ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「殺」

15年発表OST。同名アニメのED楽曲コンピレーション&大沢伸一作曲の劇伴BGMが収録された第二弾。作品のサイバーパンクかつバイオニックな雰囲気に合わせて、日本のインディーズシーンのオルタナミュージックが有名無名問わず収録されている。ED楽曲はどの曲も刺激に満ちた内容ばかりだ。
オルタナ、ドゥーム、ラップにガレージ、ポストパンク、エレクトロ、珍しいところではネオアコ的なボサ・ノヴァなどなどを縦断して、当時の日本アンダーグラウンドシーンが窺い知れる点ではアニメ作品のサントラとして以上にいい構成と選曲であると思う。一方大沢伸一の手がけたBGMも作品に沿った作り
カオティックかつサイバーパンクなインチキ日本に繰り広げられるニンジャの復讐劇によろしく、過去がフラッシュバックするようなダークでパンチの効いたエレクトロも聞き応えは十分。一粒で二度美味しい、コンピ系サウンドトラックの良盤だろう。

FRUITS CLiPPER

FRUITS CLiPPER

・06年発表7th。それまでの渋谷系フォロワー的なハッピーエレクトロ路線から、バッキバッキのフロア仕様エレクトロ(EDMといっていいかもしれない)に様変わりした一枚。同時にこれ以降のプロデュースワークスにおける中田ヤスタカ的ポップスの雛形が完成した作品だと思う。とにかく音圧が強く煌びやか
今聞くと、このアルバムリリースの前年に出たダフト・パンクの「Human After All」からの影響がかなり色濃いが、それでこのアルバムの魅力が劣るということは決してないと思う。その影響を踏まえて、さらにキャッチーな個性を上乗せしているのが何よりの証拠だろう。本家にはないポップネスこそが魅力
EDMよろしく、ストロボでフラッシュを焚いたようなアタックの強い音と渋谷系フォロワーらしい甘いメロディが重なることによって、日本にはそれまでなかった感覚のエレクトロポップに仕上がった事がなによりの収穫なのだろう。事実、後のPerfumeなどに繋がる曲想が多数盛り込まれている。
このアルバムがベースとなり00年代後半のJ-POPシーンを席巻するサウンドが展開されていくことを考えると、まさしくターニング・ポイントだったのでは、と推測する。楽曲、アルバム構成とともに非常に練られた強力な一枚であり、中田ヤスタカの快進撃を決定付けた名盤だろう。

VEGA INTL. NIGHT SCHOOL

VEGA INTL. NIGHT SCHOOL

15年発表3rd。もはや死語となってしまったヴェイパーウェイブの代表的ユニット。前作のベッドサイドミュージック的な陶酔感から一転し、ポップサイドへと傾いたサウンドを提示している。前作の余波からか、そのドリーミーでサイケデリックな感覚も健在で、快活だが不定形なポップさがかなり奇妙。
P-ファンクや80sディスコのブギーで鳴り響く、グニャグニャっとしたシンセサイザーの音がアルバムの大部分を支配し、めまぐるしくメロディを変えていく。そのキッチュなメロディが煌びやかながらも、一筋縄でいかないメタリックで華やかなサイケデリアを標榜する。夜間学校と名付けた通りの妖しさ。
音自体は非常に洗練された、伸びやかなものだ。その透き通った幻想性は鏡に乱反射する光のように多方面から浴びせられる。陰影のコントラストよりも光の眩しさでコントラストをつけて、ホワイトアウトした感覚にも陥る。シンセの持つ清濁を熟知したようなフロアポップの良作だ。キレの悪さが堪らない。

Lotus Land

Lotus Land

15年発表1st。日本人のピアノトリオによるディスコティックなクラブジャズの初作。1曲目がかのレコード番長、須永辰緒氏に取り上げられたりもしていることで有名。ジャズとは言ったが、聞こえてくる音楽は70年代後半のスペーシーなディスコサウンドに多大な影響を受けている音でその手が好きな人には堪らない作り
アープオデッセイのようなシンセの響きが宇宙的な広がりと浮遊感を演出すれば、ディスコミュージックの野太くシャープなボトムラインがミニマルに踊りだし、そこへ煌びやかなピアノの音色が全体を包み込む。その演奏の黄金律に思わず、リズムを取りたくなるほどだ。聞いていてとても楽しくなる。
スペースブギーというにふさわしいサウンドで、一度鳴らせば、そこはもう銀河系の彼方。なにより70年代のディスコサウンドにリスペクトとオマージュを感じさせながら、Nu Discoのトレンドに上手く乗った良盤だと思う。人懐っこい人力の演奏がこの作品のいい塩梅だ。長く付き合えそうな一枚。

ロビンソンの庭

ロビンソンの庭

87年発表OST。同名映画に使用されたJAGATARAの楽曲だけを抜粋し、「ゴーグル、それをしろ」のリミックスを追加して構成、CDで再リリースされた変則的な作品。彼らのディスコグラフの中では最もコンパクトな内容となっている。同時に今まで見せてこなかった側面を聞かせてくれるという点でも貴重な記録だとも言えるだろう。
江戸アケミのポップサイドが顔を出したような冒頭2曲は晩年、アフリカンミュージシャンと共演する事を考えると納得できる楽曲で、ワールドミュージックの陽的・朗らかな部分を積極的に取り入れようとする姿勢が窺える。元々アフロビートも演奏していた事からもサンバなどのラテン音楽へと向くのは必然
後半の二曲は旧曲の再演とリミックスだが、こちらは彼らの本領というか怒りや苛立ちのようなフラストレーションを爆発させる楽曲であり、前半の2曲にはない、その猥雑な熱気の煮えたぎる様を感じさせてくれる。最後の曲は当時らしいラップ的なリミックスだが挿入されてる江戸アケミのライヴMCは切実だ
江戸アケミが持っていた危機感がそのまま現在において浮き彫りになっているように思えてしまい、彼にしてみてみれば「それ見たことか」と言わんばかりだろうかと感じてしまう。しかし、それを見ることなく亡くなったのは幸か不幸なのか。ともかくバンドの今までにない側面と従来の路線が味わえる佳作だ

Little Feat

Little Feat

71年発表1st。ザッパファミリーのローウェル・ジョージが結成したバンド。ニューオーリンズセカンドラインブルーグラス、カントリーなどのアメリカ南部音楽を咀嚼したレイドバックなサウンドを押し出している。南部の泥臭く、粘りのあるビートに乗り、ローウェル・ジョージのVoが朗々と歌い上げる
この初作では、まだ後の作品で見られる洗練さは見られず、バンドサウンドとして取り入れた音楽要素が雑味の残ったまま、ごろっと押し出されているのに目を引く。その点では垢抜けなさと荒削りな部分があるが、返ってそれが盤の捨てがたい魅力にもなっている。同時にそれが彼らの意思表示でもあるか。
次作で再演される5など原石の輝きを持つ楽曲も多く、いわゆるアメリカーナ音楽と呼ばれるジャンルを切り開いたバンドとして見る事は可能だ。アメリカの雄大な大地に吹く柔らかな風と乾いた土臭さが感じられる伸びやかなサウンドが何よりも魅力的な一枚だ。完成度は以降の作品に譲るが味わい深い佳作だ

Absolutely Free

Absolutely Free

・67年発表2nd。前衛性が強かったデビュー作のカドが取れた感がある一方で、レコードのA面、B面でそれぞれ「アンダーグラウンド・オラトリオ・シリーズ」と名づけられたコンセプチュアルな組曲形式が取られているアルバム。CD化に際し、シングル曲が「幕間」的に挿入されている。
コンセプトアルバムとしては僅か一週間足らずだがにビートルズのサージェントペパーズに先駆ける内容となっているとともに、こちらの方が明確なテーマに基づいて構成されている印象を持つ。アンチ・カウンター・カルチャーで当時の米政府にも懐疑的なザッパの痛烈な批判が全体のトーンとなっている。
サウンドの方は戯作的で芝居とバンドの演奏が渾然一体となったもので独特な個性に早くも確固たる地盤を築いている。その意味からでも統一感は前作と比べるまでもなく、強くなった。前衛性の強い曲などを組曲の一展開として上手く構成できたのが大きいだろう。演奏も随所でギターより木管が目立つ。
この辺りはザッパの現代音楽志向が見え隠れしており、思い描く音において、重要な位置にあるのだと感じさせられる。アルバムの構成的には今ひとつだった前作から格段に進歩した一枚。ここまで猥雑でカオスな内容にも拘らず、ザッパはノードラッグを貫いて製作しているのだから凄まじい。

We're Only in It for Money

We're Only in It for Money

・68年発表3rd。当時隆盛していたヒッピー文化、フラワームーヴメントを徹底的にこき下ろした、初期の傑作。「オレ達ゃ、金のためにやってる」というド直球なタイトルとともにあまりにも有名なサージェントペパーズのジャケットパロが痛烈。前作に引き続き、初期サウンドの洗練化が進み、完成を見る。
前作でも展開されたコンセプチュアルな構成が今回はアルバム全体で構成されており、A面B面とも曲間の区切りなくほとんどメドレー形式で展開されていく。内容としては当時流行していたサイケデリックロックやラヴ&ピースを掲げたヒッピーの理想主義をこき下ろす楽曲が目白押しで、シニカルさが漂う。
一方でフラワームーヴメントの熱気に当てられたヒッピーたちを反逆者として駆逐しようとする存在(アメリカ政府?)を忘れるなと警鐘も鳴らす。という、ポリティカルな内容でもあるが、サウンド的にはリズムが面白い作品で従来のザッパらしいウネリのあるメロディに華を添えている。
毒気のある歌詞が非常にポップなメロディに乗っかって、一気呵成に流れていくが本作の肝はラストの19だろう。痛烈に皮肉った後におまえら(ヒッピー)の行き着く先はここだといわんばかりにザッパの前衛性が牙を剥く。最後の最後で不穏に響く現代音楽のサウンドは50年を経た今でも十分通用する。
ノー・ドラッグを貫きながら、サイケにも呼応したサウンドで毒を吐く。本当にこれを素面でやってること自体が逆に狂気的でもあるが、ザッパの才覚が爆発したという点においては開花の瞬間を捉えた名盤だろうと思う。音響系やヒップホップにも通じる箇所のある点でも先駆的な一枚。

Lumpy Gravy

Lumpy Gravy

・68年発表4th。ソロ名義としては初めての作品だが、ジャケット裏面にあるように前作「We're Only In It For The Money」の続編であるのが示唆されていることからも、バンドとソロ活動に明確な区別はすでにない模様。とはいえ、本作は初期作の中でも現代音楽色が特に色濃い作品だといって過言ではない
オーケストラ演奏にバンドの演奏、人の会話。それらが等しく切り貼りされて、いわゆるミュージック・コンクレート的なサウンドコラージュによって構成されている。レコードにおける片面約15分ずつ、その混然とした構成の「音」は慣れない人が聞けば、ひどく退屈なものにも聞こえてしまう。
繰り広げられる会話の内容も前作を踏まえてなのか、ラリッた会話のオンパレードなのも非常にシニカル。そういった薬物で分裂した精神の中で鳴る音をとても冷静にかつ分析的に構成している所に音楽的価値があるのかもしれない。が、どちらにしてもそういった危うさに警鐘を鳴らしているようにも思う。
ちなみに後の作品に収録される「Oh No」と「King Kong」は発表順からすればこのアルバムが初出。全体の印象としては、ミックステープやリミックス的な概念で構成されている一枚でもあり、現代音楽的な「音」を表現した作品でもある。興味深い内容だが振り切った作品でもあるので聞く際に注意は必要だ。
テクノなどに慣れ親しんでいると、そこまで聞き辛い作品でもないが形式的なバンドの演奏を期待してはいけないアルバムだろう。同時にザッパの現代音楽への思いが初めて形となった作品として記憶される一枚だ。

Jazz From Hell

Jazz From Hell

・86年発表47th。当時出始めたばかりのFM音源搭載シンセサイザー、シンクラヴィアをほぼ全編駆使したアルバム。同時に没後リリースされた遺作「Civilization Phaze III」が出るまではザッパ最後のスタジオ録音作品でもあった(本作以降のリリース作品はお得意のライヴテープ編集によるものが主)。
7のみライブ音源でそれ以外はシンクラヴィアを使った楽曲が収録されている。ほとんどシーケンサーによる自動演奏なので、ザッパが頭の中で思い描いたメロディがテンポのズレなく、譜面どおり正確に演奏されている。その正確性についてはザッパも満足していたようだ。
内容についてはFM音源によるメロディが存外レトロゲームサウンドの趣があり、今となっては懐かしさのある音だが、その生音っぽくない感触がザッパの脳内を垣間見るようでヒューマニックな印象すら与える。ザッパのニューロンシナプスに流れる電気信号が織り成すメロディだと思えば、面白い響き。
奇々怪々、複雑怪奇、ユーモアとシリアスが混じり合い、螺旋運動のように継ぎ目なく上昇、下降する音楽はザッパのインナーワールドであり、時に内省的な表情を見せる。その展開される旋律だけを取ってみれば、やはりロックより現代音楽であることが手にとってよく分かる作品であり、明快な一枚だろう。
他人を介さない分、「雑味」が一切ない純度100%のザッパ節を聞ける点では貴重な作品であり、ザッパの現代音楽サイドでも最も分かりやすい作品と言っていいだろう。後年、アンサンブルモデルンが完璧に脳内での響きを「完全再現」したG-Spot Tornadoのオリジナルは本作収録。違いを聞き比べるのも楽しい一枚だ。

音楽鑑賞履歴(2018年5月) No.1239〜1252

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

14枚。
今年も半年が過ぎました。早いもんです。5月は邦楽メインであとはちょこちょこと英米をつまんでる感じでしたかね。
なんというか春らしい陽気さと影を感じるチョイスにはなったのかなと。
大分、日照時間も長くなって夏が近づいてるのをひしひしと感じます。
今年も暑くなりそうですが、バテないように気をつけたいものですね。
というわけで以下より感想です。

And Then There Were Three

And Then There Were Three

77年発表9th。次々にメンバー抜けてゆき、ついに三人だけが残ったジェネシスの「再出発」盤。ピーター・ゲイブリエルの脱退以後、サウンドのテクニカル化が顕著になっていったが更にスティーヴ・ハケットが脱退したことにより、その傾向に更に拍車がかかった格好となった。大曲主義も鳴りを潜めている
とはいえ、作品的には未整理な部分が多く、過渡期という印象が強い。まだプログレらしい趣とテクニカルポップスの華やかさが一曲の中に混在しており、結果的にメロディが重層的になっている所に過密さを感じるか。なにかの原液を飲まされている感覚で一曲ごとの内容は非常に濃い。
反面、アルバムの構成としてはかなり散漫でプログレ時代のコンセプチュアルな趣は皆無、という辺りも当時、批判の的になったのでは思わされるが、奏でられている旋律そのものはとてもキャッチーであり、メンバーのメロディメイカーッぷりが窺えて、後の大ヒットの布石が見え隠れする。
この路線変更が結果的に当時のバンド史上最高のチャートアクションを見せてしまうのだから、皮肉といえば皮肉。ついでにヒット曲となった11はプレ80sサウンドとしても聞けるのが興味深いところか。プログレの終焉と80sサウンドの萌芽を同時に見ることの出来る佳作。そして快進撃の始まりを告げる一作だ

くうきこうだん

くうきこうだん

99年発表1st。はっぴいえんどの血脈に連なるシティポップス。当時インディーズで発表してたテープの音源を取りまとめた彼らの初作。ど直球に荒井由実直系サウンドをバンドスタイルで押し出しているが、そこに時代的なローファイサウンドオルタナ然とした歪みも入り込むのが目を引く。
柔らかな旋律が流れてくる一方で全体的なサウンドが硬質な向きを感じるのは、70年代のニューミュージック勢とは違った趣でバンド名にも使われる「公団」からの連想で公団住宅、いわゆる団地の肌触りを感じる。あの無機質で秩序的な住宅周りの独特な情緒が彼らの音として機能しているのだ
その為か本作のサウンドにもあまり土臭さはなく、かといって都会的な洒脱した趣も薄い。あるのは人懐っこい日常とその人工的な自然と無機質な住宅を構成するコンクリートの冷ややかさ。そこに柔らかな日差しの温度が差し込み、爽やかさを演出する。「街」ではなく「町」を感じるシティポップの良作だ。

Morrison Hotel

Morrison Hotel

・70年発表5th。デビューしてからわずか三年でここまで枯れた味わいになるのかというほど、ブルース色が強まった一枚。同時にスワンプロックの流れに呼応するかのようにアーシーな雰囲気も出て、ファンキーな感覚とサイケの喧騒にくたびれた趣が同居しているのが独特。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、といった向きもある本盤ではあるがサウンドの幻想性が抜け落ちた分、前作から続くバンドメンバーのソウルやブルースに対するアプローチが色濃くなって、音がかなり骨太になっていることは確か。反面、ジム・モリソンがややヤケクソなパフォーマンスなのが温度差を感じる。
演奏陣とVoのこの温度差がそのまま本作の上げ潮と下げ潮になっていて、ファンキーな熱っぽさと、醒めた眼差しが入り乱れているのだろうと思う。奇しくもそれがバンドとしては化学反応を起こして、あまり類を見ない荒涼としたサウンドとなっているのが興味深い所。新しいフェーズに踏み込んだ意欲作か。

キミドリ

キミドリ

93年発表唯一作。ジャパニーズラップクラシックスの一つとして名高い一作。30分にも満たない短い収録内容だが、歌われるリリックは現在でも十分に通用しうるテーマを内包すると言ってもけして過言ではない。ほの暗くダークなリズムトラックに乗せて語られるラップは社会と自我との拮抗がテーマだ。
25年前の作品にも拘らず、ここで歌われる社会における自我の閉塞感やニヒリズムに満ちた社会への諦念は現在のリスナーたちが置かれているだろう等身大の状況とひどくリンクしてしまえる効用がとても高いはずだ。「自己嫌悪」「白いヤミの中」といった代表曲は特にその傾向が強い。
当時はこれがアンダーグラウンドな叫びに過ぎなかったのが、時を経てメインストリームに躍り出てしまっているということなのかもしれない。が、だからこそ「療法」として聞けてしまうのがこの盤から滲み出たエヴァーグリーンな魅力だと思う。時々自分が意味もなく無性に不安になった時に聞きたい名盤だ

SEYCHELLES

SEYCHELLES

・76年発表1st。前年にサディスティック・ミカ・バンドが空中分解し、その余波を受けて送り出された高中正義のソロ第一作。ほとんど同時にミカ・バンドの残党によるサディスティックスの1stもリリースされていて当時の動きがめまぐるしいが、ともあれJ-FUSIONにおける金字塔的作品の一つかと。
東アフリカに浮かぶセーシェル諸島をモチーフに、ミカ・バンド(ひいては加藤和彦)のトロピカルさとエキゾチックさを推し進めた内容で、演奏陣はそのままミカ・バンド〜サディスティックス勢で構成されているから悪いはずもなく。むしろミカ・バンドのリゾート的な洒脱感が一つの完成を見ている。
高中のギターも、ソロやアドリブに走るわけでもなくベンチャーズ直系というべき、メロディラインを弾くことに徹底しているからこその気持ち良さがある。というより、Stuffの諸作と同じ感覚で本作を聞いている事に気付く。熟成されたグルーヴにギターが程よく歌い、陽気な雰囲気が漂う所などはまさしく
それを考えると後藤次利のベースや林立夫のタイトなドラムなどといった、ミカ・バンド〜サディスティックス人脈がどれだけ実力者揃いだったということが良くわかる一枚でもあり、芳醇な和製グルーヴが楽しめる名盤なのだろう。次作ではボトムラインが変わり、また違った味わいになるがそれもまた良し。

風の歌を聴け

風の歌を聴け

94年発表4th。メンバー脱退を経て、新体制での最初の作品。従来の作風が洗練されている一方で、キャッチーなヒット性も兼ね備えた感のある内容となっている。一聴して、初期三作の濃さが薄らいだ分、肩の力が抜けたのか、伸びと勢いのある演奏が目立つ。かといって売れ線を狙ったわけではない印象も。
先行シングルで発表された10やそのカップリングである6はアルバムバージョンで収録されているが、彼らの音楽性にJ-POPの要素が取り込まれた向きが強く、バンドの軸足はほとんどブレていないのに気付く。深度を増しながら大衆性も伺える、バンドの好調さを感じられるソウルフルでグルーヴィな良盤だ。

RAINBOW RACE

RAINBOW RACE

95年発表5th。前作のキャッチーさをあえて切り捨て、取り入れた音楽要素の「クセ」を我が物にしようと試みている一作だと思う。J-Pop的な洒脱感や、前作までで熟成された彼らのポップネスをひとまず置いて、ソウルやラテン音楽全般に根付く「泥臭さ」に注力しているためか、音やビートが非常に粘っこい
この為、楽曲の弾力がかなり特徴的で、手に入れたグルーヴをさらに深化させているのが窺えるし、その音楽たちに染み付く歴史的な「汚れ」や「傷跡」にリスペクトしているような印象も受ける。カジュアルに消費するのではなく、しっかりと理解するために真っ向から音楽に取り組む姿勢が研究的でもある。
前作が上澄みのスープであるならば、本作は骨身を砕いて、ぐつぐつ煮込んだ濃厚なスープにも思える。とはいえ、枚数を重ねている分、飲みやすさも意識したものとなっているのもまた抜け目ない内容でもあるか。日々の研究によって、音楽の実像を捉えようとする成果が見える良作だろう。

Desire

Desire

96年発表6th。本作よりバンドからソロユニットへ。内容はさらにサウンドの土臭さが濃厚になって、よりアーシーなルーツミュージックアプローチが顕著になった。全体を聞き渡すと大滝詠一の「NIAGARA MOON」を髣髴とさせるセカンドラインやルンバが聞こえてくる一方で、音の感触は当然ながら異なる趣。
とはいえ、前作に比べ湿度が段違いで本作の方がより乾いた音に感じられるか。ウェットな印象は皆無で、そういう点ではアメリカの乾燥地帯におけるアメリカーナ音楽を感じるが、次作以降の予告編のような打ち込みサウンドもひょっこり顔を出しているのが興味深くもあり、前作とは違った陽気さを感じるか
大滝のようなリズムのこだわりと細野晴臣が提唱した「チャンキーミュージック」が本作で合わさって、ごった煮ルーツミュージックになっているのは日本人だから出来る部分であるなと思いつつ。ここまで乾いていると逆にシングルカットされた9などが歌謡曲然としていて浮いてしまうほど。
バンドがソロユニットになったからなのか、表現の自由度が高くなったように思える一方で前作前々作からの作風が煮詰まった感があり、本作はその飽和点ギリギリという印象も感じなくはない。どちらにしてもまた曲がり角に行き着いた事で岐路に立った佳作だ。

ELEVEN GRAFFITI

ELEVEN GRAFFITI

97年発表7th。当時隆盛しつつあった、ドラムンベースなどのテクノや打ち込みを導入した作品。一曲ごとのサウンドが重層的になっていることからもハードディスクレコーダーで録音しているような気もするが、その辺りは定かではない。とはいえ、過去三作のアーシーな趣も残っていて、ごちゃ混ぜ感がある
ルーツミュージックとテクノ、打ち込みの同居という点ではBeckを思い出させるが、本作の肌触りはそれよりも同時代、この直後に大きなブームになるビッグビートへ繋がる音だろう。ファット・ボーイ・スリムが作り出した、埃くさい汚れた音で四つ打ちのキックを入れる、あの雰囲気にとても近い。
オリジナルラブ田島貴男がテクノDJではなくミュージシャンだという事が本作の音にも直結していて、音の組み合わせ方がフィジカルなのが大きいのだろう。切り貼りするのではなく繋ぎ合わせているから、歌が埋没せずに際立っている印象だ。ただまだそれらのブレンドに改善の余地を感じる。
実際、テクノや打ち込みは要素の一つであり、メインを占めていない点からも明らかのように、メインはルーツミュージックへの濃いアプローチだ。新要素がそれらを希釈してる一方、ひょっこりマージービートも顔を出し、前作よりは抜けの良さがあって気楽さも感じる。過渡期ではあるが意欲作な一枚だ。

死者

死者

85年発表唯一作。4曲入りのミニアルバムにリリース後のライヴ音源&デモ音源の計8曲を増補した再発盤。当時、日本インディーズシーンを牽引していたレーベルの一つ、TRANS RECORDSからのリリースというのもあり、当時のインディーズのアングラな雰囲気が感じられるポストパンクな内容。
ストパンクというよりはポジティヴパンク、ひいてはゴシックロック然としたダークな音だがそこに日本的な怨念めいた呻き声ボーカルがじっとりとべた付く、アングラさは唯一無二だろう。ジャックスの類似も指摘されるが、内省的というよりはポリティカルな緊張感が強く、演奏とともに非常に攻撃的だ。
ドライでひり付く音はThis Heat辺りのインダストリアルな響きに接近し、呪術的なドラムはライナーノーツにもあるようにCanのヤキ・リーベツァイトを思い浮かべるが、それらを凌駕して中田潤の亡霊を呼び起こすような気迫に満ちた厳格な歌声が支配する。快楽は一切ないが聞かれるべきアナーキーな一作。

YELLOW DANCER (通常盤)

YELLOW DANCER (通常盤)

15年発表4th。前作でのAOR色からさらに発展して、80年代のブラック・コンテンポラリーに接近したサウンドが全体のトーンを占める作品となった。ライトメロウというには黒っぽく、ディスコミュージックらしいダンサブルな要素の強さが目立つ。反面、セクシャルな趣はあまりなく中性的なニュアンスが。
前半のR&Bやブラコンを意識した楽曲よりかは7以降のセカンドラインや黒さを控えめに、日本的な情緒を浮き上がらせたライトメロウ調の楽曲の方が楽しく聞けた印象を感じる。というより、ブラックミュージックから滲み出るセクシャルな香りが星野源自身のキャラや歌声によって中和されてしまっている
この為、音楽本来の腰の強さが出ず、リズムやビートに粘りと重みがないのが痛し痒しといった所。反面、その軽妙さがセカンドラインの跳ねたリズムなどには躍動感を与え、小気味よさを出しているので、相性の差がはっきりと出たアルバムとなっている。そういう点ではポップスの軽さが良く出た一枚だろう。

NEW AGE STEPPERS [解説・ボーナストラック収録・国内盤] (紙ジャケット仕様) (BRC79)

NEW AGE STEPPERS [解説・ボーナストラック収録・国内盤] (紙ジャケット仕様) (BRC79)

・81年発表1st。80sニューウェーヴを代表するUKレゲエ/ダブの名作。首謀者であるエイドリアン・シャーウッドが主催するOn-uサウンドのメンバーを始め、The Slitsのアリ・アップやThe Pop Groupのメンバーといったポストパンク勢が参戦しており、既成のポップミュージックを破壊・再構築を図っている。
レゲエを基調にダブのサウンド処理に掛け合わせて、ポストパンク特有のインダストリアルな脱構築が繰り広げられ、枯れ尾花を幽霊に仕立ててみせるというのが彼らの目指したこと、なのだろう。都市化した風景に入り込む、スピリチュアルなもの、ファジーな存在を表現するように残響が鳴り渡る。
都市の民俗音楽ともいうべき、その土着的なリズムと幽玄な響きはUKのニューウェーヴミュージックの極北でもあり、最も分かり易い形でそのサウンドを提示しているようにも思える。この流れが後にワールドミュージックへと目が向けられるきっかけにもなった歴史的な重要作と位置づける一枚だろう。

無線衝突

無線衝突

・05年発表1st。当時新進気鋭のインディーズレーベルだった、デルタソニックからデビューしたポストパンクバンド。ペケペケの硬質なギターフレーズに深いベース音にダブ処理したエコーがいかにも鳴り響くのがフォロワーたるゆえんだろうか、サウンドに危うさはないが再現度はなかなかのもの。
本家が社会批判や政治的メッセージをアジテートするラディカルな反抗精神を内に秘めていたが、彼らが歌うのは男女の関係であり、ラブソングだ。ポストパンクをバンドのスタイルとして、ファッションに演奏するのが彼らの特色と言える。その試みは興味深いが反面弱点でもあるか。
本家の緊迫感や過激さがない分、ポップミュージックの範疇に収まっているので、何かしらの危うさや鋭利さを期待すると肩透かしを食らってしまう可能性は否定できない。が、ポップスを奏でるポストパンクという立ち位置が受け入れられればそれなりに楽しく聞ける作品だ。

Get Ready

Get Ready

・01年発表7th。沈黙の90年代を経て、8年ぶりの作品。新世紀に入ってもやってることはあまり変わり映えはしない、というよりは彼ら特有のメランコリーなサウンドは本作でも健在で、ディスコグラフの中でもかなりロック色の強いアルバムとなった。今まで以上にギターのディストーションが利いている。
その為か、音はかつてなくタフになっているが、従来のメランコリーが失われているわけではないので筋肉の上に乗っかる贅肉の弛みのように、かとなくルーズなサウンドになっているのが面白い。それが返って、彼らが通過していない90年代のオルタナに卑近しているのだから不思議なものである。
シンセサウンドもかつてのアシッドハウス的な趣はほとんどなく、当時流行っていたエレクトロニカ的な叙情が感じられ、その辺りも彼らのサウンドに合致した、というのも大きいだろう。8年のブランクがリフレッシュとなったのか、引き締まったサウンドが聞ける快作というべき一枚だ。

音楽鑑賞履歴(2018年4月) No.1230〜1238

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

9枚。

いろいろ書き物に集中していたので、またペースが落ちた感じですね(最近は、アウトプットする時に音楽が聴けなくなってるのでなおさら)。まあ、いたしかたない。スタイリッシュな音楽から急転して硬派な音楽に振り切る、という感じが今回の内容でしょうか。節操がないといわれればそれまでですが。
最近は90sテクノを漁るのが楽しくて、他の音楽がそこそこになってる感じですが、久々にマイブーム(これももはや死語だなあ)の波が押し寄せててまだ終わりそうにない勢いです。いや、人脈とかがまったくもって不明瞭なのが面白く感じているのですがそれはさておき。
5月もぼちぼち聞いていきたいです。

というわけで以下より感想です。


Sunken Condos

Sunken Condos

・12年発表4th。前作と比べても音の質感が非常にマイルドになった、というかアナログ録音の肌触りを感じる一枚。前作、ひいてはスティーリー・ダンの00年代諸作は一音一音の粒立ちがはっきりくっきりしすぎていて、楽曲の全体像がピンボケしてた印象があったので今作はそこがうまく捉えられている。
この為か、音自体のアタック感も和らいでいて、非常に整形されたオーガニックな雰囲気もあるか。そういう意味ではソロ1stや全盛期のスティーリー・ダンの趣も感じさせられる。というよりレコードで聞いたら、また違った味わいが出そうな抜けの良いサウンドプロダクションだと思う。
楽曲内容は良くも悪くも相変わらずで、ハードボイルドな私小説感は健在。だが、悲観的な面や回顧主義的な趣は控えめになって、ほんの少し前を向いた印象も受ける。前作まで三部作として区切りをつけた為かは定かではないが、新たしい方向に踏み出した感もある近年の快作だろう。そろそろ新作も聞きたい

Go! プリンセスプリキュアボーカルアルバム2

Go! プリンセスプリキュアボーカルアルバム2

15年発売OST。同名作品のボーカルアルバム第二弾。前作のアップテンポ一辺倒な構成に比べると、楽曲も歌も割りとバラエティに富んだ感じの構成になっていて、聞き飽きない作りになっていると思う。作中で重要な役割を果たすヴァイオリンを始め、弦楽器などクラシックで使う楽器を効果的に使用している
楽曲については質の高さに目を見張る。一方、歌唱については出演キャスト内での実力差が凸凹している印象を受けるか。曲とメロディが良い分、そこについては許容できるが返って、その中途半端なソツのなさが悪目立ちしてしまっているようなアルバムだ。内容が良いだけに惜しさを感じてしまう一枚だ。


小林泉美&Flyingmimiband/ORANGE SKY - ENDLESS SUMMER<タワーレコード限定> - TOWER RECORDS ONLINE

78年発表1st。当時若干21歳で現役大学生だった、小林泉美のキャリアスタート作。世間一般には「うる星やつら」などの80年代アニメ作品の主題歌をいくつか手掛けた人物としても名が知られているが、ここでは非常にフュージョン/ライトメロウな楽曲を演奏している。自身で作詞作曲編曲までこなしている。
いかにもアメリカ西海岸やサンバやボサ・ノヴァなどブラジリアンサウンドを取り入れたシティポップス然とした、カラフルなサウンドが非常に聴き応えがある。バンドメンバーも後にマライアを結成する清水靖晃土方隆行といった、J-フュージョンを牽引するミュージシャンが出揃い、演奏力は折り紙つきだ
内容としては、当時のレコードB面に当たる6〜10の波音に始まる西海岸的なトロピカルフュージョンが非常に聞きものだろう。海岸沿いの一日を日の出から夕暮れ、再びの夜明けを想起させられるコンセプチュアルな構成がとても巧妙だ。初手にしてはあまりにも出来すぎたライトメロウの名盤だろう


小林泉美/Sea Flight<タワーレコード限定> - TOWER RECORDS ONLINE

78年発表2nd。この名義では最終作。黒人ドラマーを迎え入れた本作、前作のトロピカルなシーサイドミュージックから一転して、ファンキーで黒っぽいアーバンサウンドを展開している。楽曲もヴォーカルよりインストパートの比重が高めで、前作の軽妙な感じと比べるとスタイリッシュな重厚感が増した造り
ただ実力者揃いのバンドだけあって、サウンドが180度変わっても、まったくアンサンブルには違和感がなく、むしろ海外バンドが演奏しているといわれても不思議ではないほどレベルの高さを見せ付けてくる。柔軟性の高さともに芯のブレなさを非常に強く感じるか。反面、前作の特色がまったく失われている
もちろん作品の出来はすこぶる高いのだが、当時の流行の音に乗っかったクロスオーバーサウンドなので、後の活躍や前作に比べるとむしろ本作の方が異色に感じられるかもしれない。が、それでもここまで高品質の物を送り出せるのは正直、感嘆する。小林泉美の演奏をじっくり聞ける点だけでも価値ある一枚

Sweet Robots Against the Machine

Sweet Robots Against the Machine


97年発表1st。テイ・トウワの別名義による第一作。果たして、本名義との差異があるのかよくは分からないが、どちらかというとこちらの名義の方がポップ寄りというかフロア寄りな印象を持つ。渋谷系の音楽をそのままサンプリングしたようなトラックメイキングが目立ち、よりドープな造りで不思議な感触
当時らしいオフビートな感覚のアーバンソウルな曲もあれば、お得意のエキゾチックミュージック然としたトラックもあるなど退屈しない構成になっているが、全体にブレイクビーツを強調した内容と言えるだろう。ちなみに二枚組でバリ島のジャングルの環境音が一時間トラックで付いてくる。
このジャングルの音が案外チル・アウトトラックとして聞けるものだから不思議ではある。しかもなぜか本編ディスク(33分ちょっと)よりも長いというもなにか偏屈さを感じなくもないが、本人名義よりも流行のサウンドと実験的なことをしていることが伺える佳作だ。わりとヒップホップ色も強め。

Incantations

Incantations

78年発表4th。前作から3年ぶりの作品。その間に精神療養などを経て、制作された作品であり初期三作に比べると多重録音から生まれ出でる、偏執的なまでの高い神秘性はやはり減退してしまっている印象を感じるが、音の緻密さでは初期作を上回るほど。サウンドも呪術的な緊張感から肩の力が抜けたものに。
しかしその力の抜け具合が良い方向に作用している。何者も寄せ付けないような聖域めいた厳格さが感じられた初期作に比べると、抜けの良い開放感があり煌びやかな音が全体を支配する。それまでのミニマルかつケルティックな旋律に華やかさが増したといえばいいだろうか。聞こえる印象は非常にポップだ。
それ故か、今作も1曲4パートに分かれる大曲志向ではあるが、パートごとにがらりと音の印象が変わるので独立した楽曲にも聞こえなくはないし、一方で組曲という印象が薄いのも確か。事実、これ以降、大曲主義が減退しポップ路線を強めていくことを考えると必然の流れか。試行錯誤も見える集大成的な一枚

British Steel (Exp)

British Steel (Exp)

80年発表6th。NWOBHMの波に乗った事でブレイクを果たした一作にして彼らの代表作のひとつ。バラード調の曲が一切なく、引き締まったスピーディかつ硬派なサウンドで突き進む、攻撃的な内容。一般にイメージされるへヴィメタのスタイルというものが本作によって、定義されたといっても過言ではない。
今聞くと、サウンドの重さはそこまでではない。だが、ツインギターから繰り出されるフレーズのキレに、どこまでもタイトでシャープなリズムを作り上げるボトムラインの武骨さが非常に金属感を帯びた、硬質なロックサウンドが彼らの魅力である事が確認できる。同時に当時流行のパンクにも呼応している。
70年代の長尺化したロックの演奏の反動からか、このアルバムでも楽曲は比較的コンパクトにまとまっており、ある種ポップソングのマナーに回帰してる部分を感じる。が、そこに甘さを入れなかったのが本作の特色であり、へヴィメタの基本となっていくのがよく分かる。その点では歴史的な名盤だろう。

Screaming for Vengeance

Screaming for Vengeance

82年発表8th。サウンドがよりソリッドかつハードに先鋭化したことで更に勢いづいた感のある一作。事実、80年代の彼らのアルバムの中では一番のチャートアクションを見せた。これぞメタルという、金属質な演奏が全編に渡って繰り広げられている。変に小賢しいことは一切していない、一本気な内容。
アルバム構成や楽曲構成そのものは6〜70年代から続くハードロックのスタイルではあるし、彼らの歴史を感じるものだがやはり甘さを感じさせない硬派な部分がサウンドを決定付けている。また英国出身バンドらしく、雄大な米国の土臭さを感じさせない工業都市の趣がその印象を強めているのは確かだ。
彼らの出身地であるバーミンガム工業都市でもある)という土地柄が影響してるのかもしれないが、ロブ・ハルフォードの金切りハイトーンVoも相俟ってメタルがメタルであるための鋼鉄感、金属感は彼らがオリジナルであることの証左のようにも感じられる。実力と結果が見事に伴った痛快な良作だ。

Painkiller

Painkiller

90年発表12th。へヴィメタの開拓者が辿り着いた境地にして、ジューダス・プリーストとしての完成形ともいうべき大傑作。自他共に「第二のデビュー作」とも言わしめるにふさわしい強力な内容となっている。ドラマーが変わり、ツーバスが導入されたことでかつてない強靭なメタルサウンドが展開される。
もともと硬質な金属サウンドだった所に、マッチョなパワーが加わったことでその暴力性がバンド史上かつてないほどに高まったと過言ではないが、一般にイメージされるへヴィメタサウンドが奇の衒いなくどストレートに演奏される痛快さはやはりとてつもないエネルギーの爆発を感じさせるだろう。
まさしく最高到達点を記録した作品であるのとは裏腹に、この後、緊張の糸が切れるかのようにロブ・ハルフォードが自身のソロ活動を巡るバンドの対立により脱退し、バンドそのものも90〜00年代を雌伏の時期として過ぎることとなる。が、いまだ影響の大きい一枚にして、メタルの代名詞ともいえる大名盤だ

【ネタバレ注意】「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」作品検証。

注:今回は「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のネタバレが含まれます。

今回は4/15(※4/27再放送)にCS放送TBSチャンネル2でTV放映される少女☆歌劇 レヴュースタァライト ―The LIVE―」#1 revivalに先駆けての検証記事です。
今回は過去三つの紹介記事とは趣を変えて、舞台版を観劇している事が前提の作品の内容へと踏み込んだ記事になりますので、そうでない方には盛大なネタバレとなります。7月にはTVシリーズも放映されますので、それまで前情報を入れておきたくない人は閲覧をお控えください。
なお当ブログではすでに紹介記事を三つほど書いておりますので、作品のアウトラインはそちらを参照すればざっくりと掴めるはず、です。
以下は該当記事のリンクです。これらは作品及び物語のネタバレは極力しておりません。
「少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The Live- #1」インプレッション - In Jazz
少女☆歌劇レヴュースタァライトQ&A〜ガイド・トゥ・スタァライト - In Jazz
「少女☆歌劇レヴュースタァライト」コミカライズ作品紹介。 - In Jazz

前置きはこんなところで、以下の「続きを読む」から本文をスタートしたいと思います。
ネタバレを気にしないという方はどうぞご自由に。4/15(と27)の放送を見た方はぜひご覧ください。

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「少女☆歌劇レヴュースタァライト」コミカライズ作品紹介。

今回は紹介記事です。
2018年夏放映予定のTVアニメシリーズ「少女☆歌劇レヴュー・スタァライト
ミュージカル×アニメの「二層展開式少女歌劇」と銘打たれた、新感覚のエンターテイメントプロジェクト作品として話題を読んでいる作品ですが、当ブログでは昨年9月の舞台版初回公演から追っている作品で過去二回ほど記事を書いています。今回はその第三弾。以下が過去の記事です。

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The Live- #1」インプレッション - In Jazz
少女☆歌劇レヴュースタァライトQ&A〜ガイド・トゥ・スタァライト - In Jazz

TVアニメも控えているので、まだまだ全容が見えない&周知されてない作品ではありますが、今月の中ごろにはいよいよ舞台版がTV放映される(CS放送TBSチャンネルにて4/15放映)事のに加えて、すでにコミカライズ作品が連載しています。
今回はその主要となる作品二本を紹介したいと思います。

ひとつは「舞台 少女☆歌劇 レヴュースタァライト―The LIVE― SHOW MUST GO ON」(月刊ブシロード連載)
もうひとつは少女☆歌劇 レヴュースタァライトオーバーチュア」(電撃G'sコミック連載)

これから触れる人にも舞台公演を見た人もおそらく楽しめる作品となっていますので、この記事が作品を触れるきっかけになってくれればいいかなと、というのが今回の趣旨です。出来れば、今度放映する舞台版を見てもらうのが一番なんですがCS放送なのでどれだけ見れる人がいるのかよく分からない部分があるので、コミカライズもありますよということをお伝えしたいというのがきっかけでもあります。
前置きはともかく、さっさと紹介に入りたいと思います。試し読みのリンクも張っておきますので気になったかは是非、ご覧いただけると嬉しいです。

「舞台 少女☆歌劇 レヴュースタァライト―The LIVE― SHOW MUST GO ON」
(漫画:綾杉つばき

以下が第1話試し読みページリンクです↓
舞台 少女☆歌劇 レヴュースタァライト ―The LIVE― SHOW MUST GO ON | 月刊ブシロード - ブシロードがおくるコミック&TCG情報誌

月刊ブシロードで連載中の舞台版コミカライズ。昨年9月と今年1月に公演された舞台版「-The LIVE-#1」で繰り広げられた物語を描いた作品。手っ取り早く、舞台版のあらすじを知りたい方にはお勧めしたい。……んですが、舞台の展開を忠実に再現しているわけではなく、この作品ならではの再構成とアレンジが若干施されているので、注意は必要。再構成とアレンジは1話時点からあります。というより冒頭シーンがいきなり異なっていたりと、舞台版を知っていると違いが楽しめたりもするんですが、それはそれとして。
舞台版を見ている人には、学校やレヴューシーンなど舞台設定が(おそらく)TVアニメの設定で描かれているので、目を通すとそこはそうなっているのか、一足早くアニメの世界が脳内構築できるかと思います。物語進行の方は比較的じっくりと描いている印象。今月(4月)発売の最新号に4話目が掲載されますが、3話の時点で物語の1/3くらいまで進行していいます。
このコミカライズ作品自体はスロースターターな向きもあって、1話だけでは正直判断がつかなかった(&再構成・アレンジがイマイチ噛み合っていないように見えた)のもあるんですが、2話、3話と話が進行するうちに再構成とアレンジの意図が物語と絡んできて、エンジンが温まってきたように思います。実際、3話は舞台版ではあまり拾えていなかった部分を上手く作品の描写に組み込んでいた箇所があって、この作品らしい魅力が出たように感じられたのも大きい。舞台だと受け止めるだけに終始した情報を、絵としてコマの構成の中に挿入できる漫画の強みが出てきているので公式が提示している細かな情報を今後まとめてくれそうなところが期待大、といった所でしょうかね。どちらかといえば学園描写より本作品の肝となるレヴューシーンの描写に力を入れている印象を受ける作品です。今月にはオリジナルである舞台版のTV放映もあるので、この作品のアドバンテージとなる魅力が出てくるとより一層楽しめるかと。
ただ作品としては舞台版の内容を知っていた方がより楽しめる作品となっているので、出来ることなら最初はオリジナルを見て欲しい気はします。今月4月のCS放送を逃しても、6月には1月の再演版千秋楽舞台を収録したBDが発売されますので、そちらを是非チェックしていただければよろしいかと。もちろんどういう雰囲気の作品かをいち早く知りたい人はこちらから見ても問題はありません。


少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア」(脚本:中村彼方、漫画:轟斗ソラ)

少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア:少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア 無料漫画詳細 - 無料コミック ComicWalker(←クリックすると該当ページに飛びます)

こちらは電撃G'sコミック連載中。電撃G'sMagazineではないので注意。有名な作品だと「姉なるもの」(飯田ぽち。作)が連載してる月刊マンガ誌です。ただ雑誌を追わずとも上記リンクから一ヶ月遅れで作品が追えますので、そちらをチェックしてもいいかと(現在2話まで掲載中)。
作品はオーバーチュア(序曲)と銘打っているだけあって、夏放映のTVアニメシリーズの前日譚となっています。この為、脚本にTVアニメでは作中の戯曲脚本&挿入歌作詞、また現在リリースされている関連曲全ての作詞を手がけている中村彼方さんがクレジットされています。本作品のメインスタッフとして重要なポジションにいる方なので、アニメ本編とも結びつきが強い話が展開されているはずです。とはいえ、こちらは舞台版コミカライズとは違い、一話完結スタイルで各話ごと別の登場キャラ(たち)にスポットライトが当たる構成になっています。なので、舞台版やアニメ本編の物語の全容はこの作品では展開されません。あくまで「序曲」、本編の物語の始まる以前の段階を描いた「エピソード0」的な作品なのです。
作品を初めて触れる人はこちらから読んでいくのもありでしょう。舞台版コミカライズは作品に流れる物語を描いている一方で、キャラクター描写についてはそこまで深く描いていないので、キャラクターを知りたい場合はこちらをお勧めしたいですね。そういう意味では、アニメで言うところの各キャラの「メイン回」学園生活の描写をこの作品で補っている印象も強いです。というより、舞台版を見ていると描かれるだろう物語から察するに、キャラクター描写に多くの時間を割けなさそうな気もするので本編へと繋がる物語を描いている、という感じもしています。
この為、初めて触れる人にはキャラクター紹介作品になっていますが、舞台版を見ている人には細かな描写が作品を読み解く鍵にもなっているので見逃せないところ。というより中村彼方さんの手掛けているものについては、重要なフレーズだったりキーワード(&描写)がさりげなく挿入されている事が多く、現状、作品の情報が少ない中で貴重な情報源となってますのでファンの人も必見です。
本作品もそういう点では深読みできる描写が織り込まれているのもあってか、そういう細やかな部分も丁寧に描写できる作画担当者を連れてきている印象です。舞台版コミカライズはその舞台版のドラスティックな展開に対応できるタッチの作画なので、作品の差別化は出来ていると思います。説明したように作品の性質が違うのもありますし、「オーバーチュア」の方は描写そのものがキャラクターのバックホーンとなっている面もあるので適材適所に人材を当てている漢字でしょうか。
舞台版コミカライズ、前日譚であるこの作品も放映前のメディアミックス展開なので、おそらくどちらの作品もアニメ本編が始まる直前で終わる短期連載作品だろうと思います。ですから追うなら今のうち、でしょう。特に「オーバーチュア」の方は最新3話の内容からもあと数回だな、という予測が個人的には立ったかなと。まあ、連載が終わればアニメの方が始まるでしょうから、楽しみではあるのですが。


《終わりに》
以上、コミカライズ作品紹介でした。CS放送とはいえ舞台版のTV放映も決まり、筆者としてはじわじわ盛り上がってきてる感じですがまだまだこれからが本番なので、夏のアニメ本編に先駆けてもう少し記事を書きたいですね。作品の検証とかもそろそろしたいところですし、楽曲の歌詞で記事も書きたいところです。今年一年は「少女☆歌劇レヴュー・スタァライト」に耽溺しそうなので、これから楽しみでもあり怖くもありです。アニメが終わった?後も10月に新作公演も控えてますし、まず6月には単独ライブも控えてますのでチケットが当選すれば、そこを楽しみにしたいと思います。
というところで、今回は以上です。
早い段階で次の記事を出せればいいなと思いますので、よろしくお願いします。

音楽鑑賞履歴(2018年3月) No.1221〜1229

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

9枚。
今回はThe Vines特集他、といった感じでしょうかね。久々にロックを聴いたという感じでしたが、いかんせん枚数が少なくなってしまったのが致し方なく。世間的にはいよいよ新年度なわけですが、すでに気候は夏らしいというかだいぶ暖かくなりましたね。半袖に腕を通す日も近そうです。
なんだか気づけば時間が過ぎている、なんてことが多くなってきてますがマイペースで聞いていければなあと思います。
というわけで以下より感想です。

Highly Evolved

Highly Evolved

02年発表1st。オーストラリア出身のバンド。ニルヴァーナ×ビートルズサウンドの融合という触れ込みで話題になった。確かにグランジっぽい、ラフでノイジーなギターサウンドビートルズ的なポップで甘いメロディーが鳴り響く、中毒的なサウンドが魅力的。が、バンドサウンド自体はポップ指向だと思う。
というのもグランジ×マージービート的なサウンドは彼らの専売特許ではないし、ヘヴィさとダークさでいえば、アリス・イン・チェインズが同方向で色濃い音を提示している以上、その独自性はわりと希薄ではあるか。コード進行でも上記バンドのアクが強いので、わりと素直なものに聞こえてしまう。
基本的にグランジよりというよりはポップさがこのバンドの特色でもあり、ガレージ色の強い演奏は同郷のAC/DCダットサンズを思い浮かべる一方で、メロディ自体はビートルズという以上にブリット・ポップの影響がかなり濃いように思える。シンセの音などを聞くとやはりそれらしく聞こえる。
こうやって書いていくと、時代はより後になるが日本において神聖かまってちゃんが90年代のJ-POPとオルタナを掛け合わせたサウンドを提示しているのと同様、ブリットポップグランジ(ガレージロック)を組み合わせた同傾向の音であるように思える。そういう点では組み合わせの妙味が面白いアルバムだ

Winning Days

Winning Days

04年発表2nd。グランジ色が薄まって、ガレージっぽさとポップ色が強まった作品。というよりグランジとガレージロックの音楽性をそのままにビートルズ直系のポップソングを奏でるとこうなるのか、と。単なるパワーポップとは言い難い、奇妙なローファイ感とルーズさにこのバンドのポップネスがある。
個人的には前作にあった、ぎこちなさのカドが取れてバンドサウンドとしては完成度を高めてきたように思う。なんというか初期衝動ありきで音楽活動してない感覚が非常に強く、破滅的ではあると同時に強かさも感じられるか。病的ではあるけど、正気は失っていないというアンバランスさ。
静と動のコントラストのメリハリや、ガレージロック・リバイバルの流れを汲む、ハードロック的展開やそれこそマージービート調のギターポップとサイケ感などが絡まり合って、独自の世界を展開できているのは早くも貫禄すら感じられる。前作の成功に驕らず、着実に進歩を遂げた一枚か。

Melodia

Melodia

08年発表4th。全14曲32分半という今時珍しいコンパクトな内容だが、中身は凝縮されたように濃い。演奏はグランジというよりパワーポップ色が強くなった感があり、ポップ度もかなり高くなった。その一方で病んだ趣が隠し味に利いて、サイケなフレーバーがそここに振り撒かれている感覚を味わう。
フロントマンのクレイグ・ニコルズがアスペルガー症候群を患っている事が関係しているのかはいざ知らず、その病んだ感覚がバンドの骨子であり、特性であるために平常を保っているようで、真性のサイケさが滲み出ているのは興味深くはあるか。そういう点でも危うさもあり、過去と未来が表裏にくっ付く。 このバンドの音楽が6〜70年代のブリティッシュミュージックとグランジブリットポップを通過した08年現在の新しさが介在しており、不思議な接続感がある。古さと新しさが同列しているというか。温故知新とも違う、フラットな扱い方が非常に独特。それゆえに惹きつける魔力を感じる強力盤だろう。

ヴィジョン・ヴァリィ

ヴィジョン・ヴァリィ

06年発表3rd。こちらは全13曲31分半。とはいえおそらく彼らのディスコグラフ史上、もっともメロウかつ穏やかな作品に聞こえた。もちろん激しいところは激しいのだが、全体のトーンは非常に叙情的でまろやかな印象を受けるというより、彼らの引き出しのひとつである、ブリティッシュポップス色が濃厚だ
6〜70年代辺りの英国音楽シーンを髣髴させるような叙情的でウェットなメロディが鳴り響き、トラッドな趣を感じさせるミディアムナンバーのメロディが耳に残る。前作までの牙の鋭さが取れ、全体のトーンが妙に柔らかさを覚える。病んだ雰囲気が弛緩しているというか、マイルドなメロディが支配している
過去二作を考えると、バンドの勢いが減退しているようにも感じられるが、少しスピードを落として、音楽性を掘り下げた、という風に聞こえるか。熟成という言葉が合ってるかは分からないが彼らなりに自身の音楽に深みを持たせようとしたそんな一枚に聞こえる。刺激は今までより弱いが味わい深い作品だ。

Future Primitive

Future Primitive

11年発表5th。前作まで2年おきのリリースだったが、グレイグの体調不良が重なって3年ぶりの新作となった作品。バンド史上もっともサイケデリックに寄った内容となっていて、アルバムジャケットでも表現されているような、極彩色の毒気が全体を支配する。一方、時流を見たエレクトロサウンドも顔を出す
きわめてフラットに新旧の音楽スタイルが鳴り響くのはこのバンドの特徴であるが、その振り幅がいつになく大きく感じられる。同時にそれらが違和感なく流れていくのは、グレイグ・ニコルズの独特なポップセンスゆえだろう。アメリカでもなくイギリスでもない、オーストラリアだからこそ成立する音か。
ポップサイドは非常に英国的だが、ガレージやサイケデリックサイドは非常に米国的。この二極が絶妙にブレンドされてバンドサウンドが生まれていることを考えても、オーストラリアという地でしか生まれ得なかったバンドにも思える。本作も33分半という短い内容ながら凝縮された魅力の詰まった良盤だろう

未知への飛翔

未知への飛翔

78年録音盤。北欧のジャズギタリスト、テリエ・リピダルウェザー・リポートの初期メンバー、ミロスラフ・ヴィトウスキース・ジャレットの共演などで知られるジャック・ディジョネットのトリオ作。ECMレーベル独特の緊張感と静謐感が空間全体に広がる、アンビエントなヨーロピアンジャズ。
テーマや明確なメロディがあるわけでもなく、フリージャズのようにプレイヤーのそれぞれの呼吸に合わせて、空間に演奏が鳴り響く。イメージとしては題名の付けられた抽象画が描かれていく様子を眺めているような感覚。なものだから曲展開に起伏があるわけでもなく始まりも終わりも曖昧だ。
そういう点では観念的、思索的な小難しい音楽にも思えるかもしれないが、前衛性は皆無で楽曲のテクスチャー自体は後のアブストラクトなテクノやドラムンベースアンビエントテクノにも通じるグルーヴが潜んでいるのが興味深いところ。じっくりと聞き込めば深く沈めるエクスペリメンタルジャズの良盤だ

THE BEATLES

THE BEATLES

・68年発表10th。唯一の2枚組。アップルレコードから出た最初の作品であり8トラックレコーダーを使用しだした作品でもある。久々に聞いて感じたのは、もはやビートルズという「バンド」がビートルズという「記号」でしかなくなった、という点だろうか。「記号」の元に各人の個性が溶け合ってしまう。
細野晴臣YMOは「匿名性」で始まったバンドにも拘らず、次第に「記名性」を帯びていったという発言をしていたが、この当時のビートルズもそれに近い感覚があったのだろうと勝手に推測する。やってることは各人てんでバラバラ、4人そろって演奏してる曲も少ない。だがこれは「ビートルズ」のアルバムだ
アルバムとしてのまとまりはないが、ここまで好き勝手やってしまっても「ビートルズ」の曲として認識されてしまうジレンマ、みたいのは当の本人たちが感じていたことなのかもしれない。実際、ジョンとポールは自らの音楽ルーツや影響を振り返る曲が多いように思うし、ジョージは創作意欲に溢れている
リンゴも自作曲を提供していることからも、各人の個性は滲み出している。同時にそれらを「ビートルズ」という「記号」は内に取り込んでしまう。4人の個性をバンドの「個性」にしてしまえる程には「記号」は「肥大化」、一人歩きしてしまっているということを自覚してしまった作品なのだろうと。
こうなってしまうとメンバーが「自己主張」したくなるのも自明の理で、本作がバンド崩壊の始まりとか言われてしまうのだが、むしろメンバーが「記号」を制御出来なくなった、という方が正しいように思う。それ故にバンドに残った余白の「可能性」が見え隠れする所に面白さと魅力が詰まった作品だと思う

C2(初回限定盤)

C2(初回限定盤)

15年発表6th。インディーズから数えてアルバムデビュー10周年という節目の一枚で、インスト盤とメジャー1st「C」のリマスター盤を付属したエクストリーム仕様三枚組。次の10年へ向けての意気込みを感じる作りだが、今までに比べると迫力に欠ける出来なのは否めないか。
というより、シンセを使わずにギターサウンドで突き詰めていったバンドサウンドが飽和点まで来てしまった、という方が正しいかもしれない。エクストリームシリーズと銘打ってきたシングル曲のキレが良かった分、収録曲の新鮮さがあまりなかったように思う。もちろん彼らの王道サウンドが聞けるのは確か
ただ前作であそこまで拡張してしまったサウンドの先のアプローチが小さく収まってしまったのと、シングルでも顔を見せていた大人の落ち着きが結果として、盤全体の勢いの足りなさに繋がってしまっていると思う。インスト盤を聞くとある程度その不満も解消はするがフレッシュさより味わい深さが先行する
「C」のリマスターを聞いていても、かつてあった若々しさは10年の時を経て、失われた分、その補完をどうするのかという問題点が露わになった一枚だと思う。彼らのこだわってきたギターサウンドがもはや足枷になっている点も含めて、悪くはないが初めて「停滞」した悩ましい作品だろう。

Morph the Cat

Morph the Cat

・06年発表3rd。前作から実に13年ぶりのアルバム。その間、スティーリー・ダンを再始動させたりもしていたが、それも一段落ついた事でソロに向かったという印象。9.11や母親の死に影響された、「老い」がテーマになってる作品で、前作前々作とで三部作らしい、とも。
サウンドの方は再始動スティーリー・ダンの方向よろしく、枯れた味わいのタイトなファンクビートに乗せたNYサウンドという印象。都会の狭間で繰り広げられる、ハードボイルドな私小説といった趣がいっそう強く、ポップというよりは辛口で乾いたメロディが独特なグルーヴを生み出す。
金太郎飴といえばそれまでだが、その枯れゆく趣に達観と色褪せたノスタルジーに独り男が静かに酔うイメージが全体の偏屈さを強めているが、その無粋さにほっと安心してしまう一面も憎めない作品だろう。女子供を寄せ付けない、ダンディズムが広がるシティ・ミュージックの滋味盤だ。