In Jazz(はてなダイアリー版跡地&元『My Favorite Things』)

ジャンル不問で好きなものを最小単位で語るブログ

音楽鑑賞履歴(2017年1月)

月一恒例の音楽鑑賞履歴。音楽メーターの感想を記事にしてまとめてます。
29枚と新年の幕開けとしては幸先の良いスタート。
なのですが、新規購入分は指で数えるくらいしか聞いてません。
聞きたい傾向がジャズに偏ったせいもあり、聞く気になれなかったというのもあるのですが。
というわけで、今回はジャズとUKロックがメインとなっています。
2月はもうちょっと傾向を変えていきたいなあと思うなどしてます。

では、以下から感想です。

1月の音楽メーター
聴いた音楽の枚数:29枚
聴いた時間:203分

Round About MidnightRound About Midnight
・55,56年録音盤。ハードバップを確立させたと言われる作品。マイルスの特徴的なミュートトランペットが鳴り響くのも印象に深い。演奏メンバーはジャズファンなら知らない人がいないほど有名どころの揃った布陣になっており、その中には若き日のジョン・コルトレーンもいた事からも歴史的な一枚だ
もちろんマイルスとコルトレーンばかりが目立つのではなく、チェンバースもいればレッド・ガーランドにフィリー・ジョーもいるから、悪くなるはずがなく名手たちの競演が聞ける。ファストもミドルもスローも軽妙にスウィングし、これぞコンボジャズという演奏が聴ける。ただひたすらにクールな音。
全体にはミドルテンポがメインでじっくり曲とアドリブを聞かせる曲が多い中、マイルスとコルトレーンがまさしく絡み合うようにブロウする2や熱っぽさを感じる9、7が映えるだろうか。刀で切り込むように存在感を放つマイルスのプレイがやはり鮮烈でどの曲においても強力だ。未だなお色褪せない名作。
聴いた日:01月01日 アーティスト:Miles Davis
Hank Mobley QuintetHank Mobley Quintet
・57年録音盤。面子がほぼジャズメッセンジャーズという布陣の作品。全曲モブレーのオリジナルとあって、熱気が渦巻く、というよりはリラックスした雰囲気で大らかにブロウするハードバップといった印象。タグ・ワトキンスのベースランニングに導かれて、カラッとしたプレイがスウィングする。
響いてくる音から感じられるイメージはとても開放感のあるものだ。変に密室的な雰囲気はなく、野外や街中でサックスの音が伸びやかに鳴り響いてくるような騒がしくも朗らかな陽気さを感じられるのはモブレーならではのものだろう。目を引く派手さはないが、じっくりと楽しめる一枚。
聴いた日:01月02日 アーティスト:Hank Mobley
Scene ChangesScene Changes
・58年録音盤。ジャズ史上に燦然と輝くジャズピアノの名作にしてバド・パウエルの代表作の一つ。彼の代名詞といっていい1の鮮烈な印象はいまだ多くの者を惹きつける引力を持っているが以降の曲のどこまでもダークでブルージーなメロディをイメージの赴くままに流麗に奏でる様には思わず溜め息が出る
代表曲の1にしても氷山の一角に過ぎず、時に縦横無尽に、時にリリカルに美しく、奏でられるピアノの旋律一つ一つが天才の煌めきのようにすら感じられる。演奏に合わせて、ふと聞こえてくるバドの鼻歌や唸り声などは非常に興が乗っている雰囲気も伺え、実に楽しげだ。
ライナーノーツによるとこの時期のバドは好不調の波が激しく、この盤の録音の後、翌59年にはパリへと渡仏、64年に帰国した後、亡くなるまで変わらなかったようだが、そういう点でも絶好調の姿を記録した貴重な一枚でもある。余談だが中学の頃、聞いてジャズにのめり込んだ思い出深い作品でもある。
聴いた日:01月03日 アーティスト:Bud Powell
Cool StruttinCool Struttin
・58年録音盤。ブルーノートの代表的なジャケットをひとつ選べと言われると必ず選ばれるだろう作品。ただジャケットのキャッチーなスタイリッシュさとは裏腹に内容は比較的玄人好みの音だと思う。なお日本ではとても人気の高い盤であるが、アメリカ本国ではさして評価が高いわけではない。
ミッドなゆったりとしたテンポで滋味溢れる味わい深い演奏でぐっと来るものはあるだが、音の質感は非常にカラッとしてあっさりとしたテイスト。ジャズの演奏としては濃淡の淡さを押し出したものなので、熱気というよりはクールな印象が強く、洒脱さとアーバンな趣が感じられる。
淡麗な味口といえばいいだろうか。絵にしてみれば、山水画のような侘びた味わい。非常にクセがない、というよりこのクセのなさが特徴なのでジャズの色合いを楽しみたい場合は他の盤を推したい。聞き慣れるとこのスムースな演奏も非常に楽しい。旨味を感じるには時間を要する一枚だろう。
聴いた日:01月04日 アーティスト:Sonny Clark
Introducing Johnny GriffinIntroducing Johnny Griffin
・56年録音盤。シカゴ出身のサックス奏者。本作がBNデビュー盤。冒頭の曲から、パワフルで野太いサックスの音が炸裂する強力な一枚。とにかく力いっぱいにブロウされるサックスの迫力に圧倒され、一気に引き込まれてしまう。その豪快なまでの存在感は強烈な印象を与えてくれる。
豪快といっても、ミディアムな曲でも情感たっぷりに吹いていて、とにかくそのサックスから響いてくる豊かな音が非常に心地良い。もちろん脇を固めるマックス・ローチウィントン・ケリーも好演。テナーサックスの魅力を知りたいのであれば格好の一枚。なによりメンバーの楽しそうな雰囲気が伝ってくる
聴いた日:01月05日 アーティスト:Johnny Griffin
Into SomethinInto Somethin
・64年録音盤。オルガンのコルトレーンと呼ばれたジャズオルガン奏者のアルバム。ジャズオルガンというとジミー・スミスに代表されるようなファンキーでホットなものが想像されるが、この盤は直感型というよりは思索型のクールなサウンドが鳴り響く。流麗でスモーキーなオルガンの音が気持ち良い。
アドリヴよりはアンサンブル重視がされており、グラント・グリーンやサム・リヴァース、エルヴィン・ジョーンズといった60年代のジャズ新世代の面々と共に新風を吹き込んでいる。オルガンの醸し出すマイルドさとクールな演奏が興味深い一枚。ジャズオルガンの暑苦しさが苦手な人にもオススメかと。
聴いた日:01月06日 アーティスト:Larry Young
Green StreetGreen Street
・61年録音盤。ギター、ベース、ドラムのトリオというジャズにしては少し珍しい編成で録音された一枚(ギタートリオだとベースでなくオルガンが入ることが多い)。ただこの編成によって、グラント・グリーンの弾くシングルトーンの響きが際立って聞こえてくるのがこの盤の最大の特徴だろう。
ギターの単音が豊かに響き、演奏が深く沈んでいくのがとても味わい深い。けしてスピーディな演奏ではないが悠然と流れてくる旋律の芳醇な雰囲気は替え難いものがある。ジャズギタリストならではのジャズの魅力がたっぷりと詰まった良盤。なにか一杯飲みながら、ゆっくりと落ち着きながら聞きたい。
聴いた日:01月07日 アーティスト:Grant Green
Never Too MuchNever Too Much
81年発表1st。スタジオミュージシャンと名を馳せたヴォーカリストのデビュー盤。全曲に渡り、フュージョン界の名ベーシストであるマーカス・ミラーが参加。この時代ならではのエレガントなアーバンソウルが聴ける。ブラックコンテンポラリー前夜のソウル/R&Bの瑞々しくもフレッシュな良作。
全体にフュージョンライクなポップな演奏なので黒っぽさはあまりなく、同時代のワム!やらマイケル・ジャクソン辺りのダンサブルな要素を兼ね備えたポップミュージックとして聞ける。メロウなバラードも丁寧に歌い上げる実力の高さも流石といった所。全7曲ながらも聴き応えのある一枚だ。
聴いた日:01月09日 アーティスト:Luther Vandross
Volume 2Volume 2
・69年発表2nd。B&Voのケヴィン・エアーズが脱退し、代わりにヒュー・ホッパーが加入。黄金期のコアになるメンバーが出揃った作品。全17曲ではあるが1分未満から2分強(最短は9秒)の曲が大半を占めており、収録時間は33分半弱。当時のレコードのA面B面で二つの組曲構成になっている
それぞれ、1〜10と11〜17が組曲形式になっている。バンドの代名詞となるファズオルガンの音が縦横無尽に鳴り響き、サイケデリックから一歩踏み出して、ミステリアスかつジャジーな前衛性を帯びた、カンタベリーとしか言いようのない複雑怪奇な演奏が疾走感とともに一気に駆け抜けていく。
以降の作品に見られるような長尺曲の姿がなく、組曲形式で構成されている為か、ロック的な勢いとポップな感覚があまり損なわれてなく、サイケとジャズがロックと完全に混ざり切る直前の半熟なサウンドが非常に心地いい。独特なカンタベリーサウンドの魅力が強烈に伝わる一作。3rdより明快なのも良い
聴いた日:01月10日 アーティスト:Soft Machine
FourthFourth
・71年発表4th。大作だった前作から一転してコンパクトな内容になった一枚。とはいえ、ロバート・ワイアットのヴォーカル曲がなくなり、全曲インストになった事でよりジャズ色が濃くなった。一方では前衛性が一歩後退し、サイケを抜け出して洗練の兆しが垣間見えるのも、変遷として興味深い
ヒッピーカルチャーから発展したサイケデリックな趣は本盤になるとかなり払拭されており、ギターレスのジャズコンボ的なメンバー構成でロックを奏でるという、バンドの特異さも相俟って、シーンのポジショニングを確固たるものにしたといっても過言ではない。ジャズでありロックでもある、不思議な音楽。
なお本作でロバート・ワイアットが脱退。バンドはより硬質なジャズ色を強めていくが、この盤はそういった分岐点の作品でもある。内容からすれば、すでに舵を切ってはいるのだが、それでもわずかに残る猥雑さに人懐っこさと温もりを感じてしまう。過渡期の作品にして新旧の音楽性が入り混じる一作だ。
聴いた日:01月11日 アーティスト:Soft Machine
55
・72年発表5th。メンバー構成的にやや流動的な作品ではあるが、サイケの享楽感が完全に払拭されて、ひたすらにクールなジャズロックが展開される。マイク・ラトリッジが得意としていたファズオルガンの比重が少なくなり、エレピを導入しだしたのも、そういったサウンドの変化に繋がっている。
エレピのクールな感触が(カンタベリー)バンド特有のミステリアスさにシリアスな趣を加えていて、非常に硬質な緊張感を伴った音になったのとドラム(本作では前半をフィル・ハワード、後半がのちに正式加入するジョン・マーシャル)が交代した事でリズムがよりロックに傾き、音はクロスオーバー化した
72年といえばフュージョン前夜、クロスオーバーの風が吹き荒れている時期であるのでこの変化は当然といえば当然だが、バンド初期の音は既に影形も無くなってしまっている。なおエルトン・ディーンも本作を最後に脱退。元よりメンバーの交代劇は激しいが以降もそれは続く事になる。存在感は薄いが佳作
聴いた日:01月11日 アーティスト:ソフト・マシーン
SixSix
・73年発表6th。後期サウンドの中心人物で元ニュークリアスのカール・ジェンキンスが加入した一枚。1〜11までが72年のライヴ音源(新曲)とスタジオ録音の新曲(12以降)という変則的な構成。良くも悪くもカール・ジェンキンスは存在感を知らしめ、以降の作品のイニシアチヴを強めていく。
前作までは非常にクロスオーバー的な硬質な音だったのが、本作では一転して、ジェンキンズの短いリフを繰り返して、独特の浮遊感を音で敷き詰めていくミニマルな演奏が主体となっており、スピリチュアルかつコズミックな響きにバンド独特の翳りが差し込むといったサウンドに仕上がっている。
そういう点では本盤辺りが非常にプログレらしくあった時期ともいえるが、アプローチがスピリチュアルな陶酔感を押し出したものである為、エクスペリメンタルな電子音楽の世界に卑近しており、この盤のアブストラクトな印象を決定付けている。特に後半のスタジオ録音でその様相は一層強まっている。
以上のような点から、バンドは一大転機を迎えた作品なのであるが一方で新たに取り入れた要素によって、方向性が定まらない内容になってしまった部分も否めない。らしさはあるのだが、決定打に欠ける。のちのテクノ的なアプローチは興味深いのだがジャズロックの作品としては疑問符がつく惜しい一作だ。
なお、この盤を最後にヒュー・ホッパーが脱退。オリジナルメンバーはマイク・ラトリッジのみに。そのラトリッジもジェンキンスの加入により存在感を急速に失っていく事になる。この盤もあの独特のファズオルガンの音があまり聞こえてこない事からもメンバー間の立ち位置が窺えてしまう作品でもある
聴いた日:01月12日 アーティスト:Soft Machine
SevenSeven
・73年発表7th。前作からのミニマルなフレーズを取り入れながら、より洗練されたフュージョンサウンドを標榜した作品。本作からシンセサイザーが導入され、音の質感はよりスペーシーな趣へ。元々、陰鬱さが特徴としてあるバンドなのでシンセによる空間の広がり方は宇宙的な印象を強く持つ。
とはいえ、本作はマイク・ラトリッジが最後と言わんばかりにファズオルガンを鳴り響かせ、気を吐いている。ジェンキンズの抽象的かつ浮遊感のあるプレイと好対照でいいアクセントになっていると思うが、バンドの主体がすでに逆転してしまってるのはやはり寂しくはある。
初期はあれほどにまでユーモラスでハッピーなサイケサウンドを出していたバンドが今作に至るとシャープでタイトなリズムとSFチックな浮遊感を際立たせながら、かなり硬質なフュージョンになっているのはメンバー変遷の激しさによる、音楽性の変遷も物語っているように思う。拘らずに聞けば良作かと。
聴いた日:01月12日 アーティスト:Soft Machine
BundlesBundles
・75年発表8th。レーベルを移籍し、流浪のギタリスト、アラン・ホールズワースを加えての一作。バンド初期以来のギターの加入によって、一気にロック色が高まったと同時に前作までのスペーシーな趣は一掃され、鬱蒼とした緑に覆われる英国の田園風景が広がるジャズロックになった。
とにもかくにも本作限りの参加となったホールズワースのギターの存在感が強く、彼のセッションワークスの代表作ともされるプレイがここでは聞ける反面、全盛期から今作に至るまで管楽器をメインにしていたバンドの面影はもはや失われてしまっている。そういう点では劇薬を投下してるとも言える。
バンド構成がロックバンド的になったことで、かっちりとした曲構成に表情が豊かになった向きはもちろんあるのだが、カンタベリーロック独特の質感もやはりこの盤では希薄となっており、テクニカルな英国ジャズロックという印象の方が強く感じられてしまう。もちろんそういう面での完成度は非常に高い。
これをソフト・マシーンのアルバムだと考えるとかなりイレギュラーな作品だと思う。出来が抜きん出ているために本作を最高傑作と見るむきもあるが、バンドの特徴を考えてしまうと、どうしても「らしくない」作品という結論に行き着いてしまう。そういう点ではなかなか評価の難しい作品だ。
そして、このアルバムを最後にオリジナルメンバー最後の一人、マイク・ラトリッジも脱退する。こうして見ていくと図らずも「終わりの始まり」を告げる作品のようにも受け取れる。そんなアルバムのタイトルが「収束」と付いているのはなんとも皮肉ではあると思う。バンド末期を告げる傑作。
聴いた日:01月12日 アーティスト:Soft Machine
SoftsSofts
・76年発表9th。ダリル・ウェイズ・ウルフなどで活躍したギタリスト、ジョン・エサリッジを迎えた一作。ホールズワースとは異なるタイプでどちらかといえばアル・ディ・メオラのような高速フルピッキングで掻き鳴らす早弾きを繰り出す。この為、さらにテクニカルなハードフュージョンに傾いた音に
音の質感も、前作の良くも悪くも田舎臭い雰囲気から、都会的な硬質な雰囲気に。音の情緒もへったくれもなく、ひたすらに技巧的な趣はかとなくアメリカンな感じも。とはいえ、メンバーにアメリカ人はいないので機能重視な合理主義な部分がそういった印象を与えているだけかも知れないが。
なお本作はジェンキンスとは別にホーン奏者のアラン・ウェイクマン(あのリック・ウェイクマンの従兄弟)が参加しており、彼のサックスがかとなく黒っぽいファンキーさを補助しているのも、そういった印象の要因かもしれない。どちらにせよ英国らしい雰囲気すらあまり感じられないのが特徴ではある。
無論、それが完全に失われているわけではないので、風味は残っているのだが、同時代のアメリカでのテクニカルフュージョンとの差異はあまりない。聞き応えはあるがインパクトがあるかといわれると正直、疑問な所。出来は悪くないが方向性を失ってしまって、特色が見出しづらい一枚か。
ソフト・マシーンと冠したバンドの作品からすれば、あまり芳しい評価ではないが、単純にアルバムの出来は良作だろう。単一のバンド名を掲げながら、内情はもはや別のバンドである、というのはこのバンドならではの特色ではあるが、それが弱みに出てしまったのが本作と言えるだろう。
聴いた日:01月13日 アーティスト:Soft Machine
Alive & Well Recorded in ParisAlive & Well Recorded in Paris
・78年発表ライヴ盤(10th?)。77年に行われたパリでのライヴ音源を元にスタジオでミックスと一部オーバーダヴ録音した作品。一応全曲新録曲なので、スタジオ録音盤と同格に扱ってもいいかもしれない。なお10年リマスター盤で同じライヴのマテリアルを増補した二枚組となっている。
さて内容としては前作のスタジオ盤にいたベースとサックスがそれぞれ脱退して、新たなベースとヴァイオリンが入った構成になったのは新基軸といえるが基本的に路線は前作を踏襲したテクニカルなフュージョン。ライヴらしい熱気を感じさせ、主要メンバーの呼吸が小慣れた滑り出しのいい演奏が聴ける。
とはいえ、ここで聞けるのはアメリカのシーンに接近したフュージョンサウンドで同時期のグループの影がちらつく。アルバムの構成などは従来の趣を意識したもののように思えるが、繰り広げられる音との親和性は正直、ちぐはぐな印象が拭えないか。要所要所で光るプレイはあるが細切れな印象。
この盤で一番インパクトが強いのが10。しかしこの曲はシンセサイザーのシーケンスを利用したミュンヘンディスコの影響の強いテクノサウンドでもはやジャズロックフュージョンですらない。ジェンキンスの後年のキャリアを考えれば、ある程度納得の路線ではあるがバンドの路線からはイレギュラーだ。
裏を返せば、超絶技巧のフュージョンをいくら鳴り響かせようとも、一発のテクノでそれが吹き飛んでしまう光景がこの盤には現れている。そういう見方をすれば、この盤には「時代の終焉」がまざまざと広がっているのだ。ジャズロックひいてはプログレの斜陽を捉えた稀有な作品とも言えるだろう。
増補された内容については手を加えられた本編よりライヴの生々しさが出ているように感じられ、興味深くはある。もちろん同時代のバンドとして、高水準の演奏で聴き応えはあるがバンドの記名性を考えてしまうと、限りなく寂しさとその希薄さを感じてしまう一枚。聞く分には十分楽しめる良作だと思う。
聴いた日:01月15日 アーティスト:Soft Machine
Land of CockayneLand of Cockayne
・81年発表10th。ジェンキンズとジョン・マーシャル以外、メンバーが総取っ替えとなり、バンドの死に水を取った作品。ブックレットにはホールズワースがリードギターと明記されているが、彼が参加しているのは9のみ。内容もほぼジェンキンズのソロプロジェクト的なものとなっている。
とはいえ、当時の流行に対応した音にはなっており、いわゆるライトメロウなフュージョンで、バンド特有の複雑怪奇さやミステリアスな印象はどこにもない。シンセサイザーの音がジョー・ザウィヌルっぽくもあるが、ストリングスやシーケンサーを使ったアプローチなどは独特なものを感じる。
ジャケットのイメージも相俟ってかなり抜けのいい音ではあるのだが、陽気さや爽快感があるというよりは、透明感や荘厳さがかとなく押し出された音で、そこにジェンキンズの持つ浮遊感が重なっているように感じる。そういう点では空間的な広がりを持つサウンドでもあるだろう。
以上のような点からもわかるように、ソフト・マシーンというバンドそのものは形骸化し、死に水を取ったジェンキンズの音楽性が花開いた形になっており、「終わりと始まり」が記録されているのは興味深いところ。バンド末期のマンネリ感が強かったテクニカル路線より内容が充実した一枚だ。
なおカール・ジェンキンスはこの後、80年代は広告音楽で活躍し、この盤からおよそ15年余り後、ニューエイジミュージックユニット、アディエマスのコンポーザーとして商業的成功を得ることになる。本作はそういった彼の音楽性の萌芽が見える作品でもある。多角的に再評価されるべき一枚だと思う。
聴いた日:01月16日 アーティスト:Soft Machine
Louder Than Bombs (Remastered)Louder Than Bombs (Remastered)
・87年発表編集盤。同日にリリースされた「The World Won't Listen」とは別にアメリカ市場向けに編集された作品。この盤ならではのバージョン違いなどの細かい違いはあるが、大まかな所は被っているので注意。こちらも当時を網羅したものではある。
が、「The World Won't Listen」と比べると、収録構成のツメがやや甘く、新旧の楽曲がごっちゃになっているために編集盤としては弱く、インパクトは薄い。単に曲を無配慮に配置しているだけなので編集盤ならではの魅力に欠ける。コレクターズアイテムという評価が妥当か。
聴いた日:01月17日 アーティスト:Smiths
Rank (Remastered)Rank (Remastered)
・88年発表ライヴ盤。最後の公式音源。86年ごろのライヴが収録されている。スタジオアルバムで聞けるセンシティヴな痛切さはあまり感じられず、反面、肉感的なマッシヴさや強靭さが出ており、その荒々しさには少々面を食らう。彼らもまたパンクの申し子であることを考えれば、この質感も納得はする
ただ荒々しさがある反面、バンドの状態もなんとなしに浮き彫りになっていて、ヤケクソ感が漂っているのも拭いきれないか。モリッシーがコブシを上げていきり立った歌唱をしているのもどことなく失われていく「若さ」への焦燥感があったのかもしれない。「青春」が燃え尽きる最後の一瞬を捉えた作品。
聴いた日:01月18日 アーティスト:Smiths
Reggatta De Blanc (Dig)Reggatta De Blanc (Dig)
・79年発表2nd。デビューからさらに飛躍した一枚。この盤辺りから最終作まで続く、気だるくブルージーかつジャジーなニュアンスに前作からのレゲエやバンドの根底に流れるスノッブなインテリジェンスによるクールネスがシャープに響いてくる。随所にペダンチックな趣が感じられる。
そういう点ではパンクムーブメントに冷や水ぶっ掛けているようなシニカルさはやはり独特なものを感じるし、そこが良くも悪くも特色なのだろう。パンクの波に乗っかって似非パンクでアンチパンクをやる姿勢はポストパンクというよりNWのような気がするし、それはデビュー時から確信犯的に貫いてる。
盤全体の雰囲気も「夜」を感じさせ孤独感や寂寥感を滲ませたものとなっており、どことなくアダルティーなものを押し出しているようにも。そう思うと計算づくなのではないかと思う。そしてそれが成功しているのも見逃せない。勢いそのままに「らしさ」を加速させた作品だろう。クリアな音像も皮肉っぽい
聴いた日:01月19日 アーティスト:Police
SynchronicitySynchronicity
・83年発表5th。事実上のバンド最終作(解散は宣言されてない為)。同時にこれがバンドの最高到達点という印象もある。ロックにしてロックに非ず。というよりロックを徹底的に漂白した先にエスノポップと化し、なおかつ土着性を感じさせない無国籍感をより強調させてきた。
中東的なメロディや第三世界のリズムなどを取り入れながら、同時に西洋のメロディやジャズなどをも織り交ぜて、全世界の音楽を知的でクールなサウンドで総括する趣は、さながらサイバーパンク的なテクスチャーを伴っている。反面、ポップな響きは一つまみ程度。音は爬虫類の様に低温だ。
各音楽要素の取り上げ方は極めてデジタルで機械的なものを感じてしまうが、人が演奏する体温がある事がこの盤の雰囲気を独特にしている。面白いのは大ヒット曲7だろう。極限にまで音を削ぎ落としたゴスペルっぽい旋律で歌われる偏執狂の曲という諧謔に捩れたポップ感覚を味わう。80sを代表する名盤
聴いた日:01月19日 アーティスト:Police
Help (Dig)Help (Dig)
・65年発表5th。二度目の(同名)主演映画のサウンドトラックとしてリリースされた作品。と、同時にアイドル「ビートルズ」として最後の姿が記録されたアルバムでもある。恐らくこの盤までをバンド初期と目する見方が大勢なはずだ。事実、アイドルである事の疲弊感と音楽性の高まりが入り混じる。
というより、ヒットソングとアルバム収録曲にバンドの抱える問題が見え隠れしているように思う。この当時もはや押しも押されぬ世界的アイドルであり、曲を出せば売れることが必然というような重圧がある一方で、音楽性を追及したいバンド、ひいてはレノン=マッカートニーの意識が対立しあっている。
それがあからさまに出たのが、1でもあるが、それ以上にアルバム収録曲に目を向けると、ジョンもポールもそれぞれの個性が粒立っていき、ここにジョージまで加わって、音楽性の幅が広がり各人の個性が際立っていっているのだ。本作はそういう「成長」がアイドルでい続ける事への足枷と化している。
この盤が代表曲を3曲も収録しているにもかかわらず一枚のアルバムとして印象が薄いのも、抱えていた問題点が原因で全体の統一感が出せなかった為だろうと思う。代表曲が浮いてしまって、収録されてない方がまとまりが出てたのかもしれないと感じるほど悩ましい出来であるのは確かだ。
もちろんサントラという側面では、別段アルバムとしてまとまっていなくても問題はないし、本作の収録曲は粒揃いなので聞き応えのある作品に仕上がっている。既存のイメージと音楽的成長が拮抗しあった過渡期の作品だろう。内容は充実してるが聞き返す頻度は低いという、不思議な作品でもある。
聴いた日:01月21日 アーティスト:Beatles
Black Gives Way to BlueBlack Gives Way to Blue
09年発表4th。カリスマ的だったVo、レイン・ステイリーの死を乗り越えての14年ぶりの新作。一時期は解散も危ぶまれてたバンドには新メンバーが加入し、新たなる一歩を踏み出した。彼ら特有の陰鬱なグルーヴを纏ったダークなメロディは健在で、復活の狼煙にはこの上ない作品となった。
元々、バンドの中心人物のジェリー・カントレルもVoを取れるので、レイン不在の違和感があまりないのもその点が大きな要因だ。レインが背負っていたであろう閉塞感や息の詰まる切迫感、沈痛さがない為か、ダークながら一筋の光明とサウンドの開放感が感じられるのが最大の違いだと思う。
荒涼とした大地に響く地鳴り、のような趣でサウンドが開けた印象を受ける一方で、ダークでへヴィなグルーヴも強靭さを増し、14年分の分厚さを感じる。そこに混じる一摘みのポップさがいい塩梅だ。派手さはないがスワンプな趣もある無骨なへヴィロック。死を乗り越えて眩いばかりの生を感じる復活作だ
聴いた日:01月23日 アーティスト:Alice in Chains
What is ConstantWhat is Constant
15年発表2nd。新進気鋭のジャパニーズプログレの新作。40分余(4つのパートに分かれている)の組曲を含む全6曲。前作より表現の幅が広がり、シンフォニックな面やトラッドやカントリー的なヴァイオリンの響きに強靭になったアンサンブルが絡み合う点に成長を感じる。
平均年齢が若いせいもあるが、楽曲構成の妙より若さによる演奏の勢いも強く感じられ、それが盤全体の鮮烈さにも繋がっている。サウンド雄大さを推し進めながらも、エネルギッシュなプレイによって、熱気を感じられる意欲作に仕上がった。今後も勢いを衰えさせることなく邁進してほしいと思える傑作。
聴いた日:01月24日 アーティスト:ptf
Magic HotelMagic Hotel
02年発表2nd。前作以上にアーシーな雰囲気が濃くなり、タイトルの通り、サイケでマジカルな音がソウルフルに鳴り響く作品。英国らしい湿り気があったバンドだが今作は比較的カラッとした陽気さを目指しているようなのと、よりロック色を強めており、音としては骨太になった印象を受ける。
反面、前作のポップで軽妙な感じは薄らいだ感があり、メロディーの肌触りは分厚く重くなったか。どちらが好きかは好みの分かれる所ではあるが、グッドメロディーな部分は健在で朗らかな陽射しの中で紅茶でも飲みながら浸りたい気分になる。キレのいい前作からどっしりと構えた安定感のある良作。
聴いた日:01月25日 アーティスト:Toploader
onon
99年発表1st。宇多田ヒカルの登場によるR&Bブームの渦中にリリースされた初作。当時売り出し中のプロデューサーである大沢伸一朝本浩文を起用して、R&Bを始めヒップホップやアシッドジャズなども取り込んだクラブ仕様の音。当時らしいオフビートな躍動感もクラブサウンドに拍車をかける
汗臭くないファンキーさ、あるいはサイバーなグルーヴというか、オーガニックではないサイボーグなソウルミュージックと言う趣が強く、これはこれで快楽的で悪くないし、即効性のあるキラーチューンはないが中身はギュッと詰まった内容で、風化した印象もなく現代にも耐えうる良盤だろう。
聴いた日:01月25日 アーティスト:Sugar Soul,Sasaki Kumi,U-SKE ASADA,RYO the SKYWALKER
Afro-Cuban (Reis)Afro-Cuban (Reis)
・55年録音盤。3or4ホーン編成+パーカッション&コンガで吹き込まれたラテンフレーバー濃厚な、味わい深い一枚。サヴタージなメロディに導かれて、ラテンのリズムに自然と踊り出したくなる。元々1〜4が収録された10インチ盤に5〜7の3曲を増補したものが本作の構成となっている。
この為、前半と後半で趣がかなり違うのがよく分かる。前半4曲がラテン色の強いファンキーなサウンドに対し後半3曲はいわゆるジャズらしいブルージーな演奏。どちらも3ホーン、ないし4ホーンの編成なので重厚なホーンのアンサンブルが聞き応え十分。が、より魅力的なのは前半4曲だろうか。
ケニー・ドーハムのトランペットのフレーズは穏やかで端正な向きもあるので、そういった柔らかな音色にはラテンのキレのいいリズムが上手く映えているのかもしれない。それを抜きにしても、トランペットとサックスの絡みが楽しい作品だ。脇もホレス・シルヴァーアート・ブレイキーもいて安定感抜群。
聴いた日:01月28日 アーティスト:Kenny Dorham
ジャミロクワイジャミロクワイ
・93年発表1st。ジャズファンク/アシッドジャズの代表格の処女作。70sニューソウルの多大な影響とコズミックなフュージョンサウンドが混ざり合ったサウンドで、当時のUKクラブシーンを席巻した。そのオーガニックな音はアシッドハウスなどテクノ勢とは一線を画していた。
今聞くとフロントマンのジェイ・ケイの歌より、スチュワート・ゼンダーのベースとリズムに特化した音でそれらがメインに鳴り響く印象を受ける。この時点ではジェイ・ケイもグループの一員であり、後年ほど存在感は強くない為だろうか。グルーヴ重視のインスト色はクラブ仕様という向きも感じる。
グループの音を打ち出す勢いのまま、一塊の音として「らしさ」を提示した一枚だろうと思う。それだけにアルバムのまとまりも非常に良く、代名詞となったディジュリドゥインパクトも相俟って、きわめて鮮烈なデビューとなった。楽曲のキャッチーさはまだ発展途上だが、丁寧に練られた良盤に違いない。
聴いた日:01月31日 アーティスト:ジャミロクワイ
Return of the Space CowboyReturn of the Space Cowboy
・94年発表2nd。よりバンドサウンドが深化しファンクやソウル色が濃くなった作品。同時にスペーシーな趣も強くなり、ブラックミュージックの精神性と相俟って、非常にスピリチュアルかつ深遠な雰囲気が濃密である。あっさりしつつも粘っこいビートとリズムの拘りと供にメロディもかなり黒くなった
スティーヴィー・ワンダーの奏でるサウンドにジャジーなフレーヴァーとファンクの躍動感がスタイリッシュに絡まると言った方がわかり易いかもしれない。完全に黒くならず、適度にノド越しが良いのは、クラブというよりはディスコミュージックに通じるか。黒人音楽をポップスに突き詰めた結果ゆえの良作
聴いた日:01月31日 アーティスト:Jamiroquai

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